毎朝、同じ場所を同じ時間に走り込んでいると、同じ人に遭遇することが良くあります。英国人だったり、フィリピン人だったりと、いろいろなサイクリストがいますが、何度も顔を合わせているとお互いに顔やジャージやバイクを覚えてしまったりします。
これは東京から香港に場所を移しても変わるところはありません。練習し続けているうちに知り合いが増え続けて、いつの間にかライドへの参加を尋ねられるようになります。
香港のサイクリストがライドに出かけるのは、主に九龍の界限街 (Boundary St)の北、獅子山 (Lion Rock Hill) のさらに北側に広がる新界の沙田海 (Sha Tin Hoi)、荃灣 (Tsuen Wan) 、南生圍 (Nam Sang Wai)といった海沿いの地域です。
新界は特別行政區の面積の 85% 以上と人口の半数ほど、そして 200 もの周辺諸島を占める大きな地区ですが、港島や九龍といった中心市街地に付随する高層住宅地のほか、港湾、工業団地、発電所、そして大規模な郊野公園と大量の貯水池があります。
そうした水辺の多くには自転車専用道が張り巡らされており、それらを繋いでいくとおよそ 100km ほどのサイクリングルートになります。市街地を離れれば急勾配だらけの香港において、これほど長い距離の「平地」を走れるのはここだけとも言えます。
いずれにせよ、耕作地や熱帯魚の養殖場などの田園風景、八仙嶺(Pat Sin Leng)や馬鞍山(Ma On Shan)などの山岳風景、入り江と島嶼が生み出す海岸風景が楽しめて、自転車道をつないで深圳 (Shenzhen) との国境付近まで行けるので満足度が高いです。
真冬でも気温が 20℃ を超えている点も走りやすくて最高です。
この日は1年ぐらい前から仲良くなった二人組とサイクリングロード経由で沙田 (Sha Tin) から大埔 (Tai Po) へと出かけます。
港鐵 (MTR) 火炭站(Fo Tan Station)で待合せて構外に向かえば、そこがもう自転車道の入り口です。東鐵綫(East Rail Line)自体は港島からだと2回乗り換えないと行けないので不便ですが、駅前から自転車道へのアクセスは素晴らしいものがあります。
自転車道は歩道と完全に分離されており、時間帯によって比率は変動しますがロードバイクのようなスポーツ車とシティサイクルの割合はほぼ同じです。
市街地に近いところでは幼い子どももいたり、歩道から横断者が飛び出してくることもあるので注意が必要ですが、基本的には信号もなければ、車も入ってこれない快走路です。
アップダウンは車道の下側をくぐるときだけなので平坦な道がひたすら続きます。しかし周辺の風景が市街地、公園、海岸と目まぐるしく変わっていくので全く飽きることはありません。
ちなみに自転車道は幾つも分岐して馬鞍山站にもつながりますので、そちらをスタート地点にされても途中から合流できます。
自転車道を走り抜けたら、少し道をそれて山の方へ向かいます。
香港人のなかでの私の評価は「坂道にばかり突っ込んでいく頭のおかしい子」というものなので、私のために登坂に付き合ってもらうわけです。
最近では先の北海道旅行について話したせいで「一日に 200km 走る」という風評被害まで広がって収拾がつかなくなりつつあります。
そうして山を登るわけです。
とんでもない山奥まで来たように見えますが、これが Global Financial Centres Index で世界第3位と第9位に位置づけられる国際金融都市の境界付近です。
この辺りまで来ると車の往来も極端に少なくなりますので、斜度が気にならなければ静かで環境もいいです。
ここで二人のお気に入りだという茶座に案内してもらいました。
よく晴れた暖かい日には冷たい紅茶が美味しいです。この日の気温は 24℃ もあって湿度も 70% を越えていたので、気分は完全に初夏のそれです。
補給を済ませた後は夕日を眺めに船灣(Plover Cove)へと引き返します。
地図上で船灣を眺めると一目瞭然なのですが、海の入り江だった部分をダムで堰き止めて作り上げられた人工淡水湖があります。
船灣の淡水湖は面積では域内一、水量では二番目の大きさを誇る香港の水瓶で、その上を走る気分はまるで『しまなみ海道』です。
画像の左手側は淡水、右手側は海水というのは何とも不思議な気分ですね。
運が良ければ、このあたりで野生のベンガルヤマネコも見れるそうです。
夕陽を堪能したあとは薄暗くなる前に市街地へと戻ります。
海沿いや川沿いのサイクリングロードが、その街灯の少なさから、日没後は一気に暗闇に飲まれていくのは日本と変わるところはありません。
香港の道路は舗装状態は悪くないですが、マンホールと継ぎ接ぎが大量に、段差がそれなりにあるため、視界が悪くなるとやや危ないです。
明るいうちは変わりゆく景色に魅了される自転車道も、薄暗くなると一転して長くて平坦なだけの退屈な道に感じられるところがおもしろいです。
幸いなことに外気温が高くて、話し相手が二人もいるので、何も見えなくてもそれほど心細くもありません。遠出するならグループライドは良いものです。
いつも一人で出かけるのは行き先や時間帯が他人と合わないこと、良さそうな景色が眺められるのであれば登坂も厭わないことなどから、都合の付く人がいないだけで私はグループライドを嫌っているわけではありません。
そんなことを考えているうちに沙田の中心市街地へと戻ってきました。
駅で解散して本日のライドはこれでお終いです。
新界は港島よりも全体的に余裕があり、開拓のしがいがありますので、またそのうち走りに行きたいですね。