自転車のタイヤは熱に弱い

2020年代のロードバイクを象徴する存在といえば、間違いなくチューブレスレディ (TLR) タイヤや TPU チューブは候補に上がるでしょう。

完組ホイールの普及、カーボン素材を用いたエアロフレームと来て、現在のトレンドは太くて、乗り心地の良いタイヤとそれを支える軽量な空気保持機構です。

ここ2、3年ぐらいで伝統的なチューブラータイヤやブチルチューブを目にする機会は急速に減少しました。

自分で使ってみると分かるのですが、軽量性や携帯性では全く勝負になりません。

一般的なサドルバッグに収めることがギリギリ困難なチューブラータイヤはもちろん、幅 28mm 以上の太さのタイヤに対応したインナーチューブもそれなりに大きくて重たいので、予備チューブを携行するにしても2本が良いところです。

それを TPU チューブに変えるだけで、体積と質量を半分以下に抑えながら携行数を2倍以上に増やすことが可能となります。

さらにチューブレスレディタイヤを常用していれば、パンクのリスク自体を減らすことも可能です。

一度、知ってしまうと、もう伝統的なブチルチューブに回帰することなんて考えられなくなります。

それぐらい TPU は軽くて使い勝手が良いです。

チューブレスレディタイヤはエア漏れやトラブル時のシーラントの処理が面倒ですが、乗り心地やグリップ性能の向上、転がり抵抗の低減などの点において (発展途上の) 現時点においてもメリットが大きいので、普及の流れは止まらないでしょう。

こうした新しいタイヤ技術は、しかし、総じて熱に弱いという欠点があります。

根強い愛好家を獲得しているラテックスチューブも含めて、新しいタイヤは夏になると決まったようにトラブル報告を耳にするようになるのがお決まりです。

きっとアスファルトが熱いからです。

これは数年前に乗っていたクロスバイクの後輪タイヤです。

上から覗いたときに波打ったように歪に見えます。あるいはサイドウォールにコブのような膨らみができてるようにも見えます。

俗に言う「ピンチカット」と呼ばれる現象で、四輪自動車の場合では過積載やサイドウォールの損傷が原因となることが多いです。

自動車のタイヤよりも圧倒的に薄くて脆い自転車のタイヤにおいて発生した場合には、まず高温が疑われます。

そこそこ劣化したタイヤに高圧 (80psi 以上)の空気を入れて炎天下に駐輪したり、トランポ中に高温となる車内に放置したりすると高確率で再現可能です。

このまま状態で放置しておくと、2日ともたずにタイヤが破裂します。ああ、チューブがもったいない

こうなった原因の第一はタイヤの劣化にありますが、第二の原因は真夏の高温です。気温が 35℃ を超えている環境では、通常使用しているだけでこうなることもあります。

夏場のアスファルトはチューブレスのタイヤシーラント、ラテックスチューブ、TPU (ポリウレタンエラストマー) にとって危険な温度まで熱されている可能性があるということです。

環境省が公開している『まちなかの暑さ対策ガイドライン 令和4年度 部分改訂版』によると、とある晴天時 (気温 30℃) における市街地の交差点 (東京都江東区) の温度は、木陰で約 32℃ なのに対して、日向のアスファルトでは約 50℃ が記録されています。

市販の某シーラントのデータシートによると、そのシーラントを安全に使用できる条件は以下のとおりです。

空気圧 15 – 120psi
気温 -20 – 50℃

この時点でかなり危うい印象を受けます。

走行中は接地面が連続的にたわんで運動エネルギーが熱へと変わるのでタイヤ自体も発熱します。

その結果、タイヤとリムの接着面の温度がシーラントの耐熱温度を超えて、衝撃音をあげて一気に空気が抜けたあげくにタイヤが外れるなんてことも無いとは言い切れません。

ポリウレタン (TPU) やラテックスチューブに関しては材質からして、使用限界温度を 80℃ 前後と見積もっておいたほうが安全です。

これがリムブレーキのホイールで一部のインナーチューブの使用が推奨されない理由です。

ディスクローターの焼戻し色を見ると、ブレーキ使用中におけるローターの表面温度は 200℃ を超えていそうです。

いくらディスクローターのブレーキ面より、リムブレーキホイールのそれのほうが表面積が大きく、放熱性が高いとはいえ、同様に発熱することに違いはありません。

ただでさえアスファルトが熱いのに、走行中のタイヤの変形やブレーキングにより、想像以上にタイヤの内部は高温になっているかもしれません。

そうしたわけで、夏場に走りに行くなら早朝一択です。

真夏はタイヤにとっても過酷なので、タイヤが古くなっているなら早めの交換、TPU チューブやチューブレスレディタイヤを使用されるならウェット路面を中心に。

どうしても日中の暑い時間に走るのであれば、安価なブチルチューブもしくはチューブラータイヤが安牌です。

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