中国で一番おもしろい場所

中国で一番おもしろい場所は間違いなく食料品店です。

中国の食料品店は日本製と欧州製の商品に溢れており、見知った商品が脈略もなく陳列されている点がおもしろいだけでなく、中国人の好みがよく反映されている点が興味深くもあります。

日本人でも知らない人のほうが多いだろう網走ビールの真横に沖縄パイン酒とヨーグルッペと謎の乳酸菌飲料が並べられているのが中国の食料品店です。

そのすぐ手前の列には、サンガリアとドイツの ERDINGER と青島ビールが一緒に並んでいたりします。選別基準も良く分かりませんが、陳列方法はもっと訳が分かりません。

ただ、全体をよく見回していくと、中国人が好きな食品の傾向が分かります。




輸入されているのは飲料だけではなく、レトルトコーナーにはイタリアのスパゲッティソースと一緒に出前一丁が大きなスペースを占有していて、中国企業の製品が端の方に置かれていますし、チョコレート以外の菓子類は日本製と韓国製ばかりです。それも見たことも聞いたこともない無名のものと有名どころが半々ぐらい。

残ったチョコレートも高価なものは、世界中のどこにでもあるスイス製やドイツ製で、中国製のものはお土産用のパッケージに包まれたものが少量あるぐらいです。

日本製がほとんど見当たらないのはヨーグルトなどの乳製品コーナーで、こちらはドイツ製とスイス製とオーストラリア製で埋められています。

この写真だけを見ていると、どこの国に来たのか全く分からなくなりそうですが、空港からドイツ車で送迎されて、毎日、フランス人やドイツ人と顔を合わせて、オージービーフのハンバーガーばかり食べていると、本当にどこにいるのか分からなくなります。

中国人には申し訳ないですが、中華料理は日本や米国のレストランの方が美味しいぐらいで、香港や台湾と違って本場の美味しい中華料理を食べたいという気持ちにはならないです。

日本には高級中華料理店こそあっても、中国企業が作った飲料や調味料などに誰も興味を示さないのに、中国のスーパーマーケットは日本語パッケージそのままの輸入品で溢れているところにも、現在の両国の関係性が反映されているような気がしてきます。

日本製と同じぐらいか、それ以上に欧州製品の存在感があるのも、また示唆的です。

中国の食料品店は本当におもしろいです。

まあ、言い換えると他に見どころが乏しいということでもあるのですが。

上海の自転車事情

中国発のイノベーションとして、一時期、話題になった自転車シェアリング。

日本や英国でもサービスを開始したと思いきや、わずか1年ほどで撤退してしまい、今では人々の記憶にすらも残っていないかも知れません。

App store に残されたレビューにも、サービスの継続やアプリの更新を疑問視する声が溢れています。

ところが、本場の中国においては自転車サイクリングは決して過去のものではなく、2019年現在においても街中の至るところで利用されています。

道路を走っているところを見かけるのは(自動)二輪車以外は、ほとんどがレンタルバイクと言ってもいいほど多くの利用者がおり、社会に定着している感があります。

※ 観察している限り、中国では二輪車と自転車との区分は明確ではないのか、同じ場所を一緒に走っていることが多いです。その一方で机动车(四輪車を含むエンジン付きの車) と非机动车(エンジン無しの自転車)の区別は明確です。




上海の道路は自転車で走りやすいところが多く、地形的に起伏が少ないことも影響しているかもしれません。

もちろん、上海の道路においても圧倒的に優遇されているのは四輪車なのですが(日本のように建前だけは歩行者優先ではなく完全に自動車が優先です)、郊外においては自転車と二輪車の専用レーンが設置されており、四輪車とも歩行者とも完全に分離されています。

加えて、驚くべきことに路上駐車が本当に少ないです。しばらく仕事で滞在していますが、最後に路上駐車している車を見たのはいつだか思い出せないほどです。

率直に述べて、東京と上海とで道路環境のみを比較した場合、東京のほうが上海よりも優れている点あるいは両者で均衡していると言える点など、ただの一つもありません。

かと言って、土地の所有権もない警察国家が羨ましいかどうかというのは、また別の話ではありますが。

通行者を容赦なく撮影する速度違反取締装置があり、絶対的な権力を持った警察が常時監視しているから、日本の道路を通行するよりも安全に感じるという一面もあるかもしれません。

それでも逆走や不法投棄などを少なからず目にするあたりに民族性を感じます。

都心部では自転車専用レーンがないところも一般的なので、歩道を走行している自転車や二輪車も見かけます。

どうやら歩行者専用道を除いては、自転車も二輪車も問題なく歩道を走行できるようです。

自転車が通行できない場所には明確に通行禁止の標識が掲げられていたり、禁止非机动车通行と警告表示がなされています。

さきに述べた繁華街の歩行者専用道などには、こうした標識が提示されています。

自転車を借りられることが分かり、交通ルールも覚えたら、実際にレンタルバイクに乗って散策してみたくなるものです。

中国の自転車シェアリングサービスを利用する場合には、現地で通信できるスマートフォンと WeChat もしくは Alipay が必要になります。

前者は SIM カードを現地調達すればいいとして、後者は少し厄介でして、インストールしたアプリに中国の銀行口座を紐付けないと使えないサービスもあるようです。

無事に準備が完了できたら、自転車に添付されているQRコードをスマートフォンの専用アプリで読み取って解錠します。

これだけを見ると簡単に利用できて便利に見えますが、実際には無人で管理されているがために、個々の自転車ごとに著しい状態差があったり、返却手続きが機能しなかったりと不便な点も少なからず感じられます。

レンタルバイクのなかには走行不能、もしくは、それに近いものも存在します。

かと言って、自分の自転車を持っていくと盗難の問題が付きまといますので、それはそれで不便な面もあります。

スポーツサイクルのショップも普通にありますけれども、路上でロードバイクやクロスバイクが走行しているところを見たことがありませんので、どれぐらい普及しているのかは不明です。

レンタルバイクに比較すると個人所有の自転車そのものが少ないので、安価でレンタルできる自転車をわざわざ購入する積極的な理由が乏しいのかも知れません。

私個人も写真撮影が捗らない、大気汚染が改善されてきているとはいえ臭いがまだ気になる、外国人がむやみに近づいてはならない場所が多すぎる、そもそもインターネット環境が不便すぎて情報検索すら一苦労などの諸々の事情から、あまり自分の自転車を持ってきたいとも思いません。

地下鉄を始めとする公共交通の料金もおそろしく安いので、都心部で生活する分には自転車がなくても不自由はしません。

凪の西伊豆

海外に出張続きの日々が続くと、ときどき海岸線の風景が見たくなります。

切り立った崖沿いの小道を進んでいくと、突如として眼下に広がる湊町、遠浅の海の透き通った水に古びた商店など、いかにも日本らしい光景が最高です。

東京近辺でこうした風景が見られるのは三浦半島の南端ですが、半島地形だけに休日はどの道を通っても 20km 近くの断続渋滞に巻き込まれます。

そこで、今回は関東平野を抜け出して、知る人ぞ知るサイクリストの楽園にやってきました。関東近郊で自転車をもっとも楽しめる最高の場所、それは西伊豆です。

西伊豆の良さは海と高山を併せ持つダイナミックな地形、交通量の少ない静かな道路、運転マナーの良さ、地元の人の親切さなど枚挙に暇がありません。




ただし、ここを訪れる人が少ないことからも分かるように、それなりに高いハードルもあります。

急峻な地形、人口希薄地帯の広さ、強風、夏の暑さと日陰の少なさなど、自転車で周遊する際の難易度では伊豆半島は暫定日本トップ3に入るぐらいです。

ちなみに他の2つは紀伊半島の北部(奈良県南部、和歌山県北部、三重県南西部)と山梨県の大弛峠で、この中で一番やさしいのが大弛峠です。

伊豆半島では普通に舗装路を走っているだけで、距離 100km にして獲得標高は 2,000m 超なんてことになります。集落と集落のあいだは民家すら存在しない無人地帯で、自販機1台すらも無い山道が 20km 近くに渡って続くことが普通です。

坂道はどこも急勾配で、多くの坂において最高斜度は 14% を越えます。

この無補給地帯に耐えられる体力と激坂に負けない走力を備えた者だけが伊豆の美しさを堪能できるのです。

地形的な困難も大きい分、走り終えたあとの満足感や心地よい疲労感もひとしお — そんな伊豆ライドの開始点は函南駅か三島駅のどちらかがオススメです。

小田原から下田までの国道135号線は本当に使えない道路(※自動車専用道を除くと、関東から直接伊豆に向かう唯一の道路ながら常時渋滞している最大のボトルネック)なので、ここをいかに回避するかが伊豆旅行の質に大きく影響します。

湯河原から網代までを避ければ、恒常的に渋滞している区間はそれほど多くはないので、東京から訪れる場合でも小田原や熱海ではなく、函南や三島から中伊豆(韮山や修善寺)を目指されるとスムーズに到着できます。

実際のところ、道路が中伊豆の方を向いているので、海岸沿いの混雑地帯を避けながら伊豆に向かうと自然と伊豆長岡あたりを経由することになります。

ここまで来たら、東伊豆(伊東や河津)を目指しても、西伊豆(戸田や土肥)を目指しても、南伊豆(下田や石廊崎)を目指しても、もちろん天城や伊豆高原を目指しても、どこに向かっても急勾配の坂道だらけです。

ちょっと丘を越えようと思って登り始めた坂が 10km 以上も続いて、終わりが見えなくなることも少なくありません。

あの国道1号線ですら海抜 4.8m の小田原(市民会館前)から、わずか 18km で標高 874m (箱根町 国道1号線最高地点)まで登ることを余儀なくされているのが、この富士箱根伊豆という地域なのです。

この日は初秋らしく気温は 32℃ 湿度は 80% もありましたが、風は 1m/s の東風とほとんど無風状態でした。

こういうときは遠景こそ期待できませんが、凪の穏やかな水面を堪能することができます。

行き先としては仁科峠を越えて松崎に向かうよりも戸田や内浦のほうが楽しめそうな気象条件です。

ここで今日の行き先が決まりました。

と言っても、どこに行くにも山越えが避けられないのが伊豆半島です。きっちり標高 730m の戸田峠まで登ります。

この辺り、もし北海道であったら間違いなく道の駅が設置されているであろう場所が、ことごとくゴルフ場やテーマパークなどの敷地で埋められています。

こうした事情も伊豆らしさであり、補給場所が皆無なのでとってもツライです。

誇張なしに補給場所は だるま山高原レストハウス とそこから 22km 離れた 西天城高原「牧場の家」 の2つしかありません。

道路の雰囲気は湯河原椿ライン(神奈川県道75号線)に似ていて、交通量は少なく、舗装も比較的良好ですが、斜度はこちらの方が厳し目です。

戸田峠まで登りきると、そこから西伊豆スカイラインに入って、さらに登り続けることができます。

西伊豆スカイラインの高原風景は一見の価値ありです。苦労して登ってきた甲斐があります。

この後もまだまだ登り続けて、気がついたら標高 900m を越えていたりするのですが。

今日は海を見に行きたいので土肥峠で西伊豆スカイラインを降りて、土肥温泉へ向かいます。

普通はあまり西伊豆スカイラインから土肥温泉に向かう人はいません。

そのままスカイラインを南下すると絶景で有名な西天城高原に辿り着くので、そこまで行く人が多いのと、土肥峠あたりは最大斜度 14% の下り坂がつづくので慣れていないと危険です。

事前情報では路面状態が悪いと伺っていましたが、訪れてみた際にはそれほど悪いとは思いませんでした。

長い長い下り坂を抜けると、いよいよ海が見えてきました。

目論見通りに凪の海は透明度が高く、海岸沿いでも奇跡的な無風状態です。

この後の予定がなければ、このまま何時間でも波打つ水面を眺めていられます。

でも、楽しいのは、実はここからです。

海岸沿いの道路は漁村を通り抜けて、切り立った崖を登って山道になり、そこから海を見下ろした後に、次の漁村に向かう長い下り坂に変わります。

景色の移り変わりやコースの高低差という意味では、決して山間地にも引けを取らないものがあります。

仁科峠まで行かなかったことを全く後悔させないぐらいの素晴らしい景色です。

相変わらず、補給地点は市街地までいかないと一つもありませんし、わずかな市街地を除けば坂道しか無いほど、平地がほとんど無いのですが、それがまた楽しくもあります。

ほんとうに強風さえなければ、西伊豆は最高です。

土肥から戸田、江梨、西浦と進むに連れて、景色もさらに魅力を増していきますが、それと同時に交通量も少しづつ増えていきます。

三津まで行くと、沼津の中心部からの市街地が連続しているので、ほとんど沼津の郊外といった趣になります。

地図上の距離で見ると、伊豆への輪行には沼津駅も良さそうに見えますが、三島よりも沼津のほうが市街地区間が長いのと国道414号線は道幅が狭くトンネルも多いので、あまり通りたいとは思えないところが残念です。

国道414号線の内浦ルートに比べると、往路につかった伊豆長岡ルートは景色は単調ですが、田園地帯なので交通量は少なめです。

ここまでで意外と余力が残っていたので、復路は長岡と韮山を経由して函南まで行くことに決めました。

もっと早い時間にたどり着いていれば、帰り道の途中に十国峠を入れて 3,000m UP も楽しそうなんて思えてきます。

実際のところは日没後のダウンヒルは神経を使うだけで楽しくないですし、箱根の渋滞を避けようとすると湯河原に抜けて、そこから国道135号線という最低の道路を通ることになるので、なかなか難しいところです。

そうすると今度は熱海を起点にして考えてみるのが良いんでしょうかね。