万年筆の選び方と魅力


筆記用具にこだわっていると稀に万年筆を購入したいと言われる事があります。

それも年配の方ではなく、20代後半の同年代に言われるのだから驚きます。

私が万年筆を使うのは学生の時分にオーストリアに住んでいた時の名残で、他の物で書くと「何となく落ち着かない」という極めて個人的な理由からです。

むしろ常用するに当たっては、圧倒的に不便な事の方が多いので、聞かれない限りは他人には勧めていません。

本当に欲しがっている人には、使う場所と用途を尋ねて、現行モデルの中から気に入ったものを選んでもらう事にしています。

万年筆は軸の太さとインクにより、使う場所や用途が異なる為です。

一般的に軸が太いほうが持ち手が疲れにくくて良いとされていますが、これらは室内(あるいは書斎)のみで用いられるものです。

外出時に持ち出さない事が、暗黙の共通認識となっています。

インクも軸内に吸入する形式のものが多いのですが、装飾性を重視したモデルではインクカートリッジを利用する事もあります。




一方、軸の細いものは、携帯性を重視している事が多く、場所を問わずに何処でも使えるものが大多数です。

コストダウンで 軸が割れてしまっても中のインクが滲み出てこないよう、吸入式を排して敢えてカートリッジインクを採用しているモデルが多い事が特徴です。

私はカートリッジインクが 割高 空き容器が多く出るので好みではないのですが、多くのモデルではカートリッジの代わりにコンバーターを装着する事で吸入式と、ほぼ同じ様にインク瓶からインクを吸入して使う事ができるようになります。

吸入式でカートリッジは使えませんが逆は可能な事が多いので、カートリッジ式でデザインが気に入った物が見つかったのであれば、即決してしまっても余り大きな問題にはなりません。

購入に注意が必要となるのは、過去のモデルを探している場合です。

ボールペンに取って代わられる以前のモデルはペン先が柔らかく、職人が手作業で仕上げた高品質なものが数多く存在するため、現行モデルよりも人気が高いものも存在します。

例によって、(ヨーロッパではよくある)フリーマーケットなどで捨て値で売られている過去のモデルを掘り出してきて、修理して使うので、私の手持ちの万年筆もほとんどが ジャンク ビンテージ物でした。

セルロイドやエボナイトなど、現在では使われなくなった素材を用いた万年筆を累積で30本は購入しました。

扱いが面倒なので、結局、その殆どを某オクで売却してしまいましたが、確かに現行モデルと比較するとグニャグニャと言えるほど、ペン先が大きく、柔らかいものが多かったのを覚えています。

この書き味に魅了される人がいるのは理解できなくもないですが、耐久性や修理の事などを考えると、現行モデルの方が遥かに気楽に使用できます。

手元に残っているのも、手放せなくなってしまったもの以外は、全て新品で購入した現行モデルです。

手放せなくなってしまうのは、使っているうちにペン先に持ち主の癖が着き、徐々に使い心地が良くなっていく為です。

私の場合、10代の頃から10年も同じペンを使用しているので、同じものを作ろうとしても作れないぐらいに手に馴染んでいます。

こうなると手放したくても、手放せなくなってしまいます。

それほど気に入っていなくても手元に残っているものは、時間が積み重なったものでもあります。

これが魅力と言えば、魅力です。

自分に適した一本を見つけて、時間を掛けて成熟させていく過程では「育てる」行為自体が楽しみでもあります。

だからこそ、最初の選択に慎重になるものですが、気に入った現行モデルを選んでおけば、大きく外れる事はありません。

反対に「有名なブランドだから」といった理由で決めてしまうと、後になって苦労する事が多いです。

カメラのレンズなどとは異なり、筆記具は中古市場が活発ではありませんので、よっぽど状態が良く、人気モデルでもない限り、オークションに流してもなかなか買い手が着きません。

好きなものを選んで、趣味らしく緩く使っていく事が、持て余さずに上手に長く付き合っていく秘訣です。

10年前ならともかく、スイスやフランスの学童でもない限り、昨今では日常的に使わなければならない場面など、まず、あり得ません。

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