雨のち晴れ – 霜降山の挑戦

先週末に英彦山でのヒルクライムついでに立ち寄った山口県に今週もまたやってきました。私のロードバイク生活の原点であるサザンセト・ロングライドに再び参加するためです。

前回の輪行時にロードバイクやビンディングシューズは持ち帰らずに置いてきたので、今回の手荷物は着替えの衣類とパソコンだけと軽量そのものです。預け入れ荷物がないと待ち時間もなく快適ですね。

サザンセト・ロングライドに参加するだけであれば岩国空港の方が便利ですが、預けていた自転車と出発時間の関係で同じ山口県の山口宇部空港に着陸します。

前回は雨が降り続いていた東京と北九州の青空が対照的でしたが、今回は反対に晴れた東京を発った後に着陸前から雨雲の歓迎を受けます。

日曜のロングライドに重なるように近づく台風に不穏なものを感じながら山口宇部空港へと降り立ちます。

あっさりとした豚骨風味の宇部ラーメン

昨年は事情を知らずに前日からライド開催地の柳井入りをしましたが、今年は当日の未明に会場に到着して出走手続きを行えば良い事を知っているので、ホテルを取るのが難しい柳井を避けて小郡 (新山口) に宿泊します。

今回の渡航目的はライドですが、それだけでは勿体ないので前日にホテル近くの霜降山を登ります。霜降山は宇部市の北方にある標高約250mのヒルクライムスポットで、地元のロードバイク乗りには「ちょうど良い練習場所」として知られているそうです。

時間に余裕を持たせているので輪行を行えば角島や千畳敷などの名所を訪れる事も不可能ではないのですが、先に述べた台風の影響もあってか天候が安定しないので近場となりました。

明け方、朝6時過ぎまでは小雨がパラついていましたが、7時過ぎになると土砂降りに変わり、9時を過ぎた頃には一転して雨が止みました。

雨雲レーダーを見る限り今後は降雨の心配はなさそうなので、サイクルジャージに着替えてホテルを後にし一週間ほど置いたままにしておいたロードバイクとビンディングシューズを回収します。

その足のまま霜降山方面へと向かいますが、朝から辺りが薄暗くなるほど雨雲も厚くなり、やがて小雨が振り出します。

降り出した小雨は勢いを増して局地的な土砂降りと形容した方が適切なほど激しい雨となります。

困ったことには宇部市街地からも新山口駅前からも10kmは離れていた地点にいた私には、この雨にできる対処は一切なく中国自動車道の高架の下に避難することの他にできることがありません。

雨雲レーダーには全く反応がありませんが強い雨がしばし降り続けました。

それから30分ほどして漸く雨が上がると雲間から青空が現れます。

ここで引き返すか続行するか逡巡しましたが、自転車を持って山口県を訪れられる機会が限られている事から簡易清掃を施してライドを続行する事を決断しました。

グローブの裏面を使ってホイールのブレーキ面を丹念に拭き取り、チェーンにこびり付いた砂を払って自転車に跨ります。

しかし霜降山の入り口に達した時には辺りは再び薄暗くなっていました。

今にも降りだしそうな曇天の下、ゲートを左折していよいよ登山道に入ります。

獲得標高 210m 平均斜度 5.7% という見かけ上のスペックに似合わず、霜降山の登山道は序盤から急斜面が続きます。

それもそのはずで霜降山は勾配の緩い区間と 22m の下りを含む2コブ山であるため、コース全体での斜度の平均値は実際の登り坂よりも低めに表れます。

午前中に降り続いた雨の影響もあり急斜面でダンシングすると後輪がスリップしてホイールが空転します。

勾配は特に短いストレートできつくなり、それらを繋ぐカーブで若干緩む傾向があり急勾配でシッティングを続けなければならないのが辛くなってきます。

路面は荒れてはいませんが栗や落ち葉などの障害物が多く気を抜いていると落車しそうです。

得意のペース配分で乗り切れないので、濡れた路面に足を取られないよう気を付けながら気合と我慢でクランクを回して頂上まで向かいます。

力押しで登りきったタイムは11分06秒。

雨上がりでさえなければクロモリの Raleigh CRN フレームに DT RR21-Dicut ホイールの組み合わせでも100秒ぐらいは縮められそうな感触がありましたが仕方ありません。

登り切ると駐車場と公衆トイレがあり、樹木の合間からは宇部市街を一望できます。

晴れていたら綺麗なのでしょうけど、登頂と同時に雨が降り出している状況では展望は全く期待できません。

本番である明日のロングライドに無事に参加できるよう早々に切り上げ、ホテルに戻って自転車の分解清掃と点検を行います。

秋吉台の壁 – 遅れてきた夏休み

前日からの雨天予報に加えて当日の朝になっても降水確率は60%を下回りません。

しかしホテルの窓から見える宇部市街地の景色は午前6時前から既に明るく、数時間後には灰色の雲を割って青空が拝める予感がします。

今日の夕方には東京へと帰りますが飛行機が飛ぶ迄にはまだまだ時間があります。

時間とロードバイクがあって雨が降っていないならすることは一つです。

せっかく山口県まで来ているのですから「最大斜度28%」のキャッチフレーズで有名な「秋吉台ナイト壁クライム」のコースを体験しない手はありません。




日本最大のカルスト台地は山口県のほぼ中心部に位置しており、私が宿泊している宇部市からは約40kmほど距離があります。

東京での40km (新宿から八王子) は心理的に遠いところですが、広くて空いている道が続き、信号もほとんどない山口県の40kmは半日もあれば十分に行き帰りできるところです。

部屋着からサイクルジャージに着替え、ホテルのクロークに貴重品を預け終えたら、みかんさんと合流して一路秋吉台を目指します。時間は午前9時30分。天気はところどころに青空が見えるまでに回復してきました。

途中に広がる景色の美しさと道路の走りやすさ (路上駐車や渋滞がないどころか車が余り来ない) に感嘆しながら90分足らずで秋吉台に到着します。

若干のアップダウンはありましたが今の私ならアウターギアで速度を落とさずに難なく乗り越えられるので特に困難はありません。何処に行くにも登り坂がある山口県の地形に驚愕していた1年前と比較すると大きな成長を感じます。

時間も限られているので、秋芳洞の駐車場 (秋吉台の麓) でドリンクを補給して目当ての「秋吉台の壁」にそのまま臨みます。秋芳洞から秋吉台に至る道は2つありますが傾斜がきつくて車がほとんど通らない方が「壁」であり、もう一方が一般的なルートだそうです。

もちろん選ぶのは前者です。平地から上の方を向いた道に突入すると斜度が絶え間なく上がり続けます。右側に曲がりくねっていて遠くからは見えませんでしたが、休む間を一切与えない無慈悲な坂が登りきるまで延々と続いています。


このクラスの坂の多くは人気も疎らな林道が多いので傾斜のきついところは大きく回ったり蛇行する事もできますが、ここは車がほとんど通らないとは言え片側1車線の普通の道路である事が攻略難易度を上げています。

普通に車が通る道である以上、ふらつきや蛇行などはできません。白線の直ぐ傍を維持しながら確実に淡々と登っていきます。幸い百草園のように急勾配に前輪が浮くような事はありません。「斜度28%」と聞いてある程度の覚悟はしていたのですが、一向にその瞬間が訪れないままに登りきって交差点に達してしまいました。

思いの外の短さと噂の割には「まとも」な道であったことに拍子抜けしましたが、それでも平均斜度18%の坂はある程度の訓練を経た上でなければ登れません。

ヒルクライムとは必要とされるスキルが少し異なりますが十分に楽しめる名所である事は確かでした。

インパクトと落車の危険性で言えば百草園の方が甚だしい気がしますが、どちらも「激坂」として十分に通用するスペックを持っている事は間違いありません。

登り終えたら交差点まで引き返し、今度は展望台方面に登ります。

展望台付近には峠の売店と小さな食堂があり、名物の夏みかんソフトクリームが味わえます。せっかくなのでソフトクリームだけでなく夏みかんジュースと秋吉台高原牛肉うどんも頂いて昼ごはんとしました。



牛丼のような味付けの牛肉と麺類の組み合わせは山口県に良くあるようで、食べながら川棚温泉の瓦そばを思い出しました。

食後は「壁」ではなく、秋芳洞から秋吉台に至るもう一方の道を経て宇部を目指します。

こちら側から見える景色は最高で、遠くまで見通せる開けた草原はさながら標高2000m超の高原の様です。

先ほど「壁」の方が傾斜がきついと書きましたが、こちら側でも時折7%から9%の下り注意の看板が出てきますので景色に見とれてばかりもいられません。




非日常的な美しい風景に後ろ髪を引かれながら刻々と迫る飛行機の離陸時間を意識します。

下り基調とは言え、それなりに距離がありますので意識を切り替えて走りに専念することが肝要です。途中で道を間違えて登らなくても良い涼木峠を越えたり、帰りの獲得標高が497m (行きは「壁」も含めて483m) に達したりと些細なアクシデントがありましたが2時間30分ほどで宇部に到着する事ができました。

到着後は洗顔シートで全身を拭き、化粧室でジャージから普段着に着替えて、無事に東京への飛行機へと乗り込みます。

どこにも行かずに仕事をしていた盆休み代わりの私の休日(前半)は、こうして終了しました。

ありがとう、みかんさん。さようなら、山口県。

また今週末まで。

海峡を越えて

英彦山でのヒルクライムレースを終えたみかんさんと私は、雨の中の閉会式を待たずに九州自動車道を北上します。

目指すは関門海峡、そしてみかんさんの地元である山口県です。

偶然にも道中の和布刈パーキングエリアに立ち寄った事で、PA内の展望台の上から関門海峡を一望する事になります。

関門海峡(左岸が門司・右岸が下関)

下関と北九州の特産品に加えて九州の名物料理の売店がある辺りが地域柄を反映していて興味深いところです。



しばしの休憩を終えて本線に戻ると直に関門橋に入り間もなく本州に至ります。

海峡を越える瞬間は本当に短いのでレイボーブリッジを越えて東京湾の埋め立て地に向かう際と似た様な印象がありますが、徒歩や新幹線では拝めない景色が眺められるので一度は車で訪れる価値がありそうです。

九州道の門司から中国道の下関に入ると景色が大きく変化します。

九州道は企救半島の山間部を通るので両側を高い山に囲まれて、まるで中央道を長野に向かって走っているかのような気分になりますが、中国道では遠くに連なる山々と朱色の瓦屋根の民家が山口県西部である事を感じさせます。

この独特の朱色の瓦屋根とオレンジ色のガードレールは山口県に特有のものです。



程なくして宇部に到着した後はホテルに荷物を預けて地元で評判の焼肉料理店に訪れます。

山口県の名産品は夏みかんらしいですが、この料理店で出されたファジーネーブル(オレンジの一種)のカクテルも非常に美味だったので、飲酒しない私にしては珍しく何杯も飲んでしまいました。

明日はいよいよ東京への帰りとなります。

飛行機は夕方の便なので、その前に訪れたいところがあるのですが天気予報は生憎の雨。過去に「晴れ属性」と名誉なニックネームを頂戴した幸運を信じつつホテルへと戻ります。

続く

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