自転車で行く横浜 – 走り込んだからこそ分かる京浜間の良さ

ふと行きたくなって東京から横浜まで自転車で行ってきました。

自転車が趣味の人にとって東京や川崎、横浜といった大都市の市街地はあまり通りたくない場所かと思います。

確かに車の通行が多くて危険な面もありますし、信号停止が多過ぎるので、走り出した直後に無理やり急ブレーキを引かされる回数も10回や20回では済みません。

渋滞に巻き込まれれば数十分は身動きができなくなる可能性もあります。

それでも走り終えて帰ってきて見ると「ああ楽しかった」と思わず口から溢れる魅力が京浜間にはあります。

そんな横浜の魅力は何だろうと、走りながら少しばかり考えて見ました。

— 横浜は美しい —

第一に横浜という目的地そのものが絵になります。

東京30km圏内においてカメラを持ち歩くことが、これほど楽しい場所は他に東京都心ぐらいしか思いつきません。

もちろん東京近郊には他にも深大寺や谷津干潟などの魅力的な土地が多々ありますし、市街地を離れて秩父や房総半島、霞ヶ浦まで足を伸ばせば雄大な光景も楽しめます。

横浜が凄いのは都心から気軽に訪れられる距離にありながら、撮影したくなるような光景に溢れていて、その種類も多岐にわたるところです。

少し考えただけでも歴史的建築物に港湾、船舶、動植物と次々に思い浮かびます。



横浜に訪れて、この景色に出会えて良かったという感じられることは、ライドの目的地として重要な要素です。

— 横浜は全国規模の都市 —

目的地に魅力があることと同様にライドに充実感を感じさせる要素が「ここまで行った・登った」という達成感です。

東京と横浜は距離にすると僅か 30km ですが、その間には品川や川崎といった東海道の拠点があります。

これらの拠点は日本全国や東海道を表した地図にも高確率で記載されているため、移動時にはただの近所の散策とは異なる日本地図スケールでの移動を意識させ、気分を高揚させてくれます。

私も初めて自転車で訪れた際には「えらく遠いところまで来てしまった」と感じたことを覚えています。




心理的な充実感と異なる面においても大都市であることの利点は多々あります。

街灯が整備されているため、サイクリングロードや山間部と比較して夜道は明るく安全ですし、コンビニエンスストアや自動販売機を探すことにも苦労しません。

国道上を進めば迷うこともありませんし、その経路上には自転車専門店もあります。本当にどうしようも無くなっても、駐輪場に自転車を停めて、鉄道とバスを使って後日回収しに来ることも不可能ではありません。

ついでに述べておくと、道路の舗装状態も全体的に良いのでカットパンクの心配が少ないこと、また首都圏にしては道幅の広い道路が多いことも利点です。

車の通行量や信号が多いので毛嫌いする人の気持ちも理解できますが、始めたばかりで高輝度LEDライトやナビ、輪行袋などの持ち物が揃っておらず、パンク修理にも慣れていない段階で目的地に設定することも、あながち間違いとも言い切れない面があります。

— 京浜間の移動は変化に富む —

単調で平坦な道は走りやすいことは間違いありません。

しかし、ローラー台のごとく、走り続けるうちに慣れや飽きが生じます。

京浜間は関東平野の中心に位置しているように見えて、国道1号線 (第二京浜) 経由で片道150m以上の獲得標高があります。

その間には多摩川をはじめとする橋梁があり、五反田の相生坂や東寺尾の響橋に代表される坂があり、浅草線やJRといった鉄道との併走区間があり、中心業務地区から繁華街、住宅地、河川敷と景色が目紛しく移り変わります。

少し道を外れれば海浜公園に国際空港、工業地帯に港湾と見慣れたオフィス街とは異なる非日常的な光景が待っています。

信号や渋滞が嫌になることはあっても、その土地に飽きるということはありません。

いろいろと書き連ねて来ましたが、都心から遠く離れた土地まで走りに行けない時間的な制約がある中でも、充実したライドを楽しませてくれる横浜の懐の深さも良いなと感じた一日でした。

台湾第三の都市・臺中盆地でヒルクライム尽くし

私が台湾を訪れている理由は武嶺 (Wuling) にあります。

武嶺とは台湾における国道最高地点、標高3,275mにして、Maxxis Taroko International Hill Climb や Taiwan King of Mountain (KOM) Challenge と言ったヒルクライムレースのゴール地点でもあります。

台北行きの航空券と休みを確保したのは、そのヒルクライム大会に出場するために他なりません。

しかし、台湾東部を襲った5月28日の豪雨により会場となる臺8線 (中橫公路/Central Cross-Island Highway) 、開催地と台北とを結ぶ臺9線 (蘇花公路/Suhua Highway) の両方にて土砂崩れが発生。大会は開催時期未定の延期となってしまいました。

現地のニュース記事を継続して読み続けていると、その後も開催地の花蓮懸で地震が発生したり、復旧作業が難航していたりと言った報道がなされており、現在でも東海岸 (特に山間部) に訪れるには時期尚早と判断せざるを得ません。




ところで、当初の目的地の武嶺ですが、その実態は台湾中央山脈 (合歡山) 上に位置する峠です。

峠の東側に下りれば豪雨被害に遭った花蓮懸へと至りますが、西側に下りれば台湾第三の都市・臺中に辿り着きます。

私は臺中に不思議な縁があり、今までに自分の意志で行こうと思ったことは一度もありませんでしたが、向こうから呼ばれて訪れた事なら飽きるほどあります。

土地勘もあり、現時点で交通規制も行われていない事から、入り口の臺中だけでも見に行ってみるかと言う思惑で立ち寄ってみる事にしました。

西側から武嶺を目指す場合、通例では臺中から約50kmほど中央山脈寄りにある埔里鎮 (Puli) を起点にするらしいのですが、復旧作業の妨害を避けたい事、飛行機輪行用の大荷物を抱えてのバス移動も容易ではない事から今回は訪問を見送ります。

実際に訪れるのは臺中都心と新社區、南投縣の國姓鄉に囲まれた臺中の裏山です。幾重にも連なった標高450m付近の山塊に、縦横無尽に舗装路が張り巡らされています。

その舗装路をMTBやロードバイクが引っ切りなしに通過していくので、私も地元のサイクリストに混じって一通りの峠を巡ります。

臺中の中央駅から山道の入り口までは直線距離で10kmもありませんが、人家も疎らで補給地点はほぼ皆無です。

この辺りは大きな縣市道でも最大で12%前後の斜度があります。名前もついていない小さな道においては、平然と斜度18%ぐらいの坂が現れます。

自転車もよく通りますが、舗装された登山道ぐらいの認識を持って臨まないと危険です。

切り立った崖のようなところが多く、そう言うところほどガードレールがありません。その代わりに展望は抜群に良いのが悩ましいですね (夜景の名所だそうです)。

大都市のすぐ近くにあり、主要な道路もいくつも通っているので簡単に通過できそうに見えますが、一つ一つの峠がヤビツ峠ぐらいの走行距離と標高を持っていますので、普通に走っていると総獲得標高は瞬く間に2,000mを超過します。

日陰はあったりなかったりな上に、基本的に亜熱帯気候で日本よりも気温が高いので、熱中症には細心の注意が必要です。



峠を越えて行政区が臺中市から南投縣に替わると景色は最高になります。

埔里鎮に向かうにはここから更に標高400mと650mの2つの峠を越えて24kmほど山側まで進む事になります。武嶺からは約144km離れています。

訪れてみたいところではありますが、今回はどう考えても巡り合わせが良くないので、1日も早い臺8線の復興を祈りつつ臺中へと折り返します。

阿里山と雲海・夕立・雨の峠道

2017年9月の落石事故を重く受け止め、太魯閣渓谷と山道の危険性について記述しました (2017年9月17日追記)。


桜と高原茶、神木、五奇にも数えられる旭日、夕焼け、森林、鉄道など、阿里山の魅力を形容する語彙は多々あります。

その中でも最も幻想的であり、同時に悩ましくもある存在は雲海ではないでしょうか。

標高2,000m超の峠や山におけるヒルクライムでは、登坂中に雲の中に突入することも決して珍しくはありません。しかし、雲霧が名物と化している阿里山においては、霧の天候は年間244日、雨天は209日、平均降水量は4,000mm [1] と高頻度で雲に山が覆われます。

阿里山公路と大華公路のそれぞれを通って、阿里山に連続して2回訪れた私も、その両方で濃霧と激しい夕立に遭遇して楽しくも大変な体験をしました。

濃霧は視界を遮り、雨は道路と側溝との境界や路面状況を覆い隠し、土砂災害を招き、ブレーキの制動力や体温の低下を招きます。

決して甘く見てはいけません。それと同様に雨から逃げようとして慌てて降りてもいけません。

雨の山道は本当に危険なものだからです。



たかが霧ぐらいと侮っていると、進むごとに濃度が上がり、僅か10m先すら見えなくなります。スピードに乗った下り坂では特に危険です。

その雲霧の先には往々にして雨が待ち構えており、湧水が豊富な場所では落石や土砂災害の危険性もあります。

侮らず、慌てず、天候が回復するまで安全なところに退避しましょう。




ガラス戸を1枚隔てて、天国と地獄が隣り合う光景を楽しむぐらいの余裕が必要です。



運良く建造物の屋根に辿り着けない場合には、生い茂った樹木の陰で霧や雨を凌ぎます。

体温低下や自動車との接触事故を回避し、前照灯や車幅灯の電池を温存する事が目的です。

南洋植物の遮蔽性は高いので、1時間ぐらいの雨なら全く濡れずに済む事もあります。

ただし、枝や果実、石などの落下物や転倒の危険性は常にありますので、ヘルメットだけは外してはいけません。


阿里山のような標高の高い連山の場合、平地とは異なり、一帯全てが雨や霧に覆われる事は稀です。

雲が掛かるのは一部の地域のみなので、激しい雨が降っているところに自ら突入する事を避け、焦らずに遣り過す冷静さを保つ事が肝要となります。

直ぐにでもその場から離れたくなる気持ちは分かりますが、ポケットを引っ繰り返しても悪夢は終わりません。

焦らずに落ち着いて状況に対処する事が求められます。

自らを救うのは迷信や他力本願、根拠のない強がりではなく、自分自身の経験と観察、そしてLEDの人工光だけです。

雨避けを辞めるタイミングと進むべき方角は、通りがかった車に付着した水滴、風向き、光量、虫の雑音などが教えてくれます。

一難去って澄み渡った空と山道の組み合わせは本当に美しいものです。

それを見る為にも焦って降って事故に遭ってはいけません。

高山の雨は遣り過し、待機中は体温低下を避け、降坂は落下物に気をつけながら道路の中心寄りを走ります。

止まない雨も晴れない霧はありません。

安全になってからゆっくり降ればいいのです。




引用