感染症,ヒルクライム, 新機材

世界的な渡航制限により研究施設にも製造施設にも取引先にも訪れることのできない現在、私はほぼ Android 内職屋に転職した感があります。

毎日のように引きこもって他人の書いた deprecated methods を今風の Kotlin コードに書き直しているうちに、筋力は減り、体重は増え、反射神経は衰えて、時差のせいで真夜中にかかってくる電話のために早朝に起きる習慣まで失って、順調に自転車に乗るための能力を日々喪失しつつあります。

危機管理能力は既に失われたらしく、久し振りの晴天に喜んでマスクを着けたままランニングに出かけたら、熱中症によって目眩と頭痛に悩まされる結果に終わりました。




こんなになるまで私が緊急事態宣言中に自分自身に課していた規則は3つだけです。すなわち、輪行しない(電車移動による他人との接触を避ける)、県境を越えない(無意味な悪法も法なので従う)、山道や未舗装路は通らない(事故や落車に遭遇する可能性を減らす)という単純なものです。

しかし、これだけの制限で私の環境では、自転車を楽しむことが不可能になってしまいます。

安全のために交通量の多い日中や混雑した市街地などを避けると、どうしても薄明かりの早朝時間帯に活動することになりますが、これでは落車の危険性を下げることはできません。

かと言って、日照時間を待てば人通りが増えて、他人との接触を避けることは現実的には不可能になります。その場合は輪行しなければ辿り着けないような山の中まで行かなければなりませんが、当然ながら医療資源の乏しい山間地への輪行も、宿泊も許容されないでしょう。

となると、行けるところがありませんので、自然と自転車には乗らなくなります。

乗らなくなると乗れなくなりますし、健康と体型を毎朝 50km 走って維持してきた私には体力も集中力も無くなって、良いことが一つもないです。

そんな最中に訪れた緊急事態宣言の解除、ライド解禁の合図に戸惑うばかりです。ただ、この状況でも一つだけ、私にも有利な点があります。香港ごと事業所がなくなりそうな私には、混雑した休日を避けて平日から出歩くことが可能なのです。

そうしたわけで、平日の人のいない時間を見計らって、近所で一番高い山にヒルクライムに出かけてみました。

県境を越えた移動も自由になったとは言え、感染拡大(とくに自分が伝染させる方にならないこと)に注意しなければならない点は変わりありませんので、自制心を働かせて自走で行って帰れる範囲内での行動を取ります。

近場とは言っても、この道路を直進すると標高 1,900m 平均勾配 10% 最大斜度 20% を超える『ふじあざみライン』という危険地帯に通じていますので、そちらは潔く素通りして篭坂へ向かいます。

いまの私では出力 170W でも実走においては1時間も持続できませんので、斜度 20% が 2km 近く続くあの『馬返し』を無事に越えられるわけがありません。

今回は久しぶりすぎて坂道を登る感覚を忘れていますので、路肩も広くて、見通しも良く、急勾配も存在しないという意味で安全な標高 1,104m の篭坂峠へと向かいます。

沼津や三島などの国道1号線沿いから篭坂に向かうと、出発点から御殿場まで上り坂しかありませんが、御殿場から須走までの間もさらに勾配のきつい上り坂しかありません。

篭坂峠はその勾配のきつい上り坂の延長上に位置する鞍点で、要するに約 40km に渡って上り坂しかありません 😁 反対方向から走行すると、信号停止後の漕ぎ出し以外ではクランクをほとんど回さなくても 40km 移動できます。

こうした特性から「途中でバテて足が動かなくなっても、引き返して来れば大丈夫」という妙な安心感も感じていました。

そんな警戒とは裏腹に、登り始めてみると身体が覚えている感じで、想定していたよりもずっと簡単に坂を登れます。体重も重くなっていて、筋力も持久力も低下しているはずなのにランニング時のように息切れもせずに、大きな苦労も感動もないままに気がついたら篭坂峠まで到着していました。

一度、鍛えた心肺機能は筋力ほどは簡単には衰えないのかも知れません。

ただ良かったのは登りだけで、そこから引き返して峠道をくだってみると思ったように身体が動かなくて愕然としました。

さきに述べましたように、ここは勾配も緩くて、路肩が広く、線型が良くて見通しが良いので比較的ダウンヒルでも安全、多すぎる交通量(東名と中央高速を接続する迂回路となっておりトラックなどの大型車が多い)さえ無ければ、わりと下りでも楽しめる道です。

ところがバランス感覚と危機管理能力が衰えている今の私では、ヘアピンカーブで落車しかねませんので、後ろから車やバイクが通るたびに路肩に止まって先に行ってもらうようにせざるを得ませんでした。

以前から遅かった下りも更に遅くなくなりました。それはもう、ふつうに平地を走っているときのほうが速いほどです。

死角から飛び出してきた対向車が中央線をはみ出しただけでも意識を奪われ、コーナーでは思ったように体幹で曲がれず、狙ったところで止まれなくなっていたために、前後どちらかのブレーキレバーを絶えず引き続ける結果になりました。

おまけとして体重が増えたせいか、少スポークな後輪のリムが円形を保てずにキャリパーブレーキに引っ掛かる感触を頻繁に感じます。ロードバイクに乗りはじめてから5年超の歳月を経て、初めてディスクブレーキの必要性を切実に感じました。

安全な篭坂だから良かったようなものの、たとえば、車一台がギリギリ通れるほどの狭さで、週末になると地方都市の繁華街並みの密度でハイカーがうろつき、平均斜度 10% の急勾配に落石だらけの危険な路面を併せ持つ和田峠(東京)などに行こうものなら、事故を起こしても何の不思議もありません。

数週間ぶりのヒルクライムは現状に対する強い危機感と新しい機材に対する渇望を感じさせました。

思うに身体も小さめで体重も軽かった私だからこそ、リムブレーキでも何の問題も感じていなかったわけで、私よりも身長もずっと高くて、筋力も体重もあるようなライダーの方が制動力の問題は切実に感じられるように思われます。

手が小さく握力が小さな女性にオススメという誰が言い始めたのかも不明なセールストークも、よく考えてみると体重がずっと軽くて、ヒルクライムでも男性ライダーを難なく追い抜いてしまう女性ライダーに本当にそんな強力な制動力が必要なのか、と前提が疑わしく感じられてきました。

他人の言葉などに惑わされずに本当に自分に必要なものは何なのか、きちんと考えてみないとダメですね。

とりあえず、私は気温や天候やカーボンリムの温度を考えられずにブレーキレバーを引きたいときに引けるディスクブレーキ、重たい体重を支えられるスポーク数のホイール、それから山梨県や北海道によくあるグルービング施工路面(坂道で事故を誘発する危険極まりない縦溝)にハンドルを取られないぐらいの太いタイヤが早急に欲しいです。

絶景の菜の花 浪漫街道 – 渥美一周サイクリング

渥美半島は愛知県の南東部にある景勝地です。「常春」の形容詞で知られる温暖な気候と遠州灘に由来する強風によりサーフ・リゾートとして知られます。

浜松を起点にして地図を眺めると浜名湖を挟んだ対岸が半島の入り口にあたり、自走でも何とか日帰りできる範囲に全域が含まれることが見て取れます。つまり、行こうとすれば、いつでも行ける場所(とは言っても最近は一年の半分以上は日本に居ないわけですが)。

それにも関わらず、今までに縁がなかったのは浜名湖の南岸あたりが自転車にあまり優しくないからです。

弁天島周辺の橋は軽車両の車道走行が禁止されており、片側にしか整備されていない歩道は頻繁に途切れて行き止まりになります。そして標識を頼りに進むと高速道路の入り口に誘導されることまであります。

その先にある愛知県も「さぞや交通量が多いのだろうな」という偏見から、敢えて行く必要もないかと漠然と考えていました。ところが実際に足を運んでみると、実に見どころの多い地域で久し振りに活字で記録を残したくなりました。

三河ってこんなに良いところだったのか。




出発地点は浜松の伝馬町交差点。時刻は6時11分。もう季節は春だけあって、この時間から日が昇っています。しかし、センサの示す気温は 4℃ を下回り、風速 6m/s の南西の風が吹き続けています。

停止時でも体感温度は 0℃ ぐらいでしょうか。信号停止が寒くて仕方がありません。

雄踏街道(静岡県道62号)と東海道(国道257号)のどちらを通るか迷いましたが、朝方で交通量も少なかったので後者を選びました。ちなみに字面から受ける印象とは真逆で、片側一車線の東海道よりも雄踏街道のほうが広くて交通量が多いです。

そのまま浜名湖を通り過ぎて、東海道に沿って西進をつづけると本日唯一のヒルクライムスポットである潮見坂にたどり着きます。ここを登りきったら愛知県はすぐ目の前です。

地図上で見ている限りでは静岡県と愛知県の県境付近は違いがないように見えますが、自転車で走ってみると静岡は海抜 10m 未満の平地に市街地が広がっているのに対して、愛知は 20m 以上の台地が続いていることが印象的でした。

そんなことを考えているうちに寒さと低血糖で足が回らなくなってきたので、2km 先に見えた『道の駅とよはし』に立ち寄り、地元産の素材を使用したカツサンドと特製の『渥美半島黒糖ミルクコーヒー』の朝食をいただきました。

コーヒーのほうは甘くて美味しかったので、おかわりして二杯目は「激熱」にしてもらいました。寒さと向かい風のせいで心が折れかかっていたところを甘いコーヒーで見事に気力が漲ってきました。

現在地を確認すると浜松から現在地までの距離と、現在地から渥美半島の先端までの距離がちょうど同じぐらいの距離でした。この分だと先端の伊良湖岬でつぎの補給を行うと良さそうに思えたので、まっすぐに伊良湖岬を目指すつもりで渥美半島入りを果たします。

はじめて訪れる渥美半島の印象は「三浦半島の南部によく似ている」というものでした。

海岸近くの高台に特有の起伏の少なさも、「遠くまで見渡せそうに見えてあまり先が見えない」感じも、道路沿いに広がるキャベツ畑も三浦半島にあってもおかしくない光景です。

違いと言えば三浦半島は汐入から横須賀、観音崎、浦賀、久里浜、三浦海岸、城ヶ島、三崎口を経由して逗子まで行っても 60km 程度にしかならないところ、渥美半島は伊良湖岬に行くだけでも片道 50km の距離があります。

これだけの長さがあると車の交通量もそれなりに多いです。しかも地域の生活道路と主要道路の役割がすべて2本の国道だけに集中しているのか、大型トラックも他県ナンバーの車も頻繁に通行するところを農耕車が走っていたりもします。

ただ全体的に安全運転でマナーの良い運転手が多いので、道中で危険を感じることは一度もありませんでした。横断歩道で停止して歩行者に道を譲る運転手も伊豆や茨城東部と並ぶほどの頻度で見かけたので、愛知県民の印象が非常に良くなりました。

それでも国道沿いの景色は単調なので、どこまでも続くかのようなキャベツ畑の光景を見飽きたら、時おり高台を降りて海沿いの道路を走ります。

途中には『田原豊橋自転車道』『渥美サイクリングロード』という興味を惹かれる標識もあるのですが、未完成なのか、自然災害で寸断されたのか、少し進んでみると工事中で行き止まりになるところが大半です。

周辺の景観の良さ、伊勢・紀伊半島と豊橋・浜松とを結ぶ経路としての役割から全通したときのポテンシャルの高さは強く感じます。

そのサイクリングロードも伊良湖岬に近づくに連れて、一段と景色が良くなっていきます。そして、いよいよ終点に近づくと・・・

一面の菜の花と高台から見下ろす海の青が広がります。

「ああ、この光景を眺めるために逆風の中を 80km も走り続けてきたんだな」と感慨に耽ると心を揺り動かされる気分です。

対岸に向かい合うのは志摩半島です。ここは渥美半島の終端であると同時に近畿地方への入り口でもあるわけです。

折り返し地点を過ぎたら、今度は道なりに豊橋を目指します。基本的には国道を直進すれば良いのですが、三河湾側もなかなかに交通量が多く、道幅も狭いので通りやすい道路に逸れていくうちに若干迷子になりました。

往路に通った台地とは打って変わって、こちら側は低地に見られる平坦な耕作地が大部分の面積を占めているので、半島らしい趣はあまり感じられません。ここが普通の平野部ではなく半島の一部であることを思い起こさせるのは、河川(橋梁)の少なさと耕作地が水田ではなく畑作地であることぐらいです。

三河湾を挟んで対岸に見えるはずの大地も高い山がないためか、大きな川の向かい側にしか見えない点も少し残念です。その一方で荒々しい遠州灘とは対照的に水面は静かで、透明度の高い水を楽しめます。これこそ日本の海です。

海岸線を充分に満喫して、三河港を越え、豊橋市内まで戻ってきたときには手脚も冷え切り、心も疲れ果てていて、久し振りに何もしたくない気分になりました。当初はあと 40km 走って浜松まで自走で帰るつもりでいたところを、「集中力を切らして事故を起こすぐらいならば」という気分になったので豊橋で一泊して回復してから戻ることにしました。

振り返ってみると「行ってよかった」と断言できますが、半島特有の風の強さ、頻繁に遭遇する信号ストップ、おおよそ道の駅しか当てにできない補給場所の少なさ、例外的な低温など、さまざまな要素が重なると奥多摩で山越え 2,500m UP するよりも厳しいライドになることを身をもって実感しました。

次回は渥美半島から伊良湖水道を通って熊野にも行きたいですね。

ドイツで試したツーリング自転車

MTB のフレームをベースに、スリックタイヤを履かせて、泥除けとキャリアを付けた自転車を日本では何と呼ぶでしょう。

正確な名称や分類は不明ですが、ドイツの街中を走っている自転車には、こういう形をしたものが多いです。いわゆるシティサイクル、あるいはコミューターバイクと言うやつですが、日本の「ママチャリ」と比較すると価格やパーツ構成に大きな違いがありますので、ここでは便宜的に「ツーリングバイク」と呼びます。

これも曖昧で誤解を招きかねない表現ですが、キャリアを設置することを前提とした長いチェーンステー、直進安定性を重視したホイールベース、ボトムブラケットからハンドルまでのリーチの短さ、そして何よりも 700 x 40C の太いタイヤを標準装備しているところは KOGA WorldTraveller や Genesis Tour de Fer のような本物のツーリングバイクに通じるところが有ります。

私がまだロードバイクを購入する前、ランドナーを探していたときに想定していた「旅する自転車」というのも、こういう自転車でした。

ただ一つ個性があるとすれば、この自転車にはサスペンションフォークが付属します。

これはドイツ人の好みで、一般的に見かける街乗り自転車の半分ぐらいにはサスペンションが付いているぐらいドイツでは溢れています。

フランスやオランダやデンマークのような隣国に行くと、ドイツほどフロントサスペンションが付いている自転車を見かけませんので、ただただドイツ人の好みを反映しているように見えます。

おそらく自転車レーンに従って走行していると、車道と歩道を行ったり来たりして頻繁に段差を乗り越えることになるためでしょう。オフロード走行のための装備ではないと思われます。




フロントサスペンションの効果はいまいち実感できませんが、自転車の乗り心地に少しばかりは寄与しているのかも知れません。

そういうのも 40C の Continental Contact Plus City Reflex タイヤが路面からの衝撃の多くを解消してしまいますので、フレームやサスペンションの個性も誤差ぐらいにしか感じないからです。

エアボリュームは正義だとはっきりと分かるところです。

ロードバイクに乗り慣れていると走行中の微細な振動や突き上げがないので、乗り心地は同じ自転車とは思えないほどマイルドな反面、加速感には欠ける印象です。ただし、力が逃げているような感触や車体の重さに引っ張られる感覚はありません。

走り出しが重いと感じたことはありませんが、足を止めると失速するのも速いです。時速 25km/h 以上の高速走行を維持するのは難しいと感じました。

しかし、平均時速 18km/h ぐらいまでの移動速度であれば、1日10時間以上のライドでも無理なく継続できそうだとも思われました。

ここまでで気掛かりな点があるとすれば、敢えて挙げれば貧弱なブレーキぐらいです。

これもロードバイク基準では不安になるところを、40C の太いタイヤであればオフロードでも十分にグリップするので、走っているうちに気にならなくなりました。

こういうのを経験するとブレーキの制動力はタイヤの性能に依存することが良く分かります。

なおタイヤを入れ替えたら少し滑るようになりましたので、どんな天候や路面状況でも確実を期したいならディスクブレーキのほうが良さそうです。

とは言え、舗装路を走っている分には全く問題になりません。

バイエルン州の場合、未舗装路のサイクリングロードが意外とたくさんあるので、これらを楽しまれる場合には少し工夫が必要かも知れません。

バイエルンで週末ごとに 150km ぐらい走り回っていると、オフロードを走る機会もそれなりに得られます。

例年ですと、この時期は降雪によって路面が泥濘んでいたり、気温が -5℃ を下回って外出するだけで肌が痛くなるものですが、今年は日中の最高気温が 8℃ から 11℃になるほど暖冬なので自転車に乗る機会も格段に多いです。

まあ冬の間の天気が悪いのは、いつものことなので気にしてはいけません。一帯が水路ごと凍結していないだけマシです。

そうした悪天候や路面の悪さを考えるとロードバイクよりも安定して使えるのは利点ですが、絶対的な移動速度が遅いので走行距離が思ったように伸びないのと、ポジションの自由度があまり高くないのは欠点かも知れないと思えてきます。

車体が頑丈で、荷物も運べて、長距離走行に適しているのは立派な個性ですが、駐輪時の盗難に気を遣うのはロードバイクと変わるところはありませんので、なかなか一台で万能につかえる自転車を考えるのは難しいところです。

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