太魯閣渓谷と山道の危険性について

臺8線と呼ばれる中部橫貫公路 (中橫公路) にて開催されるはずであったヒルクライムレースが中止されたと聞いて、私は2つの意味で驚きました。

1つは、2017年9月現在、中橫公路が通行可能となっていたこと。

もう1つは、そこを会場としたレースなど、多くの人を集める催しが幾つも予定されていたことです (以下のリンクはその一例) 。

こう述べるのは、6月25日に当地で開催予定であったレースの延期理由に拠ります。

私も参加申込を行っていた大会ですが、台湾東部を襲った5月28日の豪雨により会場となる臺8線、および、開催地と台北とを結ぶ臺9線 (蘇花公路) の両方にて土砂崩れが発生。

中橫公路の谷關より東側の区間は封鎖され、大会は6月時点では開催時期未定の延期となりました。

それと前後して現地では地震が発生していたり、復旧工事が難航していたり、土砂崩れや落石の可能性が高い場所が確認されていたりと、メディアでは中橫公路の危険性が報じられていました。

花蓮縣では9月初旬にも小規模な地震が発生するなどの懸念事項がありましたが、安全性について最大の懸念事項は何と言っても大会延期の遠因となった雨です。

花蓮や (蘇花公路が縦貫する) 宜蘭といった台湾の東海岸では 8月、9月、10月 にかけて降水量が大幅に増加する傾向にあります。

中央氣象局全球資訊網『氣候統計』より花蓮の月平均降水量 (mm) をプロット ※

大雨による土砂崩れの後、降水量が年間最大に達する「雨季」を初めて迎えている現在、太魯閣渓谷を含む中橫公路や蘇花公路では落石や岩盤崩壊の危険性が通常時の何倍にも増していることは容易に予想されます。

これが花蓮縣を訪れるには時期尚早と私が判断した理由です。

更に言えば花蓮とは 11月 まで台風被害が出ることで有名な土地でもあります。

亜熱帯の台風は雨風ともに強烈です。その台風が数多く到来する夏から秋にかけての本格シーズンに、3ヶ月以内に土砂崩れを起こしたばかりの道路が無事でいられるのか。

70km を超える急峻な山道の全域で安全性が確認されているのか。

その疑問と懸念が冒頭に述べた驚きの根本的な原因です。

もちろん、山道には常に事故の危険性が伴うものですし、噴火や土砂崩れなどの自然災害の発生には予測が困難な面もあります。

事実、私が参加した国内の某イベントでも、開催10日前にコース近隣で落石が発生したことがありました。

しかし、中橫公路の性急な通行許可やイベント開催を見るに、現時点では台湾の道路管理者の安全対策が不十分と認識を改めざるを得ません。

画像は太魯閣渓谷ではなく阿里山のもの

山道を訪れる際には、現地の気候と当日の天候と日照時間、直近の豪雨や地震、竜巻といった自然災害、そして最も危険性と遭遇頻度の高い交通事故の発生地点を把握し、危険には自ら近づかないことが肝要です。

中橫公路と同様に危険性が指摘されている阿里山を訪れた私に言えたことではありませんが、あらかじめ危険性を認識して走行経路や通行時間や携行品には細心の注意を払うことが求められます。

森林保全を目的として設置された林道や渓流には安易に近づかない、急な気温の低下や天候の変化を察知した場合には深追いを避けて引き返す、濃霧に包まれることを想定して前後照灯を必ず携行するなど、具体的で細かい心掛けが無数にあります。

現在の太魯閣渓谷のように危険性が予測される場合には、その危険性を自身で評価する必要があります。

私からすると余りにも性急に見受けられますが、管理者が許可している以上、待ち望まれていたレースなどのイベントを開催しない理由はありません。

そして準備期間と当日の交通整理の必要性から、開催日程は直近の天候や道路状況を検証して柔軟に変更することもできません。

数週間から数ヶ月前の情報を元に決められたイベント開催の予定があるから大丈夫だろうと思うのではなく、その時の状況を分析して自分で評価しなければならないのです。

残念ながら山道の安全確保が完全でないことが悲しい形で判明してしまったことから、自分の安全は自分自身で守ることを改めて考えなければなりません。

事故や災害に巻き込まれる以外にも速度が出るなどの危険性の高い趣味であるからこそ、生命や財産が危険に晒される人が一人でも減少するように願うばかりです。





※ 一応 R での出力の仕方を書いておくと以下のようになります。

> png(file="~/Desktop/foobar.png",width=650,height=650)
> barplot(c(62.2,94.2,85.9,87.0,195.4,221.7,205.2,242.0,399.2,362.7,152.1,69.2), names.arg=c("Jan","Feb","Mar","Apr","May","Jun","Jul","Aug","Sep","Oct","Nov","Dec"), main="Hualien monthly precipitation (1981-2010)",ylim=c(0,400),ylab=("Ave precipitation (mm per month)"))
> dev.off()

美ヶ原には何があるのだろう

絶景ツーリング、絶景ドライブ、絶景ロードなど『絶景』という単語と高頻度で共起するビーナスライン。

話にはよく聞くのですが、どこにあるのか曖昧なままで、知らない人には全くイメージが湧いてきません。

それもそのはずで、ビーナスラインとは単一の道路ではなく、長野県内にある白樺湖、車山、霧ヶ峰、三峰山、そして美ヶ原まで続く複数の高原道路を繋げたものだからです。

ビーナスラインとしての全長は 70km を超え、異なる複数の道路がそれぞれに名所を抱えています。

中央道の諏訪や松本、上信越道の上田や北佐久郡、そしてその中間に位置する小県郡といった広大な範囲が沿線一帯に含まれます。

外堀通りと言えば赤坂見附や四ツ谷駅前を通る都道405号線、乗鞍エコーラインと言えば三本滝を通って畳平に至る長野県道84号線といった具合に、一本の線として認識しようとすると具体的な光景が思い浮かばないわけです。


前知識が乏しいことに加えて、目的地でもなかったことから下調べもせずに訪れたのですが、その道はとても険しく過酷なものでした。

私のそもそもの目的地は乗鞍岳であり、出発地点は甲州街道の起点となる東京の新宿です。

両者を結ぶ経路上に名山があり、少し遠回りすれば目的地にも問題なく辿り着けるという理由から、興味本位で足を踏み入れた訳です。

訪れて見たところ、過酷な大弛峠よりも更に長くて、斜度のきついアップダウンの連続が待ち受けていました。

補給地点の少ない点に加えて、交通量の多さが過酷さを極めます。

しかし、ビーナスラインの一部である県道460号線は、それだけなのでまだ良かったとも言えます。

諏訪盆地からビーナスラインに至るまでの国道142号 (中山道) は舗装状態も悪く、道幅も狭いところがあり、車一台が通れる程度の幅の狭いトンネルがあったりと、斜度が厳しい以外にも二度と通りたくない要素に満ちていました。




肝心の絶景はと言えば、三峰山付近の県道460号線 (ビーナスライン) は樹木に視界を覆われて今ひとつでした。

少し道路を離れて周辺を徒歩で散策したり、展望台を訪れたりすれば、素晴らしい展望が臨めるのかもしれませんが、道路上の展望はそれほど良くはありません。

三峰山からアップダウンを経て到着した美ヶ原は、霧に覆われていて何があるのかも判然としないほどに視界が悪い状況でした。


山頂の方角は雲と霧に覆われていて極度の視界不良でしたが、上田市やその向こうの四阿山や白根山の方角では辛うじて雲海のようなものが見えました。

白根山と言えば、国道日本最高地点として名高い渋峠で知られる山です。

雲海が拝める点といい、周辺の標高の高い山を背景に抱えている点といい、標高が 2,000m 程度である点といい、台湾の阿里山に良く似ている気がします。

後から調べて見たところ、美ヶ原も阿里山と同様に高頻度で霧に覆われているようです。

現実にはそこまで考えている余裕はなく、冬の荒川のごとく風が強くて寒かったので、さっさと下山しています。

結局、美ヶ原には何があるのか、実際に訪れて見ても良く分かりませんでした。

乗鞍岳 – 日本一の贅沢

日本国内で最も行きたい場所であった乗鞍岳にようやく行ってきました。

乗鞍岳を縦貫する乗鞍エコーライン・スカイラインは、言わずと知れた日本最高の標高を誇る舗装路です。畳平と呼ばれる峠の標高は 2,702m に達します。

ヨーロッパの舗装路のうち、標高の高いものはそれ自体が観光地となっていますが、その最高地点の標高は Pico del Veleta を唯一の例外とすれば 2,700m から 2,800m の範囲に収まっており、畳平の標高を超えるものは数える程しかありません。

そのうちエコーライン・スカイラインのように峠として通り抜けられるものは更に少数に限られます。

私は自分が住んでいた中央ヨーロッパ以外の事情は旅行者程度の知識でしか知らないのですが、海外の有名な峠と比較しても日本の乗鞍岳は遜色ない魅力と個性を持っていると思っています。

乗鞍エコーライン・スカイラインは単純に標高が高いだけではなく、許可車両を除けばバスとタクシーと自転車のみが走行できる交通量が極端に少ない道路でもあるのです。

残念ながら他の高山は景色の良いところほど交通量も多い傾向にあり、のんびりと自然を満喫することが難しい面が少なからずあります。

日本一の乗鞍岳では時折バスが訪れるのみで、車両の通行はほとんどありません。

雲に手が届きそうなほど空に近い場所で、見渡す限りの絶景を思う存分に楽しむことができるのです。

寒さと登坂で消耗する体力の許す限りにおいて。




ひとえに乗鞍岳といっても平湯温泉・高山 (岐阜県) に近い西側のスカイラインと白骨温泉・松本 (長野県) に近い東側のエコーラインでは性格が少し異なります。

高山側のスカイラインは全線を通して片側1車線が続いており、舗装も相対的に良いです。そのためか私が滞在していた時間帯では、東側よりバスを見かける頻度が高い気がしました。

雲の上にいるような爽快な景色が広がっています。

松本側のエコーラインは道幅が狭くなる地点が複数あり、舗装も相対的に荒れ気味です。

あくまで相対的な話で普通に走行する分には全く支障はありません。

西側と比較してバスを見かける頻度は低めでしたが、道幅が狭くなるところでは路肩に自転車を寄せてバスに先に通行して頂くことが必要になる場合があります。

登坂中に目標地点の山頂が見え隠れすること、視界が開けてからは空中庭園のような広々とした空間が続くことなどの要素が渋峠を彷彿とさせます。

一方、舗装状態と坂の長さと斜度は、まるで大弛峠のようです。

私は雲の上にいるような感覚を長く楽しみたいのでスカイラインの方が好みです。

同時に登っていて面白いと思うのは「あんなに高くて遠いところまで行く」ことを強く意識させられるエコーラインです。

連続していながら、どこか表情が異なる乗鞍岳のスカイランとエコーライン。そのどちらにも登って降りるだけの価値があります。

そして登りきった先にある畳平にもまた最高の景色が待っています。

これほどまでに美しい峠は他に見たことがありません。

私は今年はもう10月初旬の瀬戸内海を最後に遠出を控えるつもりでいました。

しかし、その予定を変えても紅葉の季節にまた訪れたくなるほどに、乗鞍岳は贅沢で美しい場所でした。

最後に注意点を述べておくと、東京方面から松本を経由して訪れる場合には、険しく、交通量も多い山道 (国道158号線) を通ることになります。

自家用車でも通行することが憚られる狭い道路なので、周辺の宿泊施設を利用してなるべく交通量の少ない早朝に通過するなどの対策を行った方が安全です。