ドイツで試したツーリング自転車

MTB のフレームをベースに、スリックタイヤを履かせて、泥除けとキャリアを付けた自転車を日本では何と呼ぶでしょう。

正確な名称や分類は不明ですが、ドイツの街中を走っている自転車には、こういう形をしたものが多いです。いわゆるシティサイクル、あるいはコミューターバイクと言うやつですが、日本の「ママチャリ」と比較すると価格やパーツ構成に大きな違いがありますので、ここでは便宜的に「ツーリングバイク」と呼びます。

これも曖昧で誤解を招きかねない表現ですが、キャリアを設置することを前提とした長いチェーンステー、直進安定性を重視したホイールベース、ボトムブラケットからハンドルまでのリーチの短さ、そして何よりも 700 x 40C の太いタイヤを標準装備しているところは KOGA WorldTraveller や Genesis Tour de Fer のような本物のツーリングバイクに通じるところが有ります。

私がまだロードバイクを購入する前、ランドナーを探していたときに想定していた「旅する自転車」というのも、こういう自転車でした。

ただ一つ個性があるとすれば、この自転車にはサスペンションフォークが付属します。

これはドイツ人の好みで、一般的に見かける街乗り自転車の半分ぐらいにはサスペンションが付いているぐらいドイツでは溢れています。

フランスやオランダやデンマークのような隣国に行くと、ドイツほどフロントサスペンションが付いている自転車を見かけませんので、ただただドイツ人の好みを反映しているように見えます。

おそらく自転車レーンに従って走行していると、車道と歩道を行ったり来たりして頻繁に段差を乗り越えることになるためでしょう。オフロード走行のための装備ではないと思われます。




フロントサスペンションの効果はいまいち実感できませんが、自転車の乗り心地に少しばかりは寄与しているのかも知れません。

そういうのも 40C の Continental Contact Plus City Reflex タイヤが路面からの衝撃の多くを解消してしまいますので、フレームやサスペンションの個性も誤差ぐらいにしか感じないからです。

エアボリュームは正義だとはっきりと分かるところです。

ロードバイクに乗り慣れていると走行中の微細な振動や突き上げがないので、乗り心地は同じ自転車とは思えないほどマイルドな反面、加速感には欠ける印象です。ただし、力が逃げているような感触や車体の重さに引っ張られる感覚はありません。

走り出しが重いと感じたことはありませんが、足を止めると失速するのも速いです。時速 25km/h 以上の高速走行を維持するのは難しいと感じました。

しかし、平均時速 18km/h ぐらいまでの移動速度であれば、1日10時間以上のライドでも無理なく継続できそうだとも思われました。

ここまでで気掛かりな点があるとすれば、敢えて挙げれば貧弱なブレーキぐらいです。

これもロードバイク基準では不安になるところを、40C の太いタイヤであればオフロードでも十分にグリップするので、走っているうちに気にならなくなりました。

こういうのを経験するとブレーキの制動力はタイヤの性能に依存することが良く分かります。

なおタイヤを入れ替えたら少し滑るようになりましたので、どんな天候や路面状況でも確実を期したいならディスクブレーキのほうが良さそうです。

とは言え、舗装路を走っている分には全く問題になりません。

バイエルン州の場合、未舗装路のサイクリングロードが意外とたくさんあるので、これらを楽しまれる場合には少し工夫が必要かも知れません。

バイエルンで週末ごとに 150km ぐらい走り回っていると、オフロードを走る機会もそれなりに得られます。

例年ですと、この時期は降雪によって路面が泥濘んでいたり、気温が -5℃ を下回って外出するだけで肌が痛くなるものですが、今年は日中の最高気温が 8℃ から 11℃になるほど暖冬なので自転車に乗る機会も格段に多いです。

まあ冬の間の天気が悪いのは、いつものことなので気にしてはいけません。一帯が水路ごと凍結していないだけマシです。

そうした悪天候や路面の悪さを考えるとロードバイクよりも安定して使えるのは利点ですが、絶対的な移動速度が遅いので走行距離が思ったように伸びないのと、ポジションの自由度があまり高くないのは欠点かも知れないと思えてきます。

車体が頑丈で、荷物も運べて、長距離走行に適しているのは立派な個性ですが、駐輪時の盗難に気を遣うのはロードバイクと変わるところはありませんので、なかなか一台で万能につかえる自転車を考えるのは難しいところです。

Deutsches Museumの特設自転車展が面白い

Deutsches Museum と呼ばれるミュンヘンの博物館が、自転車誕生200年を記念して特設展示を催しています (2018年7月まで) 。

Deutsches Museum という通称からは何の博物館であるかの情報は得られませんが、正式名称は DM von Meisterwerken der Naturwissenschaft und Technik であって、つまりは自然科学と工学の偉業を対象とするドイツの博物館と言う意味です。

扱う対象は自然科学と技術、工学に関する全ての分野。

数学、物理、化学などの「基礎科学」から薬学、天体宇宙、生命科学と多岐に渡り、それに関連する測量、計算技術、またレンズや計測器などの機器から成果物であるプラネタリム、フライトシミュレータまでバランス良くまとめられています。

具体的な展示物を述べると、初期の航空機や発電機、アナログ計算機やアマチュア無線機、GARMIN eTrex や Super Nintendo といった身近な電子機器、実物の鉱山を模した坑道、岩塩、金属、大型の加工機械にまで及びます。

展示物の内容から、小さな子どもよりも知識と教養を持った大人の方が楽しめる場所と言っても良いかもしれません。

例によって、ところどころ英語の対訳がなくなって、おもしろい事を書いてあってもドイツ語のみであったりするので、その意味でも知識と教養を持った大人向けです。

個人的には地図作成に用いられる測量器や計算式、通信機器などが特に楽しめた点でした。




その科学技術博物館が、現在、自転車を対象に特設展示を催しています。

ただし、前述の展示内容を備えた本館ではなく、自動車や機関車など乗り物ばかりが集められた別館 Verkehrszentrum がその会場となります。

場所も川の中州になる本館から地理的に離れた Bavaria Park の隣にあり、本館の入場チケット (€ 11,-) を持って行っても別館には入れてもらえないので注意が必要です。

Verkehrszentrum は本館とは別の博物館という扱いで、別途チケット (€ 6,-) が求められます。

本館の方で尋ねた際は「全館で共通だ」と職員が言っていましたが、行ってみると実際には違ったというヨーロッパでは良くあることです。

対応する職員が異なれば、また違う反応が返ってくるかもしれませんが、それも日常茶飯事なので、いずれにせよ気にしてはいけません。

こちらは本館です

Verkehrszentrum には本館に見られるような詳細な原理の説明や体験施設はありませんが、50年前の無塗装ステンレス製 Porsche 911S や Trabant が解説もなしに無造作に常設展示されていたりします。

良くみると「分かる人には分かる」凄さを秘めた大人向けの博物館であることには変わりありません。

Porsche 911S は説明不要として、Trabant というのはドイツ (だけであるかどうかは私には分かりませんが) では東ドイツ、すなわち旧共産圏の象徴のような車です。

私も年齢的に冷戦は体験していないのですが、少なくとも統一後は、特にベルリンを含む東部では、そう扱われている姿を良く目にしてきました。

そして肝心の特設展ですが、約1世紀前のロードバイク実車、初期レースの資料、トライアスロン用途の競技自転車、最新の E-Bike に Lightweight のホイール、歴代のチェーンリング (1900年製のものから2017年製の DURA-ACE まで) 、新旧のサイクリングウェアと充実の内容でした。

フラッシュライトを使用しなければ写真も撮り放題で、前からでも横からでも好きな角度から思う存分に眺めている事ができます。

100年前のクランクはどうなっていたのか、ブレーキはどのように進化してきたのか、ハブやクランクの中身はどうなっているのか、革サドルを数十年使うとどうなのか、ホイールのスポーク組は昔から余り進化していないのだなと、実物を直近で眺めているうちに数時間が過ぎました。
このように素晴らしい展示内容ですが、少しばかり行きづらいことが難点です。

ミュンヘンは割と頻繁に訪れている私でも、そのうち行けばいいかと思いながらも、全体を見て回るのに十分な時間を取れないという理由で先送りしたりを繰り返していたぐらいです。

特設展示と Verkehrszentrum だけであれば、最低2時間ぐらいあれば全ての展示品を見て回ることは可能だと思われます。

本館はそれ自体で1日が潰せるほどの展示内容なので、Verkehrszentrum だけを訪れる際には Hauptbahnhof を挟んで反対側にある BMW Museum / Welt あたりと組み合わせて回るとちょうど良いかもしれません。

ドイツ語を話せずにドイツに来ると不便

30年近く生きてきてヨーロッパで警察官のお世話になったのも前回が初めてですが、ドイツにいてドイツ語が話せないというのも新鮮な経験です。

今までに気にした事がなかったので気がつきませんでしたが、ドイツでドイツ語を話せないと得られる情報が限定されて極めて不便です。

英語併記の少ないフランスと比較して、ドイツでは英語併記がより一般的なため空港や地下鉄や観光名所では英語の看板がある事も珍しくはありません。

しかし、郵送で荷物を送ろうとしたり、安くて古いホテルに泊まろうとしたり、鉄道が遅れたり事故があったりした場合は、英語だけではどうしようもありません。




ミュンヘンのような外国人の多い大都市でスーツケースを持っていると毎日のように英語で話しかけられるため、ドイツでは英語が通じるものだと今まで思い込んでいましたが、ドイツ語が話せない日本人と一緒に数日を過ごして見ると英語が苦手なドイツ人も一定数存在する事が分かります。

時制や動詞の語順、関係詞などに細かな違いはあれこそすれ、ドイツ語話者にとって構文の似通った英語は簡単だと信じて疑っていなかったのですが、どうやら地下鉄の中やホテルの受付で英語で話し掛けてくる人々は一部の例外で、多数派はそれほど英語が得意でもないという印象を受けました。

話し掛けられても「助けはいらない」とドイツ語で返答してしまうので、知る由もなかった訳ですね。

同類と見られているからなのか、時折、反対に他の旅行者から英語で道を聞かれたり、助けを求められる事もあります。こうした旅行者は現地のドイツ人やギリシャ人、トルコ人と外見や発音では区別できない事もありますが、必ずしもドイツ語が話せる訳ではありません。

何にせよ「英語でだけで何とかなる範囲」を注意して見ていると驚くほど限定的で、あまり多くは望めませんので不便な思いをするという結論に至ります。

続く

Contact Us