香港自転車ガイド(規則・輪行・ルート)

自転車は香港での生活を豊かにする便利アイテムです。

港鐵(MTR)で1駅分を移動するのは手間に感じますが、同じ距離を自転車で移動するのであれば、驚くほど簡単に目的地まで辿り着けます。

天后(Tin Hau)から銅鑼灣 (Causeway Bay)、中環 (Central) から金鐘(Admiralty)までもが「こんなに近かったのか」と認識を改め直すほどです。

しかし、基本的に港島は東京並みに走りづらく、分かりづらい注意点もたくさんあります。気をつけていても巴士と路面電車が怖いのは変わりませんし、地形的に混雑した市街地と瞬間最大斜度 15% を超えるような「激坂」だらけなのは避けようがありません。

車道と歩道は柵で仕切られており、唐突に現れる自転車(歩行者)通行禁止の標識によって、いきなり道路を通行できなくなることも珍しくありません。

トンネル、高架に繋がる道路、私家路 (Private Road) は全て進入禁止 と考えておいて間違いありません。

また一部の急な坂道など、指定された区間のみ自転車通行禁止を指示されている場所もあります。こういう場所では自転車を降りて、歩道を押して歩くしかありません。

どこを走ってよいのか、どこを走ってはいけないのかという一点のみが非常に分かりづらいのですが、その他の点に関しては香港社会は単純明快です。

装備品に関しては尾燈が必須とされているほかは日本の基準と変わるところはありません。

港鐵(MTR)での輪行については幅奥行き高さの3辺の合計が 170cm を超えないことという規則があるものの、スポーツバイクの場合、運用上は前輪を外しておけば何の問題もありません。

駅構内での走行厳禁に違和感を覚える人はいないと思いますが、輪行の場合はエスカレータを使用せず、構内ではエレベータを使用するように指示される点は、日本と価値観が異なりますので注意が必要です。

エスカレータを使用していると構内アナウンスでエレベータを使用するように注意されますので、Brompton を抱えた紳士もベビーカーを押すお母さんも皆エスカレータの利用を避けてエレベータを利用します。

ただし、自動改札機の外側に出てからは話が別です。香港人のいう駅構内というのは自動改札機の内側ぐらいの認識らしく、ひとたび改札の外側にでれば細かなことを気にする人はあまりいません。改札のすぐ外側あたりで前輪を外して輪行準備している人もよく見かけます。

もちろん駅の構内に自転車を持ち込む際に輪行袋など不要ですし、ドイツのように自転車分のチケット料金を要求されることもありません。




ところがフェリーで輪行される場合には、鉄道とは異なり、輪行料金はほぼ必須になります。

こちらの場合は搭乗者は毎回なぜか八達通(Octopus)の利用を促されますが、自転車料金は窓口で現金払いするように言われます。

およそ搭乗者の半分程度の規定料金を支払えば、自転車はそのまま客席に持ち込めます。置き場所は自由です。どこかに置くように指示されたことすらありません。

注意点があるとすれば、自転車輪行の場合にはジェットフォイルの利用ができなくなることです。香港澳門など珠江 (Pearl River) 一帯は水中翼船の集積地で、ひっきりなしに運航している船を見かけることはできますが、残念ながら自転車の持ち込みはできません。

必然的に利用できる便数が少なくなりますので渡航時間には注意が必要です。

フェリーを使いこなせるようになると港島と九龍、新界、離島をあわせて様々なルートを組めるようになります。離島は小さいところが多いので2つぐらいを一度に訪問するぐらいで調度いいかもしれません。

基本的にはフェリーで出かけて、折り返してフェリーで戻ってくるか、大嶼山 (Lantau Island)または新界を経由して港鐵(MTR)で戻ってくるルートを考えると、無理なく海を越えられます。

港島 (Hong Kong Island) と九龍 (Kowloon)、青衣 (Tsing Yi)、大嶼山 (Lantau Island) のそれぞれは橋梁や地下トンネルなどで接続されてはいるものの、基本的には自転車では通行できませんので「どうやって、あるいは、どの地点から海を越えるか」を考えることが重要になります。

香港では自転車にバスを積み込むことはできませんので、海を越えるためには港鐵(MTR)、フェリー、タクシーの何れかの利用が必要になります。

新界と大嶼山にはサイクリングロードもありますが、後者はわずかな舗装区間を除けば MTB 向きです。

Cycling Information Centre – Bicycle Carriage Arrangement on Public Transport
https://www.td.gov.hk/mini_site/cic/en/cycling-infrastructure/cycling-with-public-transport.html

香港新界 – サイクリングロードを行く

毎朝、同じ場所を同じ時間に走り込んでいると、同じ人に遭遇することが良くあります。英国人だったり、フィリピン人だったりと、いろいろなサイクリストがいますが、何度も顔を合わせているとお互いに顔やジャージやバイクを覚えてしまったりします。

これは東京から香港に場所を移しても変わるところはありません。練習し続けているうちに知り合いが増え続けて、いつの間にかライドへの参加を尋ねられるようになります。

香港のサイクリストがライドに出かけるのは、主に九龍の界限街 (Boundary St)の北、獅子山 (Lion Rock Hill) のさらに北側に広がる新界の沙田海 (Sha Tin Hoi)、荃灣 (Tsuen Wan) 、南生圍 (Nam Sang Wai)といった海沿いの地域です。

新界は特別行政區の面積の 85% 以上と人口の半数ほど、そして 200 もの周辺諸島を占める大きな地区ですが、港島や九龍といった中心市街地に付随する高層住宅地のほか、港湾、工業団地、発電所、そして大規模な郊野公園と大量の貯水池があります。

そうした水辺の多くには自転車専用道が張り巡らされており、それらを繋いでいくとおよそ 100km ほどのサイクリングルートになります。市街地を離れれば急勾配だらけの香港において、これほど長い距離の「平地」を走れるのはここだけとも言えます。

いずれにせよ、耕作地や熱帯魚の養殖場などの田園風景、八仙嶺(Pat Sin Leng)や馬鞍山(Ma On Shan)などの山岳風景、入り江と島嶼が生み出す海岸風景が楽しめて、自転車道をつないで深圳 (Shenzhen) との国境付近まで行けるので満足度が高いです。

真冬でも気温が 20℃ を超えている点も走りやすくて最高です。




この日は1年ぐらい前から仲良くなった二人組とサイクリングロード経由で沙田 (Sha Tin) から大埔 (Tai Po) へと出かけます。

港鐵 (MTR) 火炭站(Fo Tan Station)で待合せて構外に向かえば、そこがもう自転車道の入り口です。東鐵綫(East Rail Line)自体は港島からだと2回乗り換えないと行けないので不便ですが、駅前から自転車道へのアクセスは素晴らしいものがあります。

自転車道は歩道と完全に分離されており、時間帯によって比率は変動しますがロードバイクのようなスポーツ車とシティサイクルの割合はほぼ同じです。

市街地に近いところでは幼い子どももいたり、歩道から横断者が飛び出してくることもあるので注意が必要ですが、基本的には信号もなければ、車も入ってこれない快走路です。

アップダウンは車道の下側をくぐるときだけなので平坦な道がひたすら続きます。しかし周辺の風景が市街地、公園、海岸と目まぐるしく変わっていくので全く飽きることはありません。

ちなみに自転車道は幾つも分岐して馬鞍山站にもつながりますので、そちらをスタート地点にされても途中から合流できます。

自転車道を走り抜けたら、少し道をそれて山の方へ向かいます。

香港人のなかでの私の評価は「坂道にばかり突っ込んでいく頭のおかしい子」というものなので、私のために登坂に付き合ってもらうわけです。

最近では先の北海道旅行について話したせいで「一日に 200km 走る」という風評被害まで広がって収拾がつかなくなりつつあります。

そうして山を登るわけです。

とんでもない山奥まで来たように見えますが、これが Global Financial Centres Index で世界第3位と第9位に位置づけられる国際金融都市の境界付近です。

この辺りまで来ると車の往来も極端に少なくなりますので、斜度が気にならなければ静かで環境もいいです。

ここで二人のお気に入りだという茶座に案内してもらいました。

よく晴れた暖かい日には冷たい紅茶が美味しいです。この日の気温は 24℃ もあって湿度も 70% を越えていたので、気分は完全に初夏のそれです。

補給を済ませた後は夕日を眺めに船灣(Plover Cove)へと引き返します。

地図上で船灣を眺めると一目瞭然なのですが、海の入り江だった部分をダムで堰き止めて作り上げられた人工淡水湖があります。

船灣の淡水湖は面積では域内一、水量では二番目の大きさを誇る香港の水瓶で、その上を走る気分はまるで『しまなみ海道』です。

画像の左手側は淡水、右手側は海水というのは何とも不思議な気分ですね。

運が良ければ、このあたりで野生のベンガルヤマネコも見れるそうです。

夕陽を堪能したあとは薄暗くなる前に市街地へと戻ります。

海沿いや川沿いのサイクリングロードが、その街灯の少なさから、日没後は一気に暗闇に飲まれていくのは日本と変わるところはありません。

香港の道路は舗装状態は悪くないですが、マンホールと継ぎ接ぎが大量に、段差がそれなりにあるため、視界が悪くなるとやや危ないです。

明るいうちは変わりゆく景色に魅了される自転車道も、薄暗くなると一転して長くて平坦なだけの退屈な道に感じられるところがおもしろいです。

幸いなことに外気温が高くて、話し相手が二人もいるので、何も見えなくてもそれほど心細くもありません。遠出するならグループライドは良いものです。

いつも一人で出かけるのは行き先や時間帯が他人と合わないこと、良さそうな景色が眺められるのであれば登坂も厭わないことなどから、都合の付く人がいないだけで私はグループライドを嫌っているわけではありません。

そんなことを考えているうちに沙田の中心市街地へと戻ってきました。

駅で解散して本日のライドはこれでお終いです。

新界は港島よりも全体的に余裕があり、開拓のしがいがありますので、またそのうち走りに行きたいですね。

香港島 自転車紀行

香港と言えば、西は堅尼地城 (Kennedy Town) 、東は柴灣(Chai Wan)、北は維港を跨いで九龍の太子(Prince Edward)あたりまでの範囲が一般的によく知られています。

海と山に囲まれた細長い市街地に高層建築物が隙間なく林立する光景は、きわめて特徴的で象徴的ですらあります。

それでは活気に溢れた中心市街地を少し離れると何があるのでしょう。

人によっては「何もない」が答えかもしれませんし、また別の人は「坂がある」と回答されるかもしれません。

いずれにせよ、市街地を少し離れた場所には定住者のいない(そして大抵は傾斜のきつい)緑地帯が広がっています。

国際金融中心として名高い中環(Central)から、わずか 5km ほど離れただけで別世界のような光景が広がります。

まるで高原リゾート地帯にでもやって来たかのような山岳風景に驚くばかりですが、これでも急峻な山道や非日常的な絶景という意味では、ほんの序の口に過ぎません。

高度に都市化されているように見える港島(Hong Kong Island)でも南に向かうほど、緑地や自然海岸線の割合が増え、それに比例するかのように道路もアップダウンを増していきます。

それでも港島は九龍や離島に比べれば傾斜の緩やかな坂(斜度 6-9% 程度)が多いので、ロードバイクやマウンテンバイクで走り慣れている人であれば半周することは難しくはありません。

中環から赤柱 (Stanley) や石澳(Shek O)まで西回りで訪れても距離は片道 26 – 33 km 程度にしかなりませんので、私のように始業前や終業後に走りに出かけて港鐵(MTR)で輪行しながら帰ってくることも不可能ではありません。

ただし Gap Road と名前の付いている道路だけは例外で、どこも斜度 15% を超える急勾配が当たり前のように出てきますので注意が必要です。




話を戻しまして、西岸の摩星嶺(Mount Davis)や薄扶林(Pok Fu Lam)といった山岳地帯を超えていくと、港島の南岸へと向かう長いダウンヒルが始まります。

遠くに海を見渡しながら坂を駆け下りたさきには、対岸とよく似た高層建築物の建ち並ぶ市街地が広がっています。香港仔(Aberdeen)と呼ばれる南部の代表的な市街地です。

この辺りの1號幹線(Route 1)は通行車両の平均速度が異様に高く、自転車進入禁止の高架入口が複数ヶ所あり、概して道幅も狭いので注意が必要です。その一方で港鐵(MTR)の駅が近くにありますので、知っておくと輪行に便利でもあります。

香港仔を通り抜けて、海洋公園から香島道(Island Rd)に入ると再び景色が大きく変わります。いよいよ海洋に浮かぶ島らしくなってきました。

片側1車線は維持し続けているものの、歩道は部分的にしか存在せず、道幅も狭くて見通しも良くない道路が続きます。豊富なアップダウンに、切土に、崖道に、落石注意と、おおよそ亞洲國際都會が出して良いような雰囲気ではない険しい山道の連続です。

その反面、周辺の光景は息を呑むほどの美しさです。

ほどなくして、大潭道と赤柱村道の分岐点へと到着します。ここを直進すれば石澳、右折すれば赤柱が見えてきます。

石澳と赤柱。どちらも良い場所ですが、初めて訪れるのであれば赤柱のほうが良いかもしれません。

赤柱は雰囲気の明るい観光地でセブンイレブンやマクドナルドを始めとした補給地点が豊富にあります。ちょうど疲れてきた頃に、冷たい飲み物が頂けるのはありがたいものです。

ここまででも刺激的で変化に富んだライドを楽しめましたが、香港の名物でもある豊富なフェリー航路と港鐵路線を組み合わせると、およそ 200 もの島嶼と新界を組み合わせた「ちょっとした冒険」を気軽に楽しめるようになります。

その内容も南国のビーチリゾートから野生の牛が暮らす山林、数十kmにも及ぶ長大なサイクリングロードまでと多様性と意外性に満ちています。

自転車に乗って香港を走ってみると、この都市がいかにさまざまな顔を持っているか、徒歩で行ける範囲だけでは分からない全容が見えてくるのでオススメです。