甲州街道自転車散歩 新宿 – 藤野 – 八王子 105km

夏も終わりに近づく、ある日、早朝に目が覚めました。

午前中の予定は無し。麹町に 11 時までに戻ってこれる範囲内であれば、どこに出かけていても問題はありません。

この好機を活かせることに思いを巡らせ、ふと過去に登っていた峠道を再訪してみるかという気分になりました。

東京の過密に嫌気が差してからというもの、あれだけ通っていた奥多摩からもすっかりと足が遠のいてしまい、最後に訪れたのはいつだか思い出せないほどです。

今の状態で訪れてみたら、どう思うのだろうという好奇心、これこそ東京にいる今しかできないことだという気持ちから、自然と身体が動きます。

出発地点は久しぶりの新宿三丁目交差点。時刻は午前4時です。

出発時の気温は 26℃ 湿度 96% 風向きは南東 2m/s とやや向かい風です。

北海道から戻ってきたばかりということもあり、道路の狭さと周囲の車の運転速度の遅さは目に付くものの、年単位で避けていたことが不思議なぐらい普通に走行できます。

さすがに午前4時台なので、土曜日でもない限り、違法駐車のタクシーに路肩を埋め尽くされる心配も少ないです。

それよりも案内表示に出てくる初台や大原、八王子の表記に癒やされます。見慣れた地名の安心感が堪りません。




そのまま甲州街道を西進しつづけると、首都高速道なのか中央道なのか、良く分からない高架と分かれて環状八号線と交差します。

この道幅の狭さ、見通しの悪さ、路上駐車の多さは「まさに世田谷だな」としみじみ思います。甲州街道のなかでは世田谷と調布、国立あたりがピンポイントで道路が狭く、渋滞しやすくて危ないところですが、それらの地域の中では(困ったことに、そんな)甲州街道が最も走りやすい道路です。

国道246号線も山手線の外側(渋谷駅から西側)は路上駐車とバスと自転車が入り乱れて収拾がつかない状態ですし、目黒通りも世田谷区間は路肩が存在しないので通りたくないところです。

なんとか頑張って世田谷を抜けると調布に入ります。調布も道路は良くない(狭く、荒れていて、用事もない車まで混雑した駅前を経由するつくりになっている)のですが、ここまで来ると多摩川の河川沿いに逃げられるので、一時的に甲州街道を外れます。

時刻は午前4時50分。ようやく夜が明け、始発電車が動き出す時間です。

にもかかわらず、多摩川の河川敷はこの時間から驚くほど通行者がたくさんいます。まだ、ギリギリ5時になってもいないというのにランナーがたくさん、自転車乗りが少数、歩行者がそれなりにいて、人の流れが途切れません。

朝焼けの空が美しかったので、立ち止まって撮影していたら、ジョギングしてきたお婆ちゃんに話しかけれました。

これだけ人通りが多いところで話しかけられるのは初めてだったので、何かと思って少しばかり緊張。どうも写真が好きで、私が持っていたカメラが気になったようでした。終始、笑顔の途切れないノリの良いお婆ちゃんでした。

ときおり撮影のために河川敷に立ち入りながら、その隣を並行する一般道を走り続けているうちに聖蹟桜ヶ丘に到着しました。

本日の最初の目的地です。

多摩市にある関戸の「いろは坂」というのを登ってみたかったのです。

どこにあるのかは知っていましたが、じつはロードバイクで登ったことは一度もありません。

ここを登っても卸売市場に出るだけで、尾根幹線も微妙に遠いので経路に組み込みにくいのです。

あらためて訪れてみると、駅前からの距離が 500m ほどしかないことに驚きます。中心市街地のすぐ隣です。そのわりにヘアピンカーブの連続する立派な坂なので、地形としてもユニークです。

距離は 800m 程度と短いながら平均斜度は 6.8% もあります。

早朝の5時台には通行する車もおらず、バスも来ないので、街中であっても静かで快適でした。

登りきったあとには、さらなる目的地を目指して西進を続けます。

この先の多摩市と八王子市の間に百草園と呼ばれる勾配のおかしい坂があります。

3年ぐらい前に訪れて「こんな坂のぼれるか」と思ったわけですが、あれから更にいろいろな山道を経験して「今ならどう思うのだろう」という興味が湧きました。

ところが百草園の目の前の川崎街道を走行しながら、入り口を見落とすという失態をやらかして多摩モノレールの駅まで来てしまいました。

自分のポンコツっぷりをすっかり失念していました。

ここで引き返せば百草園には行けるでしょうけれども、11時までに麹町に戻らないといけないことを考えると、その先には進めなくなるので泣く泣く断念。

そう言えば、この辺りには高幡不動という平安時代から続くと言われる古刹もありました。

少し寄り道して、歩を進めると、ようやく八王子に到着です。ここで再び甲州街道と合流します。

八王子の千人町から高尾駅にかけては銀杏並木が美しいので、私は甲州街道ではこの区間が最も好きです。

次点は半蔵門で、その後はとくに思いつかないのですが…

そんなことを思いながら走行しているうちに、本日3番目の目的地である和田峠の入り口を見失いました。

しかし、雰囲気がよかったので高尾山口駅を越えて、そのまま大垂水峠に突入します。

高尾山口は訪れる度にお洒落になっていて、あたらしく珈琲店などもできていましたが、大垂水峠は相変わらずです。

斜度は緩くもなく厳しくもなく、標高は低く、展望はまったく開けず、ほんとうに通り抜けることだけに特化した実用性重視の単調な峠道です。

周辺が国定公園なのであまり開発できない事情もあるのでしょうか。

それでも登りきると富士山がよく見える場所がいくつかあります。

そして、この辺りまで来ると河川の水の透明度が高くなって、魚影が見えるようになります。

この自然環境と都心からの近さが魅力なのか、いつ訪れても登山者が絶えない場所という印象通り、今日も数多くの登山者と遭遇します。

さきほど八王子で見落とした和田峠に反対側から向かうため、ここらで西進を止めて藤野から北側に回り込みます。

そのまま、進めば鶴峠から奥多摩湖、甲武トンネルから都民の森に行けるところですが、時間もないので和田峠を経由して八王子に戻ります。

前回、和田峠を訪れたのは2年前だったか、3年前だったか、もはや記憶にすら残っていません。

ここに来る度に「八王子よりも藤野側のほうが厳しい」とつねづね思っていた通り、「裏和田」と呼ばれる藤野側は半端なく辛い峠道でした。

和田峠の枕詞にもなっている「平均斜度 10%」の八王子側は 3.5km の距離を休みなしに登り続けることで有名ですが、その反対にある藤野側は距離 6km のやや長い峠道です。

ただ距離が長いだけではなく、時折、出てくる急勾配を平坦区間で薄めて平均斜度 8% に均したと言ったほうが適当な坂です。

いまのところ、十勝岳の 14% & 13% の勾配標識につづき、登り勾配 13% & 12% の警戒標識が連続している坂をほかに見たことがありません。

実際に登ってみると、勾配のキツさと8月の残暑で目眩がしてくるほどでした。

山道ばかりを走って、少しぐらいは登れるようになったかと思いきや、成長を感じる暇もなくインナーローにギアを落とし、暑さと脱水症状に苦しみながら何とか峠を越えました。

楽しんでいる余裕など一切ありませんでしたが、ここに通い続けたからこそ、どんな山道にも臆さない度胸と体力と技能が身についたのだという気がして、少しばかり嬉しい気持ちになります。

あとは見知った峠道をくだって帰るだけです。

くだるだけと言っても、和田峠の八王子側は道幅が狭く、林道で薄暗く、曲がりくねった斜度 10% の急勾配が 3.5km も延々と続くので緊張の連続です。

朝も9時過ぎということもあって、登山者も自転車乗りも多かったので、最後の最後まで本当に大変でした。今では「よくこんなところを走っていたな」と感心してしまうほどです。

そういう意味では、たしかに和田峠に走り慣れておけば、どんな山道にでも対応できるのは間違ってはいませんでした。

緊張感と握力が途切れたところで、不足していた水分とカロリーを補い、京王八王子駅から輪行で帰ります。

本線の始発駅のなかで、もっとも空いていて使いやすいので、私は京王の3駅のなかで京王八王子が一番好きです。

橋本はJRとの乗り換え客、高尾山口は登山客で混雑するので、普通の終着駅の八王子のほうが余裕があります。

全通時のように京王八王子から山手線を越えて新宿追分、いっそ四谷見附まで来てくれると、うちから山が近くなって最高なのですが西新宿でも大いにありがたいことです。

「そもそも自宅にいることがほとんど無いだろ」という声が聞こえてきます。

特急電車に乗り込んだら 30 分ほどで新宿に到着しました。

午前中だけでも、それなりに遠出できるものです。

キャリパーブレーキはなくなる気がするという話

数年前にディスクブレーキ仕様のロードバイクの購入を検討して、あれこれと考えたことをまとめたことがあります。

その当時のロードバイクの価値観では「軽量化」が大正義であり、「転がり抵抗」や「エアロダイナミクス」なども今ほど一般的に語られる機会は多くありませんでした。

また、より重要な背景として、ディスクブレーキ搭載のロードバイク自体が実験的な製品の扱いであり、その特性が活きてくるような商品展開もなされていなかったことが挙げられます。

したがって、雨天走行を日常的に行うようなライダーを除いては、わざわざ少数派の(アップグレードパーツの選択肢の少ない)ディスクブレーキ車を選択するメリットが不明瞭でした。

ところが現在では、ホイールリムとタイヤのワイド化が進行していて、かつては「太い」と見なされていた 25C のタイヤが主流になりつつあります。

一部のモデルでは更にワイドなタイヤを採用する動きもあり、従来のキャリパーブレーキでは対応が難しくなってきています。

現在のホイールでさえ、ワイドリム非対応のキャリパーブレーキには大きすぎて、ブレーキアーチのレリーズを半開放しながら使用している人を見かけるぐらいです。




この点、ディスクブレーキであれば、ホイールリムのワイド化など問題になりません。

ディスクブレーキ専用設計のロードバイクの登場を待つまでもなく、もう既にディスクブレーキ車の優位性を一般のホビーライダーが実感できる環境が整いつつあります。

もちろん、クリアランスの自由度だけではなく、操作性や整備性もディスクブレーキ車に優位性があります。

ここでメーカー視点に立ってみると、生産ラインをディスクブレーキに一本化できれば、ダイレクトマウント、デュアルピボットといったキャリパーブレーキを何種類も製造する必要はなくなりますし、ホイールの開発や製造も容易になります。

自転車の部品の中で、もっとも精度が求められるのはどこかと考えると、候補の筆頭に挙げられる気難しい部分がホイールです。

スポークテンションが少し変わっただけで横振れが生じ、真円度がさがれば突き上げるように走行に異常をきたし、乗り心地にも加速感にも大きな影響を与えます。

それに加えて、最近のチューブレスタイヤの普及です。これによって以前にも増してホイール(リム)の精度が重要になっています。

空気も漏らさない程度の精度を維持しつつ、衝撃にも強くなければなりませんし、さらにキャリパーを含むリムブレーキでは摩擦熱や摩耗、雨天使用時の制動力にも気を配らなければなりません。

こうなってくると、ブレーキ面に特殊な加工が必要で耐摩耗性も要求されるリムブレーキ仕様のホイールを止めて、ディスクブレーキ仕様に傾注したくなることは自然だと思われます。

ここで、ふと考えてしまったのです。ロードバイクのキャリパーブレーキは将来的には無くなるのではないかと。

現在の状況が数年間で大きく変わることはないでしょうが、キャリパーブレーキを前提とした新製品の開発が止まることで、性能重視のフラッグシップモデルから徐々に先細りしていく未来を想像してしまいます。

廉価モデルは現状維持か、もしくはVブレーキのクロスバイクとコンポーネントの一部を共有することになるかもしれません。

それではディスクブレーキ車に飛びつけば良いのでしょうか。

私は少なくとも所有しているキャリパーブレーキ仕様のバイクを乗り潰すまでは、新車を購入するつもりはありません。

その理由を申しますと「まだ過渡期に見えるから」です。

SHIMANO, SRAM, Campagnolo の3社ともディスクブレーキ仕様のグループセットが出揃って、エンド幅やマウントの規格は落ち着いた感があります。

しかし、SHIMANO を眺めていると Di2 に続いてパワーメーター内蔵クランクやグラベル専用のグループセットを新規開発したりと、いろいろやりたいことを残しているような気がして仕方がありません。


SHIMANO GRX FC-RX810-2 クランクセット 48/31 T

個人的には次のロードバイクには電動無線コンポーネント、それらと統合されたサイコン、ディスクブレーキ専用設計のエアロフレームが欲しいです。

それはそれで非常に楽しみです。でも今は全てが機械式の今のロードバイクを精一杯たのしみます。

輪行中にフレームが割れたりしない限りは…

SONY Eマウント標準レンズ Tamron – A036 28-75 F/2.8

発売前から興味を持ってはいたものの、発売日にはベトナム出張中で購入できず、その後も「受取りできない」という理由で予約注文を拒否されてきた TAMRON 28-75mm F/2.8 Di III RXD を入手しました。

夏休みの北海道旅行を実現するため、いつもにも増して出張を断り続けた結果、最近では珍しく何週間も日本に長居することになり、図らずも予約注文を行える条件が整ったのです。

もちろん、北海道にもこのレンズを持っていきました。

約2ヶ月の間におよそ 6,000 枚ほど撮影するのに使用しましたが、購入前に想定したとおりのレンズで「明るい」ことと「寄れる」ことから、非常に使いやすかったです。

屋外での使用はもちろん、暗い室内において料理などのテーブルフォトを撮影する場合にも F/2.8 の明るさと 0.19m の最短撮影距離が強力な武器になりました。

ただ「明るくて」「寄れる」だけでなく、焦点距離を 28-75mm まで変動できるズームレンズなので、文字通りに用途を選ばずに使えることが心強く感じられました。

とくに荷物の量を極力少なくしたい旅行時においては、明るいズームレンズが1本あるだけで撮影できる対象が大きく変わってきます。

薄暗い夕暮れ時、光源の乏しい博物館、動き回る生き物など、このレンズを持ってきていて良かったと思えたことは数え切れないほどあります。




しかし、旅行を終えた直後にいろいろ考えて、結局、手放すことに決めました。

というのも、TAMRON 28-75mm F/2.8 Di III RXD は、あくまで(35mmフルサイズイメージセンサー向け)ズームレンズの中では小型軽量なのであって、長時間、持ち歩いていると質量も体積も気になってきます。

たとえば、SONY Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA のような小型の単焦点レンズを 2 本持っていくのと質量の面では大きく変わりません。

本レンズのズーム倍率は高くないので、レンズ交換の手間さえ厭わないのであれば、広角と中望遠のレンズがそれぞれ1本づつあれば、似たような運用ができるのではないかと思えてきます。

結局、ズームレンズを選択するということは「明るさ」や「軽さ」を犠牲にして「便利さ」を選ぶということになので、高倍率ズームの絶対的な利便性のほうが単焦点レンズ群との差別化になるのではないかと少しばかり考えてしまったり。

それだけならまだしも、個人的にイマイチだと感じた点は解像度です。

私はボケには拘りがないので、後ボケや玉ボケの形状などは気にならないのですが、レンズの解像度と歪曲だけは気になります。

よく補正されているためか、私が個人的に大嫌いなズームレンズの歪曲は全く気になりませんでしたが、解像度は使っているうちに自分が求めているものとは違うと思えてきました。

DSC00300
28.0 mm f/6.3 1/320

DSC00307
50.0 mm f/6.3 1/320

DSC00311
75.0 mm f/6.3 1/320

DSC01824
28.0 mm f/8.0 1/500

ここは一人ひとり求めるものが異なるので「モデルの血管まで写るようなレンズなんて使いづらくて仕方がない」という感想を抱く方も当然おられると思われます。

ボケ、解像度、焦点距離(とくに広角側の 28mm)が気にならないという方であれば、このレンズが1本あれば、ほかのレンズは全く使わなくなるということもあるかもしれません。

歪曲も気にならなく(直線が直線として表現され)、光条も割ときれいに写る(という細かなところまで意識して設計されているほどのレンズです)ので、レンズ自体の素性は極めて良いです。逆光はまあ…

DSC00280
46.0 mm f/5.6 1/60

DSC00177
71.0 mm ƒ/10.0 1/80

DSC03692
29.0 mm ƒ/9.0 1/400

DSC01474
29.0 mm ƒ/8.0 1/500

より広角(24mm)でボケ味までも追求するSONY ズームレンズ FE 24-70mm F2.8 GM SEL2470GM、圧倒的な「便利さ」を実現する FE 24-240mm F3.5-6.3 OSS SEL24240 、「便利さ」を追求しながら「そこそこの明るさ」と「画質」も両立している
FE 24-105mm F4 G OSS SEL24105G もこう見ると悪くないですね。

TAMRON 28-75mm F/2.8 Di III RXD は「寄れる」という素晴らしい特性もあるので、単純に質量と焦点距離と開放F値だけでは優劣は付けられませんけど。

ズームという画角の自由度を得ている分、「軽さ」や「明るさ」はある程度、引き換えになるのは仕方がないので、どこで妥協して、どういう使い方をするかによって相性の良いレンズが決まってきます。


TAMRON 28-75mm F/2.8 Di III RXD