春疾風の箱根

箱根が好きな人は小田原から箱根湯本、宮ノ下、小涌谷、元箱根に連なる温泉郷を「表」と呼び、すすきが広がり、美術館が林立する仙石原を「裏箱根」と呼ぶそうです。

聞いたところでは、前者ではマラソンや大文字焼きなどのイベントが行われ、メディアに取り上げられる機会も多いとか。

しかし、これ、自転車では正反対ですよね。

箱根と言えば、眼下に一望できる相模湾、そびえ立つ富士山、海から空へと続くかのような高原道路。それらを抱える仙石原、足柄峠、長尾峠、箱根峠、椿ラインこそが「表」で、華がない国道1号は「裏」です。

そして自転車乗りには知られていない激坂、絶景スポットが大涌谷であり、行かなくていいところが旧東海道と乙女峠です。




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新緑の箱根

平日の箱根は良さは筆舌に尽くしがたい。

箱根と言えば関東を代表する渋滞スポット。東京、名古屋、大阪を結ぶ東西の大動脈の一番の難所にして、関東有数の温泉郷、さらに富士箱根伊豆の国立公園にして日本最大級の観光名所でもあります。

その盛況ぶりは渋滞時の通行速度や駐車場に至るまでの待ち時間の目安が県道沿いに掲載され、箱根独自の混雑予想ウェブサイトが立ち上がるほどのものです。

しかし、それらはすべて休日の話。

平日の箱根に聞こえるのは野鳥のさえずりと緑を揺らす微風の音ばかりです。




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感染症,ヒルクライム, 新機材

世界的な渡航制限により研究施設にも製造施設にも取引先にも訪れることのできない現在、私はほぼ Android 内職屋に転職した感があります。

毎日のように引きこもって他人の書いた deprecated methods を今風の Kotlin コードに書き直しているうちに、筋力は減り、体重は増え、反射神経は衰えて、時差のせいで真夜中にかかってくる電話のために早朝に起きる習慣まで失って、順調に自転車に乗るための能力を日々喪失しつつあります。

危機管理能力は既に失われたらしく、久し振りの晴天に喜んでマスクを着けたままランニングに出かけたら、熱中症によって目眩と頭痛に悩まされる結果に終わりました。




こんなになるまで私が緊急事態宣言中に自分自身に課していた規則は3つだけです。すなわち、輪行しない(電車移動による他人との接触を避ける)、県境を越えない(無意味な悪法も法なので従う)、山道や未舗装路は通らない(事故や落車に遭遇する可能性を減らす)という単純なものです。

しかし、これだけの制限で私の環境では、自転車を楽しむことが不可能になってしまいます。

安全のために交通量の多い日中や混雑した市街地などを避けると、どうしても薄明かりの早朝時間帯に活動することになりますが、これでは落車の危険性を下げることはできません。

かと言って、日照時間を待てば人通りが増えて、他人との接触を避けることは現実的には不可能になります。その場合は輪行しなければ辿り着けないような山の中まで行かなければなりませんが、当然ながら医療資源の乏しい山間地への輪行も、宿泊も許容されないでしょう。

となると、行けるところがありませんので、自然と自転車には乗らなくなります。

乗らなくなると乗れなくなりますし、健康と体型を毎朝 50km 走って維持してきた私には体力も集中力も無くなって、良いことが一つもないです。

そんな最中に訪れた緊急事態宣言の解除、ライド解禁の合図に戸惑うばかりです。ただ、この状況でも一つだけ、私にも有利な点があります。香港ごと事業所がなくなりそうな私には、混雑した休日を避けて平日から出歩くことが可能なのです。

そうしたわけで、平日の人のいない時間を見計らって、近所で一番高い山にヒルクライムに出かけてみました。

県境を越えた移動も自由になったとは言え、感染拡大(とくに自分が伝染させる方にならないこと)に注意しなければならない点は変わりありませんので、自制心を働かせて自走で行って帰れる範囲内での行動を取ります。

近場とは言っても、この道路を直進すると標高 1,900m 平均勾配 10% 最大斜度 20% を超える『ふじあざみライン』という危険地帯に通じていますので、そちらは潔く素通りして篭坂へ向かいます。

いまの私では出力 170W でも実走においては1時間も持続できませんので、斜度 20% が 2km 近く続くあの『馬返し』を無事に越えられるわけがありません。

今回は久しぶりすぎて坂道を登る感覚を忘れていますので、路肩も広くて、見通しも良く、急勾配も存在しないという意味で安全な標高 1,104m の篭坂峠へと向かいます。

沼津や三島などの国道1号線沿いから篭坂に向かうと、出発点から御殿場まで上り坂しかありませんが、御殿場から須走までの間もさらに勾配のきつい上り坂しかありません。

篭坂峠はその勾配のきつい上り坂の延長上に位置する鞍点で、要するに約 40km に渡って上り坂しかありません 😁 反対方向から走行すると、信号停止後の漕ぎ出し以外ではクランクをほとんど回さなくても 40km 移動できます。

こうした特性から「途中でバテて足が動かなくなっても、引き返して来れば大丈夫」という妙な安心感も感じていました。

そんな警戒とは裏腹に、登り始めてみると身体が覚えている感じで、想定していたよりもずっと簡単に坂を登れます。体重も重くなっていて、筋力も持久力も低下しているはずなのにランニング時のように息切れもせずに、大きな苦労も感動もないままに気がついたら篭坂峠まで到着していました。

一度、鍛えた心肺機能は筋力ほどは簡単には衰えないのかも知れません。

ただ良かったのは登りだけで、そこから引き返して峠道をくだってみると思ったように身体が動かなくて愕然としました。

さきに述べましたように、ここは勾配も緩くて、路肩が広く、線型が良くて見通しが良いので比較的ダウンヒルでも安全、多すぎる交通量(東名と中央高速を接続する迂回路となっておりトラックなどの大型車が多い)さえ無ければ、わりと下りでも楽しめる道です。

ところがバランス感覚と危機管理能力が衰えている今の私では、ヘアピンカーブで落車しかねませんので、後ろから車やバイクが通るたびに路肩に止まって先に行ってもらうようにせざるを得ませんでした。

以前から遅かった下りも更に遅くなくなりました。それはもう、ふつうに平地を走っているときのほうが速いほどです。

死角から飛び出してきた対向車が中央線をはみ出しただけでも意識を奪われ、コーナーでは思ったように体幹で曲がれず、狙ったところで止まれなくなっていたために、前後どちらかのブレーキレバーを絶えず引き続ける結果になりました。

おまけとして体重が増えたせいか、少スポークな後輪のリムが円形を保てずにキャリパーブレーキに引っ掛かる感触を頻繁に感じます。ロードバイクに乗りはじめてから5年超の歳月を経て、初めてディスクブレーキの必要性を切実に感じました。

安全な篭坂だから良かったようなものの、たとえば、車一台がギリギリ通れるほどの狭さで、週末になると地方都市の繁華街並みの密度でハイカーがうろつき、平均斜度 10% の急勾配に落石だらけの危険な路面を併せ持つ和田峠(東京)などに行こうものなら、事故を起こしても何の不思議もありません。

数週間ぶりのヒルクライムは現状に対する強い危機感と新しい機材に対する渇望を感じさせました。

思うに身体も小さめで体重も軽かった私だからこそ、リムブレーキでも何の問題も感じていなかったわけで、私よりも身長もずっと高くて、筋力も体重もあるようなライダーの方が制動力の問題は切実に感じられるように思われます。

手が小さく握力が小さな女性にオススメという誰が言い始めたのかも不明なセールストークも、よく考えてみると体重がずっと軽くて、ヒルクライムでも男性ライダーを難なく追い抜いてしまう女性ライダーに本当にそんな強力な制動力が必要なのか、と前提が疑わしく感じられてきました。

他人の言葉などに惑わされずに本当に自分に必要なものは何なのか、きちんと考えてみないとダメですね。

とりあえず、私は気温や天候やカーボンリムの温度を考えられずにブレーキレバーを引きたいときに引けるディスクブレーキ、重たい体重を支えられるスポーク数のホイール、それから山梨県や北海道によくあるグルービング施工路面(坂道で事故を誘発する危険極まりない縦溝)にハンドルを取られないぐらいの太いタイヤが早急に欲しいです。

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