台湾第三の都市・臺中盆地でヒルクライム尽くし

私が台湾を訪れている理由は武嶺 (Wuling) にあります。

武嶺とは台湾における国道最高地点、標高3,275mにして、Maxxis Taroko International Hill Climb や Taiwan King of Mountain (KOM) Challenge と言ったヒルクライムレースのゴール地点でもあります。

台北行きの航空券と休みを確保したのは、そのヒルクライム大会に出場するために他なりません。

しかし、台湾東部を襲った5月28日の豪雨により会場となる臺8線 (中橫公路/Central Cross-Island Highway) 、開催地と台北とを結ぶ臺9線 (蘇花公路/Suhua Highway) の両方にて土砂崩れが発生。大会は開催時期未定の延期となってしまいました。

現地のニュース記事を継続して読み続けていると、その後も開催地の花蓮懸で地震が発生したり、復旧作業が難航していたりと言った報道がなされており、現在でも東海岸 (特に山間部) に訪れるには時期尚早と判断せざるを得ません。




ところで、当初の目的地の武嶺ですが、その実態は台湾中央山脈 (合歡山) 上に位置する峠です。

峠の東側に下りれば豪雨被害に遭った花蓮懸へと至りますが、西側に下りれば台湾第三の都市・臺中に辿り着きます。

私は臺中に不思議な縁があり、今までに自分の意志で行こうと思ったことは一度もありませんでしたが、向こうから呼ばれて訪れた事なら飽きるほどあります。

土地勘もあり、現時点で交通規制も行われていない事から、入り口の臺中だけでも見に行ってみるかと言う思惑で立ち寄ってみる事にしました。

西側から武嶺を目指す場合、通例では臺中から約50kmほど中央山脈寄りにある埔里鎮 (Puli) を起点にするらしいのですが、復旧作業の妨害を避けたい事、飛行機輪行用の大荷物を抱えてのバス移動も容易ではない事から今回は訪問を見送ります。

実際に訪れるのは臺中都心と新社區、南投縣の國姓鄉に囲まれた臺中の裏山です。幾重にも連なった標高450m付近の山塊に、縦横無尽に舗装路が張り巡らされています。

その舗装路をMTBやロードバイクが引っ切りなしに通過していくので、私も地元のサイクリストに混じって一通りの峠を巡ります。

臺中の中央駅から山道の入り口までは直線距離で10kmもありませんが、人家も疎らで補給地点はほぼ皆無です。

この辺りは大きな縣市道でも最大で12%前後の斜度があります。名前もついていない小さな道においては、平然と斜度18%ぐらいの坂が現れます。

自転車もよく通りますが、舗装された登山道ぐらいの認識を持って臨まないと危険です。

切り立った崖のようなところが多く、そう言うところほどガードレールがありません。その代わりに展望は抜群に良いのが悩ましいですね (夜景の名所だそうです)。

大都市のすぐ近くにあり、主要な道路もいくつも通っているので簡単に通過できそうに見えますが、一つ一つの峠がヤビツ峠ぐらいの走行距離と標高を持っていますので、普通に走っていると総獲得標高は瞬く間に2,000mを超過します。

日陰はあったりなかったりな上に、基本的に亜熱帯気候で日本よりも気温が高いので、熱中症には細心の注意が必要です。



峠を越えて行政区が臺中市から南投縣に替わると景色は最高になります。

埔里鎮に向かうにはここから更に標高400mと650mの2つの峠を越えて24kmほど山側まで進む事になります。武嶺からは約144km離れています。

訪れてみたいところではありますが、今回はどう考えても巡り合わせが良くないので、1日も早い臺8線の復興を祈りつつ臺中へと折り返します。

阿里山観光の拠点・嘉義

嘉義市内に宿泊しながらも、連日、阿里山にばかり訪れている私が述べても説得力のない話ですが、嘉義そのものも見どころに溢れた魅力的な土地です。

戦前の日本の面影を色濃く残す阿里山森林鐵路に嘉義神社 (嘉義公園)、アジアの織物や茶文化、仏教芸術などを専門に展示研究する國立故宮博物院・南院、嘉義の名物や特産品が楽しめる事で (台湾全土でも) 有名な文化路夜市に北回帰線のモニュメントなど、ここでしか見れないものが豊富にあります。

名物の火雉肉飯も甘辛い出汁の効いたタレと七面鳥の組み合わせが絶妙です

ガイドブックなど他所でも書かれているので詳細には触れませんが、嘉義そのものを目的として観光に訪れても満足できそうな事は想像に難くありません。




嘉義を始めとする台湾南部や中部の諸都市は桃園捷運機場線 (Taoyuan Airport MRT/機場線、以下MRT) の開通により身近なものになりました。

かつて (と言っても今年の3月以前) は桃園の国際空港から高速バスで約1時間かけて臺北車站 (台北中央駅) まで北上しないと、どこにも行けないものでした。

MRTの開通により空港と高鐵桃園站 (THSR Taoyuan Station) が接続された事で、高鐵 (Taiwan High Speed Rail/俗に言う台湾新幹線) 経由で空港からそのまま南下して中部や南部を目指すことができるようになりました。

桃園から嘉義を目指す場合もMRTと高鐵を使用するのが最も簡単です。

両者ともに専用の荷物置き場がありますので、輪行も特に大きな問題にはなりません。

ただし、高鐵嘉義站から嘉義市内までは専用のバス路線で移動する事になりますので、人数が多い場合は桃園から台北を経由して、在来線の急行列車を利用した方が安全かもしれません。

私の訪れた際は、高鐵の桃園から新竹までの区間において座れない乗客が数人出たぐらいで混雑もなかったので、MRTでも高鐵でもバスでも輪行を断られる事はありませんでした。

嘉義は大きな都市なので着替えの服やUSBメモリなどを現地調達する事は可能です。

しかし、専門店の数や品揃えは台北や台中には及ばないので、入手困難なもので持参可能なものはなるべく持参を検討した方が得策です。

例えばローパスフィルタを清掃するための無水エタノールは、あるところにはあるのかもしれませんが、私は見つける事ができませんでした。それどころか、ブロワやレンズペンですら探すのに苦労しました。

ロードバイクやマウンテンバイク関連の部品であれば、華里林森西路 (嘉義駅東口) と垂楊路にGIANT Store (捷安特) がありますので、滞在中に必要となるチェーンルブや予備のタイヤ等はそちらで入手する事も可能です。

阿里山の大雨の中でリア変速機を破損させた時にお世話になりました。その際には「日本から阿里山に登りに来た」と自己紹介したところ、店長さんに気に入られて夕食を御馳走になりました。

南国の例に漏れず、比較的遅い時間帯まで店舗が営業している事が多いので、ショッピングには時間的な余裕が持てる事が多いです。


換言すると昼間が暑すぎるという事でもあるのですが、少しばかり陽が暮れてからの方が涼しくて歩きやすくもあります。

昼間の鮮やかな青空と山の緑に覆われる都市も、夕暮れから夜になると仄かに赤く妖しく輝き始めます。

フォトジェニックで楽しいのは昼間なら郊外、夜なら街中です。

この夏祭りのような南国特有の雰囲気は最高なので、阿里山や玉山に登る機会がありましたら、ぜひ訪れてみてください。

阿里山と雲海・夕立・雨の峠道

2017年9月の落石事故を重く受け止め、太魯閣渓谷と山道の危険性について記述しました (2017年9月17日追記)。


桜と高原茶、神木、五奇にも数えられる旭日、夕焼け、森林、鉄道など、阿里山の魅力を形容する語彙は多々あります。

その中でも最も幻想的であり、同時に悩ましくもある存在は雲海ではないでしょうか。

標高2,000m超の峠や山におけるヒルクライムでは、登坂中に雲の中に突入することも決して珍しくはありません。しかし、雲霧が名物と化している阿里山においては、霧の天候は年間244日、雨天は209日、平均降水量は4,000mm [1] と高頻度で雲に山が覆われます。

阿里山公路と大華公路のそれぞれを通って、阿里山に連続して2回訪れた私も、その両方で濃霧と激しい夕立に遭遇して楽しくも大変な体験をしました。

濃霧は視界を遮り、雨は道路と側溝との境界や路面状況を覆い隠し、土砂災害を招き、ブレーキの制動力や体温の低下を招きます。

決して甘く見てはいけません。それと同様に雨から逃げようとして慌てて降りてもいけません。

雨の山道は本当に危険なものだからです。



たかが霧ぐらいと侮っていると、進むごとに濃度が上がり、僅か10m先すら見えなくなります。スピードに乗った下り坂では特に危険です。

その雲霧の先には往々にして雨が待ち構えており、湧水が豊富な場所では落石や土砂災害の危険性もあります。

侮らず、慌てず、天候が回復するまで安全なところに退避しましょう。




ガラス戸を1枚隔てて、天国と地獄が隣り合う光景を楽しむぐらいの余裕が必要です。



運良く建造物の屋根に辿り着けない場合には、生い茂った樹木の陰で霧や雨を凌ぎます。

体温低下や自動車との接触事故を回避し、前照灯や車幅灯の電池を温存する事が目的です。

南洋植物の遮蔽性は高いので、1時間ぐらいの雨なら全く濡れずに済む事もあります。

ただし、枝や果実、石などの落下物や転倒の危険性は常にありますので、ヘルメットだけは外してはいけません。


阿里山のような標高の高い連山の場合、平地とは異なり、一帯全てが雨や霧に覆われる事は稀です。

雲が掛かるのは一部の地域のみなので、激しい雨が降っているところに自ら突入する事を避け、焦らずに遣り過す冷静さを保つ事が肝要となります。

直ぐにでもその場から離れたくなる気持ちは分かりますが、ポケットを引っ繰り返しても悪夢は終わりません。

焦らずに落ち着いて状況に対処する事が求められます。

自らを救うのは迷信や他力本願、根拠のない強がりではなく、自分自身の経験と観察、そしてLEDの人工光だけです。

雨避けを辞めるタイミングと進むべき方角は、通りがかった車に付着した水滴、風向き、光量、虫の雑音などが教えてくれます。

一難去って澄み渡った空と山道の組み合わせは本当に美しいものです。

それを見る為にも焦って降って事故に遭ってはいけません。

高山の雨は遣り過し、待機中は体温低下を避け、降坂は落下物に気をつけながら道路の中心寄りを走ります。

止まない雨も晴れない霧はありません。

安全になってからゆっくり降ればいいのです。




引用