厳島海峡を自転車で見に行く!

人生をどこかで間違えて大学院へ進んでしまった影響により、北海道や九州はもとより海外の様々な国に訪れてはトンボ帰りすることが日常となってしまいました。

そんな日常を送っていながらも、これまで山陽や山陰地方には訪れる機会がなく、自転車に乗り始めてから意識的に訪問するまでは無縁の土地でした。

ところが自転車に乗り始め、しまなみ海道の知名度に惹かれて広島県を訪れたところ、その風光明媚な景観と住人の親切さ、食べ物の美味しさに魅了されて虜になってしまいました。

日本三景として名高い安芸の宮島も噂に違わぬ素晴らしい景勝地で、いつかまた必ず再訪したいと日々想い続けてきました。

それも多くの観光客で賑わう厳島神社周辺ではなく、人気の疎らな宮島の東側や南側、厳島海峡に面する細い海岸線の道を走ってみたくなったのです。




訪れる人は多くはありませんが、宮島の東側や南側にも道は通じており舗装もされています。

しかし、わずか 8.5km あまりで行き止まりになってしまうので、純粋なサイクリングを楽しむ場所ではありません。

人気は疎らな分、草陰から鹿が飛び出してくる可能性も高いので、速度を抑えてゆったりと散策する以外の目的には適していません。

その一方で、私のように宮島の景観を楽しんだり、写真撮影に楽しみを見出しているものにとっては訪れる価値は大いにあります。

そもそも宮島に自転車を持ち込んで良いものか気になるところなのですが、フェリー乗り場で訪ねてみたところ特に問題なく持ち込めるようです。

宮島に向かうフェリーへの乗船チケットに 100 円の追加料金を支払えば、難なくフェリーにも自転車を載せられます。

自転車で行けるところまで行って、海に当たったらフェリーに乗るというのが、私にとっての瀬戸内海の楽しみ方になっていますが、宮島もその例外では無いようです。

厳島神社のある島の北側 (大野瀬戸側) を抜けて包ヶ浦自然公園を目指します。

この辺りの景観も最高なので名残惜しくはあるのですが。

包ヶ浦までは平坦と聞いていましたが、杉之浦隧道の前後にほんの僅かばかりの上り下りがあります。

隧道を抜けると直ぐに包ヶ浦が見えてきます。

包ヶ浦の自然公園を最後に自動販売機がなくなりますので、飲料水が必要な場合は早めに調達しておくことをお薦めします。

公園のテニスコートを横目に水路を越えると途端に道幅が狭くなり上り坂が始まります。

この坂は散乱している小枝や小石によるパンクと鹿の飛び出しが恐ろしいだけで、ヒルクライム慣れした人にとっては大したことはありません。

斜度も最高で 11% 程度です。

展望は時折ひらける地点が数ヶ所あるのみで、基本的には木々の間を延々と進みます。

曲がりくねっていて視界が悪いので下り坂は対向車が恐ろしいです。

厳島海峡を本格的に眺めることができるようになるのは、島の東側を通り抜けて南側に到着してからです。

坂を下り切ったところでは一面の白い砂浜が広がります。

ここまで来たら、あと一つ二つ丘を越えると行き止まりに突き当たります。

島の北側は都心の繁華街のように多くの観光客で賑わっているのに、弥山を挟んで対岸では一切の人工音が聞こえず、ただ潮騒の響きだけが静かに聞こえるのは不思議でもあり、魅力的でもあります。

行き止まりまで走り終えての感想は、道という観点から見れば、宮島まで来なくとも似たような道はあると思えました。

翻って宮島の本来の姿を知るという意味では、短くとも非常に満足度の高い散策となりました。

神域とは本来は静謐な空間であり、人が住む場所の近くにありながら遠い存在であったのだろうと感覚的に理解できる気がしたからです。

これが訪れる価値は大いにあると思われた直接的な理由です。

複雑な筑波山を単純に登る

名前は知っていても具体的にどこを登れば良いのか分からない。

私にとって筑波山とは、そんな山の代名詞でした。

不動峠に風返し峠、つくば道に十三塚、湯袋峠に上曽峠といった具合に筑波山には舗装された峠道がいくつも存在します。

それも単純な一本道の上に連続する訳ではなく、複数の経路が存在し、それらが互いに交差したり分岐したりしながら筑波山の峠道を形成しています。

不動峠は高架と立体交差する三叉路ですし、風返し峠は峠でありながらも五差路の交差点でもあるという異色の存在です。

これらの峠と峠道がどこにあり、位置関係がどうなっているのかが小さな疑問であり、一般的にはどの経路でどこを登っているのかが大きな疑問です。

そうした疑問を解消する前段階として、私の場合、まず筑波そのものの土地勘がなく、どうやって訪れれば良いのかも曖昧です。

私は筑波研究学園都市には縁があり、筑波大学の研究室に招待された事があったりと所謂「つくば」には何度も訪れた事があるのですが、そこから約20km離れた「筑波」については何も知りません。

そこで今回は最も単純な経路である県道42号線を経て、つくば市街から柿岡まで訪れてみました。

つくばの東大通りを一直線に北上し、突き当たりにある中菅間の交差点を右折するだけという迷いようのない経路です。






この経路では県道42号線を西側から登ることになり、つくば道との合流、梅林、筑波山神社を経て風返し峠へと至ります。

つくばの広くて直線的な道路もあって平坦な市街地は快適そのものです。

しかし、筑波山の登りが始まる地点では道幅が狭く、舗装が荒れており、車の交通量が多すぎるので、ヒルクライム目的に訪れるのに全く適していないことを先に述べておきます。

私は知らずに訪れましたが、風返し峠まで到着した時点で、こちら側から来た自転車よりも不動峠側から来られている自転車の方が5倍以上も多いというぐらい差がありました。

おそらく他の経路の方が安全に楽しく登れるのだと推察されます。

県道42号線の西側は常磐道やつくば駅から筑波山に訪れるための主要経路となっているため、ただでさえ自家用車が多い上に、大型の路線バスまでが頻繁に通行します。

それでいながら路肩はほぼ存在しないぐらいに道幅が狭く、筑波山神社までは側溝が続きます。

登り始めから神社の入り口までの距離はおよそ 2km にして平均斜度は 7.4% ほどの平凡な坂なので、交通量を考えると敢えてこちら側から登る必要性は感じられません。

駐車場が集中する筑波山神社とケーブルカー宮脇駅を越えると車の通行はやや減り、バスは見掛けなくなります。二輪車通行禁止の標識は立っていますが、普通に走っているのを見掛けます。

ここから斜度は 10% を超える頻度が上がり、林道から本格的な山道の雰囲気に変わります。

しかし、少しばかり減るとは言え、奥多摩や都留などの他の山道と比較して車の通行が多過ぎるのは変わりませんし、展望も一向に開けません。

山の周辺全てが平地なので元より周辺人口や交通量が多い土地である事は容易に想像できます。

それに加えて品川や相模と言った県外の自家用車も少なくない割合で通行しているので、紅葉の休日は訪問を避けるなど、混雑回避の工夫をした方が良さそうです。

一方で風返し峠からつつじヶ丘までの間には、なかなか個性的で楽しい光景が広がっています。

立体交差する風返橋に、正月には本当に富士山が見えそうな富士見橋、舗装路最高地点のつつじヶ丘にはロープウェイ乗り場とレストランがあります。

ここまで来ると休日はロードバイクの方が車よりも通行頻度が高いかもしれません。

どこの経路も傾斜が厳しいので「気軽に」という表現は似合わないかもしれませんが、実際に筑波山に訪れてみると距離的にも標高的にも気負うことなく訪れられる存在という印象を強く感じました。

どことなく大阪・奈良の府県境に位置する生駒山地を連想させます。

そう言えば、あちらも十三峠ですね。

太魯閣渓谷と山道の危険性について

臺8線と呼ばれる中部橫貫公路 (中橫公路) にて開催されるはずであったヒルクライムレースが中止されたと聞いて、私は2つの意味で驚きました。

1つは、2017年9月現在、中橫公路が通行可能となっていたこと。

もう1つは、そこを会場としたレースなど、多くの人を集める催しが幾つも予定されていたことです (以下のリンクはその一例) 。

こう述べるのは、6月25日に当地で開催予定であったレースの延期理由に拠ります。

私も参加申込を行っていた大会ですが、台湾東部を襲った5月28日の豪雨により会場となる臺8線、および、開催地と台北とを結ぶ臺9線 (蘇花公路) の両方にて土砂崩れが発生。

中橫公路の谷關より東側の区間は封鎖され、大会は6月時点では開催時期未定の延期となりました。

それと前後して現地では地震が発生していたり、復旧工事が難航していたり、土砂崩れや落石の可能性が高い場所が確認されていたりと、メディアでは中橫公路の危険性が報じられていました。

花蓮縣では9月初旬にも小規模な地震が発生するなどの懸念事項がありましたが、安全性について最大の懸念事項は何と言っても大会延期の遠因となった雨です。

花蓮や (蘇花公路が縦貫する) 宜蘭といった台湾の東海岸では 8月、9月、10月 にかけて降水量が大幅に増加する傾向にあります。

中央氣象局全球資訊網『氣候統計』より花蓮の月平均降水量 (mm) をプロット ※

大雨による土砂崩れの後、降水量が年間最大に達する「雨季」を初めて迎えている現在、太魯閣渓谷を含む中橫公路や蘇花公路では落石や岩盤崩壊の危険性が通常時の何倍にも増していることは容易に予想されます。

これが花蓮縣を訪れるには時期尚早と私が判断した理由です。

更に言えば花蓮とは 11月 まで台風被害が出ることで有名な土地でもあります。

亜熱帯の台風は雨風ともに強烈です。その台風が数多く到来する夏から秋にかけての本格シーズンに、3ヶ月以内に土砂崩れを起こしたばかりの道路が無事でいられるのか。

70km を超える急峻な山道の全域で安全性が確認されているのか。

その疑問と懸念が冒頭に述べた驚きの根本的な原因です。

もちろん、山道には常に事故の危険性が伴うものですし、噴火や土砂崩れなどの自然災害の発生には予測が困難な面もあります。

事実、私が参加した国内の某イベントでも、開催10日前にコース近隣で落石が発生したことがありました。

しかし、中橫公路の性急な通行許可やイベント開催を見るに、現時点では台湾の道路管理者の安全対策が不十分と認識を改めざるを得ません。

画像は太魯閣渓谷ではなく阿里山のもの

山道を訪れる際には、現地の気候と当日の天候と日照時間、直近の豪雨や地震、竜巻といった自然災害、そして最も危険性と遭遇頻度の高い交通事故の発生地点を把握し、危険には自ら近づかないことが肝要です。

中橫公路と同様に危険性が指摘されている阿里山を訪れた私に言えたことではありませんが、あらかじめ危険性を認識して走行経路や通行時間や携行品には細心の注意を払うことが求められます。

森林保全を目的として設置された林道や渓流には安易に近づかない、急な気温の低下や天候の変化を察知した場合には深追いを避けて引き返す、濃霧に包まれることを想定して前後照灯を必ず携行するなど、具体的で細かい心掛けが無数にあります。

現在の太魯閣渓谷のように危険性が予測される場合には、その危険性を自身で評価する必要があります。

私からすると余りにも性急に見受けられますが、管理者が許可している以上、待ち望まれていたレースなどのイベントを開催しない理由はありません。

そして準備期間と当日の交通整理の必要性から、開催日程は直近の天候や道路状況を検証して柔軟に変更することもできません。

数週間から数ヶ月前の情報を元に決められたイベント開催の予定があるから大丈夫だろうと思うのではなく、その時の状況を分析して自分で評価しなければならないのです。

残念ながら山道の安全確保が完全でないことが悲しい形で判明してしまったことから、自分の安全は自分自身で守ることを改めて考えなければなりません。

事故や災害に巻き込まれる以外にも速度が出るなどの危険性の高い趣味であるからこそ、生命や財産が危険に晒される人が一人でも減少するように願うばかりです。





※ 一応 R での出力の仕方を書いておくと以下のようになります。

> png(file="~/Desktop/foobar.png",width=650,height=650)
> barplot(c(62.2,94.2,85.9,87.0,195.4,221.7,205.2,242.0,399.2,362.7,152.1,69.2), names.arg=c("Jan","Feb","Mar","Apr","May","Jun","Jul","Aug","Sep","Oct","Nov","Dec"), main="Hualien monthly precipitation (1981-2010)",ylim=c(0,400),ylab=("Ave precipitation (mm per month)"))
> dev.off()