複雑な筑波山を単純に登る

名前は知っていても具体的にどこを登れば良いのか分からない。

私にとって筑波山とは、そんな山の代名詞でした。

不動峠に風返し峠、つくば道に十三塚、湯袋峠に上曽峠といった具合に筑波山には舗装された峠道がいくつも存在します。

それも単純な一本道の上に連続する訳ではなく、複数の経路が存在し、それらが互いに交差したり分岐したりしながら筑波山の峠道を形成しています。

不動峠は高架と立体交差する三叉路ですし、風返し峠は峠でありながらも五差路の交差点でもあるという異色の存在です。

これらの峠と峠道がどこにあり、位置関係がどうなっているのかが小さな疑問であり、一般的にはどの経路でどこを登っているのかが大きな疑問です。

そうした疑問を解消する前段階として、私の場合、まず筑波そのものの土地勘がなく、どうやって訪れれば良いのかも曖昧です。

私は筑波研究学園都市には縁があり、筑波大学の研究室に招待された事があったりと所謂「つくば」には何度も訪れた事があるのですが、そこから約20km離れた「筑波」については何も知りません。

そこで今回は最も単純な経路である県道42号線を経て、つくば市街から柿岡まで訪れてみました。

つくばの東大通りを一直線に北上し、突き当たりにある中菅間の交差点を右折するだけという迷いようのない経路です。






この経路では県道42号線を西側から登ることになり、つくば道との合流、梅林、筑波山神社を経て風返し峠へと至ります。

つくばの広くて直線的な道路もあって平坦な市街地は快適そのものです。

しかし、筑波山の登りが始まる地点では道幅が狭く、舗装が荒れており、車の交通量が多すぎるので、ヒルクライム目的に訪れるのに全く適していないことを先に述べておきます。

私は知らずに訪れましたが、風返し峠まで到着した時点で、こちら側から来た自転車よりも不動峠側から来られている自転車の方が5倍以上も多いというぐらい差がありました。

おそらく他の経路の方が安全に楽しく登れるのだと推察されます。

県道42号線の西側は常磐道やつくば駅から筑波山に訪れるための主要経路となっているため、ただでさえ自家用車が多い上に、大型の路線バスまでが頻繁に通行します。

それでいながら路肩はほぼ存在しないぐらいに道幅が狭く、筑波山神社までは側溝が続きます。

登り始めから神社の入り口までの距離はおよそ 2km にして平均斜度は 7.4% ほどの平凡な坂なので、交通量を考えると敢えてこちら側から登る必要性は感じられません。

駐車場が集中する筑波山神社とケーブルカー宮脇駅を越えると車の通行はやや減り、バスは見掛けなくなります。二輪車通行禁止の標識は立っていますが、普通に走っているのを見掛けます。

ここから斜度は 10% を超える頻度が上がり、林道から本格的な山道の雰囲気に変わります。

しかし、少しばかり減るとは言え、奥多摩や都留などの他の山道と比較して車の通行が多過ぎるのは変わりませんし、展望も一向に開けません。

山の周辺全てが平地なので元より周辺人口や交通量が多い土地である事は容易に想像できます。

それに加えて品川や相模と言った県外の自家用車も少なくない割合で通行しているので、紅葉の休日は訪問を避けるなど、混雑回避の工夫をした方が良さそうです。

一方で風返し峠からつつじヶ丘までの間には、なかなか個性的で楽しい光景が広がっています。

立体交差する風返橋に、正月には本当に富士山が見えそうな富士見橋、舗装路最高地点のつつじヶ丘にはロープウェイ乗り場とレストランがあります。

ここまで来ると休日はロードバイクの方が車よりも通行頻度が高いかもしれません。

どこの経路も傾斜が厳しいので「気軽に」という表現は似合わないかもしれませんが、実際に筑波山に訪れてみると距離的にも標高的にも気負うことなく訪れられる存在という印象を強く感じました。

どことなく大阪・奈良の府県境に位置する生駒山地を連想させます。

そう言えば、あちらも十三峠ですね。

美ヶ原には何があるのだろう

絶景ツーリング、絶景ドライブ、絶景ロードなど『絶景』という単語と高頻度で共起するビーナスライン。

話にはよく聞くのですが、どこにあるのか曖昧なままで、知らない人には全くイメージが湧いてきません。

それもそのはずで、ビーナスラインとは単一の道路ではなく、長野県内にある白樺湖、車山、霧ヶ峰、三峰山、そして美ヶ原まで続く複数の高原道路を繋げたものだからです。

ビーナスラインとしての全長は 70km を超え、異なる複数の道路がそれぞれに名所を抱えています。

中央道の諏訪や松本、上信越道の上田や北佐久郡、そしてその中間に位置する小県郡といった広大な範囲が沿線一帯に含まれます。

外堀通りと言えば赤坂見附や四ツ谷駅前を通る都道405号線、乗鞍エコーラインと言えば三本滝を通って畳平に至る長野県道84号線といった具合に、一本の線として認識しようとすると具体的な光景が思い浮かばないわけです。


前知識が乏しいことに加えて、目的地でもなかったことから下調べもせずに訪れたのですが、その道はとても険しく過酷なものでした。

私のそもそもの目的地は乗鞍岳であり、出発地点は甲州街道の起点となる東京の新宿です。

両者を結ぶ経路上に名山があり、少し遠回りすれば目的地にも問題なく辿り着けるという理由から、興味本位で足を踏み入れた訳です。

訪れて見たところ、過酷な大弛峠よりも更に長くて、斜度のきついアップダウンの連続が待ち受けていました。

補給地点の少ない点に加えて、交通量の多さが過酷さを極めます。

しかし、ビーナスラインの一部である県道460号線は、それだけなのでまだ良かったとも言えます。

諏訪盆地からビーナスラインに至るまでの国道142号 (中山道) は舗装状態も悪く、道幅も狭いところがあり、車一台が通れる程度の幅の狭いトンネルがあったりと、斜度が厳しい以外にも二度と通りたくない要素に満ちていました。




肝心の絶景はと言えば、三峰山付近の県道460号線 (ビーナスライン) は樹木に視界を覆われて今ひとつでした。

少し道路を離れて周辺を徒歩で散策したり、展望台を訪れたりすれば、素晴らしい展望が臨めるのかもしれませんが、道路上の展望はそれほど良くはありません。

三峰山からアップダウンを経て到着した美ヶ原は、霧に覆われていて何があるのかも判然としないほどに視界が悪い状況でした。


山頂の方角は雲と霧に覆われていて極度の視界不良でしたが、上田市やその向こうの四阿山や白根山の方角では辛うじて雲海のようなものが見えました。

白根山と言えば、国道日本最高地点として名高い渋峠で知られる山です。

雲海が拝める点といい、周辺の標高の高い山を背景に抱えている点といい、標高が 2,000m 程度である点といい、台湾の阿里山に良く似ている気がします。

後から調べて見たところ、美ヶ原も阿里山と同様に高頻度で霧に覆われているようです。

現実にはそこまで考えている余裕はなく、冬の荒川のごとく風が強くて寒かったので、さっさと下山しています。

結局、美ヶ原には何があるのか、実際に訪れて見ても良く分かりませんでした。

乗鞍岳 – 日本一の贅沢

日本国内で最も行きたい場所であった乗鞍岳にようやく行ってきました。

乗鞍岳を縦貫する乗鞍エコーライン・スカイラインは、言わずと知れた日本最高の標高を誇る舗装路です。畳平と呼ばれる峠の標高は 2,702m に達します。

ヨーロッパの舗装路のうち、標高の高いものはそれ自体が観光地となっていますが、その最高地点の標高は Pico del Veleta を唯一の例外とすれば 2,700m から 2,800m の範囲に収まっており、畳平の標高を超えるものは数える程しかありません。

そのうちエコーライン・スカイラインのように峠として通り抜けられるものは更に少数に限られます。

私は自分が住んでいた中央ヨーロッパ以外の事情は旅行者程度の知識でしか知らないのですが、海外の有名な峠と比較しても日本の乗鞍岳は遜色ない魅力と個性を持っていると思っています。

乗鞍エコーライン・スカイラインは単純に標高が高いだけではなく、許可車両を除けばバスとタクシーと自転車のみが走行できる交通量が極端に少ない道路でもあるのです。

残念ながら他の高山は景色の良いところほど交通量も多い傾向にあり、のんびりと自然を満喫することが難しい面が少なからずあります。

日本一の乗鞍岳では時折バスが訪れるのみで、車両の通行はほとんどありません。

雲に手が届きそうなほど空に近い場所で、見渡す限りの絶景を思う存分に楽しむことができるのです。

寒さと登坂で消耗する体力の許す限りにおいて。




ひとえに乗鞍岳といっても平湯温泉・高山 (岐阜県) に近い西側のスカイラインと白骨温泉・松本 (長野県) に近い東側のエコーラインでは性格が少し異なります。

高山側のスカイラインは全線を通して片側1車線が続いており、舗装も相対的に良いです。そのためか私が滞在していた時間帯では、東側よりバスを見かける頻度が高い気がしました。

雲の上にいるような爽快な景色が広がっています。

松本側のエコーラインは道幅が狭くなる地点が複数あり、舗装も相対的に荒れ気味です。

あくまで相対的な話で普通に走行する分には全く支障はありません。

西側と比較してバスを見かける頻度は低めでしたが、道幅が狭くなるところでは路肩に自転車を寄せてバスに先に通行して頂くことが必要になる場合があります。

登坂中に目標地点の山頂が見え隠れすること、視界が開けてからは空中庭園のような広々とした空間が続くことなどの要素が渋峠を彷彿とさせます。

一方、舗装状態と坂の長さと斜度は、まるで大弛峠のようです。

私は雲の上にいるような感覚を長く楽しみたいのでスカイラインの方が好みです。

同時に登っていて面白いと思うのは「あんなに高くて遠いところまで行く」ことを強く意識させられるエコーラインです。

連続していながら、どこか表情が異なる乗鞍岳のスカイランとエコーライン。そのどちらにも登って降りるだけの価値があります。

そして登りきった先にある畳平にもまた最高の景色が待っています。

これほどまでに美しい峠は他に見たことがありません。

私は今年はもう10月初旬の瀬戸内海を最後に遠出を控えるつもりでいました。

しかし、その予定を変えても紅葉の季節にまた訪れたくなるほどに、乗鞍岳は贅沢で美しい場所でした。

最後に注意点を述べておくと、東京方面から松本を経由して訪れる場合には、険しく、交通量も多い山道 (国道158号線) を通ることになります。

自家用車でも通行することが憚られる狭い道路なので、周辺の宿泊施設を利用してなるべく交通量の少ない早朝に通過するなどの対策を行った方が安全です。