新緑の奥多摩は美しい。30度超の真夏日は秋川の清流で涼をとろう。

東京では今年初めての真夏日となった5月3週目の日曜日ですが、暦の上ではまだまだ初夏は終わっていません。

初夏と言えば山の木々が生命力に溢れ、空の青とコントラストを成す、ヒルクライムが最も楽しい時期です。

一年のうちでも最高の時期に最高の天気が重なる日曜日。たとえ予想最高気温が30度を超えていようが、これで山に登らなければ自転車に乗っている意味がありません。

東京の副都心に位置する私の家から奥多摩の山までの移動距離は約80kmほど。移動時間に直すと片道4時間弱なので、午前中の隙間時間に自走で行き帰りするには午前4時以前に出発する必要があります。

そうした理由から早朝3時台に家を出て、朝焼けの中を五日市まで進みます。

こんな時間にも関わらず、23区内では高速バスに工事車両にタクシーにと交通量が多過ぎて極めて不快な気分になりますが、調布まで我慢を続けて一般道を抜ければ、僅かばかりのランナーを除いて他に何も目に入らなくなります。

更に進んで八王子の市街地を過ぎてしまえば、その後は快適そのものです。


目的地に早く到着するのは良い事ですが、今日の目的地は夜間通行禁止です。

早く到着しすぎると通行できないという問題が生じますので、奥多摩周遊道路が開門する午前8時に到着できるよう、秋川の河畔で写真でも撮りながら時間を合わせます。




予報では真夏日ですが、午前7時を回ったばかりの檜原村の気温は14度。ひんやりとした空気が心地よいです。

しかし、ここまで来ても車の往来が多く、改造車の威圧的な排気音が雰囲気を台無しにする事に気がつきます。

元より多かった自動二輪車はともかく、これほどまでに多くの車が行き来する道であっただろうかと記憶との齟齬に悩みます。

都民の森は良いところですし、従来は有料道路だっただけあって走りやすいのですが、四輪の自家用車が大挙して押し寄せるようになったら、まともに走る事すらできなくなってしまうのは他の山道と何ら変わりはありません。

もしそうなってしまったとしたら、残念ながら今後は走行ルートから除外する事も検討しなければなりません。


程なくして都民の森に到着しましたので、売店で軽い朝食をとって、風張峠へと登ります。

ここに以前に来た時には、苦しくてフロントインナーで軽いギアを必死に回す事しかできませんでしたが、アウターのままダンシングで登る練習をしたり、バイクがブレないように意識して修正する余裕がある事に自身の成長を感じます。

次は速く登れるように更なる練習を重ねなければと決意を新たにします。

気分的には更に奥へと進みたいところなのですが、自宅から80km超も離れた奥多摩 (風張峠までなら90km超) でそれを行うと、容易く1日消費コースとなってしまいます。

通行できる経路の限定されている山間部では、制限時間を正確に把握して、退き際を弁える事が肝要です。

現在時刻は午前9時。道幅が狭く、信号停止だらけの劣悪な東京の道では、このまま引き返しても帰宅できるのは正午を過ぎてしまいます。

とは言え、ここまで訪れる苦労に対して圧倒的に登りが足りてませんので、道なりに位置する適当な峠を組み入れます。



山越えを含めて100km超となる帰路に対して簡易な朝食だけでは心許ないので、檜原村役場前のたちばな屋さんで美味しいラーメンを頂きます。

陽が昇るに連れて気温も大幅に上昇して来ますが、生い茂った新緑の葉の木陰や秋川の清流が涼を与えてくれます。

檜原や奥多摩の道は大部分が秋川の渓流と並走していますので、少し道を外れると滝や湧水が現れます。

観光案内図に載っているような知名度の高いものから、名前があるのか不明なものまで多々ありますが、共通しているのは水が透き通っていて美しい事です。

こんな真夏日にはこの清流があるだけでも価値があると思えてくるものです。

気温はその後も上昇を続けますが、何とかそれをやり過ごしながら山を降り、向かい風に抗って川を下り、午後一の車の通行の少ない時間を狙って帰還しました。

自走で行く奥多摩・秋川街道で檜原へ

千代田区や港区といった東京の中心部に住んでいると自転車で気軽に走れる場所が近所にない事が悩みとなります。

約100mから200m置きに信号停止があり、交差点の度に左折車が渋滞を起こして道路を塞ぎ、路上駐車は日常茶飯事、自転車通行帯にまでバスが割り込んできて、気を抜いたら歩行者が飛び出してくる始末です。

最寄りの山や峠は距離にすると約60kmから70kmほどなので、それだけでは大して離れていないように見えますが、上述のように道路の質が著しく低いので実際にはそれ以上に心理的な距離感と負担を感じます。

「走力を上げれば問題ない」という意見を耳にする事もありますが、心理的な距離感の原因は信号停止の多さと渋滞の酷さなので、自身の巡航速度が上がったところで問題が解決する訳ではありません。

1時間走ったら平均15分は強制停止させられる程に頻繁に信号に足止めされる東京の市街地では、個々人の走力や走行時の風向きよりも道路の混雑具合の方が巡航速度に寄与する割合が高いです。

むしろ唐突な車の割り込みや歩行者の飛び出しの多さを考えると速度を上げるのは、危険になるだけの可能性が高いので、急いでも良いことはありません。




現実的な妥協策として多くの人が輪行を行なっています。

鉄道を利用する事により、危険で不快で走りづらい市街地を回避し、空気が美味しく、サイクリストを歓迎してくれる奥多摩や丹沢の山の麓まで移動できます。

もう一つの妥協策は多摩川などのサイクリングロードを経由して、山の手前から一般道に合流する事で市街地を迂回する方法です。

上の地図で奥多摩や丹沢の玄関として表示されている『拝島駅』や『高尾駅』に程近いところを流れる多摩川や浅川の河川敷にはサイクリングロードが設置されており、断続的に東京湾の羽田空港まで続いています。

このサイクリングロードも歩行者が多く、常に安全に気をつけて徐行する必要はありますが、道幅が狭小で危険な場所の多い多摩地区を迂回できる事から一考の余地はあります。

しかし、これらの妥協策を講じても (八王子の和田峠はともかく) 奥多摩や檜原方面にはさっぱり行かなくなってしまいました。

都民の森や払沢の滝、神戸岩に小河内ダムに秋川渓谷といった名所に恵まれた奥多摩地区に魅力がない訳ではありません。

単純に行きづらいのです。

甲州街道が整備されている八王子方面は走りやすいのですが、輪行先の駅やサイクリングロードを出でて檜原や奥多摩にまで至る道のり (睦橋通り) は悪い意味で東京らしく、地方都市郊外にある国道沿いのような外観からは想像もできないほど信号停止が多くて疲れます ※。

交通量と信号停止の多い睦橋通りを避けて、ストレスなく奥多摩へとアクセスするルートとして新たに検討してみたのが秋川街道です。

地元の人にとっては今更という気分でしょうが、秋川街道とは八王子と武蔵五日市の2点間を結ぶ都道32号線を指します。

地図上で見た限りでは、途中にトンネル (新小峰トンネル) があるので自転車で通れるかどうか不安だったのですが、実際に走行してみると走りやすい素晴らしい道でした。

秋川街道の良い点は3つあります。

  1. 八王子市街地を除いては一貫して交通量が少ない
  2. 浅川サイクリングロードや京王・JR八王子駅からアクセスしやすい ※※
  3. 適度に飲食店がある

行き方は甲州街道を『本郷横丁』交差点で右折するか、浅川サイクリングロードを萩原橋で抜ける事です。初見では見過ごして何気なく通り過ぎてしまいますが、一度覚えてしまえば簡単です。



秋川街道に入り『萩原橋』から『楢原町』までの約3kmほどは市街地の信号停止が続き、バスがいればバス停停車の度に道路が詰まりますが、そこを越えると交通量が極端に減ります。

ただし飲食店も極端に減ってしまうので、補給が必要なのであれば、早めに寄り道しておいた方が無難です。

楢原町から先は登り基調で、約9km先の武蔵五日市駅前まではコンビニや飲食店は、ほとんどありません。

楢原町から7kmほど進むと危惧されていた『新小峰トンネル』に辿り着きますが、自転車通行可能で片側だけとはいえ歩道もありますので、訪れてみると何てことはありませんでした。


トンネルを抜けると下り基調となり、秋川の河川のすぐ近くを通って武蔵五日市駅前へと抜けます。

二子玉川駅からサイクリングロードを利用する事を考えると武蔵五日市までの走行距離は、二子橋、多摩川サイクリングロード右岸、多摩川原橋、多摩サイクリングロード左岸、府中四谷橋、浅川サイクリングロード、萩原橋を経て約47kmです。

サイクリングロードを繋いで車との接触を避けながら武蔵五日市まで到達する事が可能となります。

走行距離自体は長めになってしまいますが、サイクリングロードの空いている早朝の時間帯を狙って行けば、最もストレスなく奥多摩にアクセスできるルートの一つとして採用の余地はありそうだと感じました。


※ 奥多摩に向かう経路には他に青梅街道・国道411号線がありますが、休日の渋滞で有名な場所であり、路面の荒れたトンネルもたくさんある上に、奥多摩から山梨県に通じる唯一の舗装路として車両が集中する為、睦橋通り以上に走りにくいと言わざるを得ません。

※※ 『武蔵五日市駅』や『奥多摩駅』まで輪行してしまっても良いのですが、この2駅はJRの路線 (終端の目的地はともかく、東京都心側に位置する出発地点の駅が輪行に不向きな構造をしている事が多い) であり、単線ゆえに運行本数が少なく、また休日は登山客で混雑するなどの理由から実はあまり輪行には適していません。

拝島駅の場合、行き帰り共に輪行に便利な始発駅 (西武新宿駅・拝島駅) を使えるため輪行が容易という利点があります。

京王八王子駅の場合は始発駅 (京王線新宿駅・京王八王子駅) が使える事に加えて、乗り換えが一切ない、運行本数が多い、乗車時間が短い、運賃が割安 (360円)、休日の下りは空いている (登山客は高尾山口方面に流れる為) 等、豊富な利点があります。

自走で行く箱根・旧東海道は満足度過去最低の坂

ソーシャルメディアを眺めていると坂に文句を言っている自転車乗りを多く見ます。

そうした坂の中には奥多摩の見慣れた峠道も含まれている事もあって驚きますが、共通する特徴を抜き出してみると以下のような要素を複数あわせ持っている事が多い模様です。

  • 斜度・傾斜がきつい
  • 距離が長い
  • 道幅が狭い
  • 信号停止がある
  • トンネル区間を含む
  • 展望が良くない
  • 路面が荒れている
  • 橋の繋ぎ目がある
  • 遠い・アクセスが悪い
  • 車の通りが多い
  • バスが通る
  • 路上駐車が多い
  • ランナー・登山者・その他の歩行者が多い
  • どこにも通じていない・軽車両進入禁止に変わる

こうした要素を列挙してみると、一つでもアウトになってしまうものから、単独では気にもならないものまで程度が存在する事が見て取れますが、複合すると近づくのも躊躇われるような「なるべくなら通りたくない」ルートが完成する事には相違ありません。

そうした積極的には通りたくないルートも残念ながら世の中には存在します。例えば、今ライドの舞台である箱根の旧東海道です。

旧東海道は神奈川県の小田原から箱根を経て静岡県の三島に至る4本の道路のうちの一つです。

北側から東海道、旧東海道、箱根新道、箱根ターンパイクと4本の道路がありますが、このうち新道とターンパイクの後2者は自転車走行禁止である為、ロードバイクで小田原から箱根にツーリング (キャノンボールその他) する際には実質的には東海道と旧東海道のどちらかを通ることになります (※ 湯河原や函南、御殿場を経由する経路はまた別にあります) 。

自転車でも通れる東海道 (国道1号線) は、距離が長めで傾斜は緩やか、補給地点のコンビニもたくさんありますが車の通りが多いと聞いています。

箱根登山鉄道と並走して走ることになり、観光地や名所もたくさんあります。

対して旧東海道 (県道732号線) は、箱根湯本付近の温泉街を除いて、ほぼ山道を走ります。

旧道であり、傾斜もきつく、入り口付近は自動車のすれ違いは困難なほどの道幅しかない事から、交通量が少ないだろうと見込んだ事が誤りの原因でした。




タイトル通り往路も復路も自走なので、出発地点は東京と川崎の間にある多摩川大橋です。

ここから第二京浜こと国道1号線を小田原まで進みます。

道路が空いていており、信号に引っ掛かる回数も少なかった為、約3時間弱で川崎から小田原までの区間を抜けて箱根湯本まで到着できました。

箱根湯本から東海道を進む場合は道なりに直進しますが、旧東海道に入るには箱根湯本の三枚橋交差点で左折して早川を越える必要があります。

旧東海道はこの入り口付近の道幅が極端に狭く、バスの往来がある度に上下線ともに局所的な渋滞が発生します。入り込んで直ぐの地点にあるコンビニが (おそらく) ラストコンビニです。

この後の休憩地点は標高700m付近の峠の茶屋までありません。

この地点から既に車の通りが非常に多く、嫌な感じが拭えません。

温泉街から始まる登りを抜けて行くと道幅が広がり、片側一車線の広い道になります。走りやすくなるのは嬉しいのですが、それは同時に交通量が多い事を示唆するもの。

須雲川の鳥居前の坂などでは途切れる事なく続く車の列に煽られて、勾配の最もきつい内側のワインディングを通る事を余儀なくされます。



斜度10%を前後する急斜面を登り続けて行くと『七曲り』という案内表示が登場します。

登場するからといって何かが変わる訳ではありません。ここに来るまでに既に十分に傾斜はきついのです。

一つだけ変化があるとしたら、ここから登山者やランナーの数が増えました。しかも、山道にしては珍しく歩道があるにも関わらず、堂々と車道を歩いて降りてきます。

声を掛けて下さるのは嬉しいですが、車道は危ないので歩道を歩いて頂きたいのが本音です。


景色も開けず、交通量も全く減らず、斜度も落ちずのあんまりな行程を進むと峠の茶屋が見えてきます。まさに旧東海道の良心です。

さらに進むと『石畳』や『お玉ケ池』といった観光地を意識させるバス停が見えてきますが、実物は登坂車線からはよく見えませんし、斜度もきついままなので意識する余裕はありません。

立ち止まる事なく進んで行くと辿り着いた先は、なんと観光名所の芦ノ湖。

ここまで前知識なしで箱根に初訪問しましたが、これでは交通量が衰えない訳です。

帰宅してから走行経路を調べてみると、箱根とは急峻な山合いの狭い盆地に東西の主要交通路と多々ある観光施設をギュッと押し込んだような土地だということが分かりました。

その観光施設も箱根関所などの歴史施設、富士火山帯に由来する火山や温泉街に博物館、そして美術館にゴルフ場に山岳鉄道と多岐に渡り、地図を眺めているだけで感心してしまうほどです。

ただでさえ交通量の多い東海道に通行困難な険しい山道、多くの観光施設と観光客を集中させる箱根は、まさに交通の難所。

こんなところを自転車で走ろうとするのが根本的な間違いなのではないかと深く反省する事になりました。

箱根観光なら鉄道一択ですね。