真夏の北海道自転車旅 (1) 大洗出港

いつもお世話になっている丹下さんの夏休み北海道旅行に相乗りさせていただいて、北海道を自転車で縦断することになりました。

なんでも8月中旬のお盆休み前後の時期になると、太平洋側から出港する北海道行きのフェリーには直前キャンセルによって空席や空室が生じることがあるらしく、時期を合わせるとチケットを取れることもあるそうです。

その反対に日本海側のフェリーは台風や悪天候の影響を受けづらいことから人気が高く、予約開始直後にチケットを確保できていなければ、まず乗船することはできないのだとか。欠航の少なさと定時制と引き換えにチケット購入の難易度が高めのようです。

今回の旅行が決まったのは、なんと出航の一週間前。私が合流することが決まった時期に至っては、出航のわずか4日前という有り様です。

唐突にフェリーのチケットを取れたという連絡を受けたことで、私は慌てて予定を調整し、仕事を引き継ぎながら、久し振りのロングライド用の装備を整えることになりました。




いつも通りであれば、必要な携行品から目的地、宿泊先から走行経路に至るまで、何もかも自分自身で決定するところです。しかし、今回ばかりは引き継ぎに時間を取られて、おおよそ何の下調べもできないまま、船に乗り込むことになりました。

あまりに急いで家を出たので輪行袋の存在を忘れており、水戸に到着してから新規に現地で調達するはめに陥ります。

可能であれば輪行袋は持って行きたくないのですが、日本(と台湾の一部)の鉄道とホテルに自転車を持ち込む際には規則によって必要とされますので、持っていないと結局は自分が困ることになります。

香港の地下鉄でも輪行時には前輪を外すという不思議な規則がありました。

その点、フェリー移動の場合には分解収納は不要ですので、自転車の持ち込みに関しては気が楽なのですが、非常時のことを考えると鉄道利用の予定がなくても輪行袋を持っていた方がいいと思われます。

無事に輪行袋を入手して大洗に向かうと青空の下に見渡す限りの太平洋が広がっていました。事前の天気予報では台風の影響も懸念され、出航さえ危ぶまれていたことが嘘のようです。

そのままフェリーターミナルで乗船手続きを済ませて夕暮れを待ちます。大洗発のフェリーには夕方便と深夜便の2つがあり、そのうち私達の乗船する船は夕方便に当たります。

乗船手続きが始まると、徐々に駐車場の二輪車も数が増えてきました。

やがて日が暮れる頃に乗用車や二輪車の運転手が、続々とフェリーターミナルの外に移動していきました。

普通の乗船客はターミナルビルから専用の通路を通ってフェリーに乗り込みますが、自家用車を持ち込む場合、運転手だけは1階船室部分の車両および貨物搬入口から乗船することになります。

大洗-苫小牧間を運行する商船三井フェリーの場合、自転車も車両搬入口から乗り込むことになっており、四輪の乗用車が乗船を終えた後に自転車の乗船が始まります。自転車の次は二輪車で、最後に貨物の搬入を待って船が出港します。

大洗港を出る際には日も暮れて、あたりは完全に薄暗くなっていました。

間もなく夕食の時間が始まり、就寝時間がやってきます。

国内路線としては格段に長距離を航行する大型船だけあって、船内食堂も大きく、大浴場や給湯室、洗濯機まで完備していて船内は快適そのものです。

それでも台風などで波が荒い場合には食堂が営業しないこともあるそうです。

また食料品や土産物、歯ブラシや酔い止め、USBケーブルなどを販売する売店も設置されているためか、他のフェリー路線では当然のように設置されている冷凍食品やインスタントヌードルの自動販売機が見当たりません。

それらは船内の売店で購入することが可能ですが、売店には営業時間がありますので、深夜や早朝に何か食べたくなったときには注意が必要です。

私達が利用することになったのは SUPERIOR という等級の個室で、こちらも船内同様に広くて快適でした。室内に4つも電源が確保されていて、個室内の浴室にはシャワーまで完備されています。

着替えもバスタオルも準備されており、ビジネスホテルと違いが分からないほど立派に見えました。

もちろん、航行中には船体が揺れるので、ここがホテルの個室ではなく船の上なのだということは、しっかりと実感できます。

出航日前日までは荒天が予測されていただけに、大型船でも揺れるときはしっかりと揺れるみたいです。

幸いにも食堂が営業中止することもなく、船酔いしている乗客も確認されることはありませんでした。

翌日、目覚めると朝靄のなかに三陸海岸が見えました。北海道はもう目の前に迫っています。

つづく

行く前から分かった 積丹 自転車ツーリングの難しさ

自転車乗りでトンネルが好きな人は、あまりいないかと思われます。

たしかに夏は涼しいのですが、暗くて視界は悪いですし、狭くて逃げ場がありません。

降雨や漏水などで路面状況がよく見えない時などは、トンネル走行に恐怖しか感じません。

しかも、わざわざ費用と時間を掛けてトンネルを通すようなところは、基本的に交通量が多いところばかりです。

「峠道を登ってでもトンネルなんか通りたくない」と思うのは、自転車に乗り慣れてくると良くあることです(乗り始めたばかりで、上り坂が苦手なときは信じられないでしょうけれども)。

北海道の積丹半島は、地図で眺めているだけでも嫌になってくるぐらいトンネルだらけなのですが、北海道の内外から数多の自転車乗りを引き寄せます。

それだけ、魅力的だという証左なのでしょうが、2019年現在、道外から社会人が訪れようとすると難易度が高い土地でもあります。




2019年と限定しているのは、北海道新幹線が倶知安や新小樽まで延伸されれば、劇的にアクセスが改善されて訪れやすくなるからです。

また、本州の社会人にとっては困難ですが、たとえば長期休暇をとれる学生にとっては、日数さえ掛ければ無理なく到着できますので、それほど難易度は高くないかもしれません。

難易度をあげている要素は主に3つありまして、具体的には以下のようになります。

  1. 北海道自体の遠さ (それによって生じる) 現地到着時間の遅さ
  2. 出発地点から積丹半島までのアクセス
  3. 活動時間の短さ

ご存知の通り、東京や大洗から自転車を持って北海道に行こうとすると、北斗(新函館)や苫小牧といった都市が出発地点になります。

この時点で積丹半島から 150km から 200km 近く離れています。しかも、(まあ良くあることなのですが)公共交通機関はあまり頼りになりません。

それは (よくあることなので) まだ良いとしても、経路のほとんどが山間地なので、小樽や定山渓温泉(札幌市南部)、倶知安など決まった地点にしか宿泊施設がありません。

道北や道央を目指す場合とは異なり、到着後、その日のうちに「行けるところまで行って距離を稼いでおく」という旅程を考えることが極めて難しいです。

しかも、北海道に到着した時点で昼または午後なので、出発時間を早めることもできません。

新幹線で新函館駅に到着した場合も 90km 先の長万部はともかく、倶知安までは約 165km も距離がありますので、正午から走り出して同日中に到着するのは難しいです。

「多少は暗くなっても」と思われても、この辺りはヒグマの生息地なので、夜間走行はあまり推奨されません。

ヒグマの生態・行動習性/札幌市
https://www.city.sapporo.jp/kurashi/animal/choju/kuma/seitai/index.html

結果として、実際の距離以上に遠くて、アクセスが難しく感じるわけです。

苫小牧に到着した日の深夜に倶知安まで行けると楽なのですが…

行き先 出発時刻 到着時刻
北海道新幹線 東京 -> 新函館 6:32 (始発) 10:53
商船三井フェリー 大洗 -> 苫小牧 19:45 翌日 13:30

これがオロロンラインであれば、休日1日目の夜にフェリーに乗り込み、2日目の午後に苫小牧に到着、そのまま、美唄や砂川まで北上して3日目から道北入りも検討できます。

ところが積丹の場合、2日目に北海道に到着した後は宿泊施設がある地点で足止めを受け、3日目にようやく積丹半島の入り口に辿り着き、時間的に一周が難しければ、そこでまた足止めです。

もしくは「何のために北海道に来たのだ…」という気持ちを抑えつつ、2日目は石狩平野の市街地を走って札幌に宿泊し、3日目の朝に JR で輪行することが現実的でしょうか。

快速を使って約 80 分間の輪行で余市まで辿り着けますので、そこからの積丹半島一周なら当日中に達成できそうです。

もはやフェリーと列車を乗りに行くことが目的のようになってしまうことが難点ですね。

こうした積丹半島のアクセスの救世主になりそうなのが、新潟発の新日本海フェリーです。

行き先 出発時刻 到着時刻
新日本海フェリー 新潟 -> 小樽 12:00 翌日 4:30

休日1日目の朝に新幹線で新潟まで行き、昼からフェリーに乗り込んで、2日目の早朝に小樽に到着。これなら余市、稲穂峠、泊を経由して小樽から約 200km の積丹半島一周が達成できそうです。

3日目に南下して新函館を目指されても良いですし、もう少し休日が続くようなら道央も選択肢に入ります。

気をつけないといけないのは、現状では倶知安から長万部方面 (函館本線という名前でありながら函館まで行かないので…)には 1日に7本しか列車が来ません ので、新函館までのほぼ全区間を自走する覚悟で予定を組まないと厳しいかもしれません。

最後の手段として飛行機輪行を解禁したとしても、この地域の最寄りの空港は 200km 近く離れた新千歳空港、つまり、苫小牧のすぐ隣ですので往路のときと同じ問題が立ちはだかります。

いろいろ考えていると「積丹半島は新幹線が開通してからでいいや」と思えてきますので、長万部までで良いので早く新幹線を通してください。

もちろん、倶知安まで先行開業なら最高です(輪行的に)。


以下は倶知安までの先行開業を主張する北海道商工会議所連合会の関連サイトです。ガイドブックが凄く良くできていて一見の価値があります。

サイクル・ツーリズム北海道推進連絡会
https://www.hokkaido.cci.or.jp/cycletourism-hokkaido/

夏の北海道 – 自転車旅行を考える

唐突ですが、私は首都移転に賛成です。そして移転先は現実的に考えて、北海道をおいて他にないと考えています。

アジアと北アメリカを結ぶ航空と海上交通の要衝に位置しており、空港や港湾の立地として最適なこと。

東京、名古屋、大阪の3都市から十分に距離が離れていて同時に被災しないこと。

都市を新設するために必要な平地と水があり、地権者もすくないこと。

ついでに道東であれば降雪量も少なく、大陸からも離れていること。

と、勝手に思っているのですけれども、じつは北海道にまともに行ったことがありません。一応、札幌というか、北海道大学というか、その中の工学部だけは数年前に会議で行ったことがあります。

会議内容を除いては「積雪量が凄すぎる」「市内は良く除雪されているのに構内は危ない」「新千歳空港は SUICA は使えるのに ICOCA は使えない」「新千歳から札幌に行くのは関空から京都駅に行くのと同じぐらい大変」といった程度の感想しか抱かない旅行でした。

つまり、あんまりよく知らないわけです。

ただ毎夏、北海道を自転車で横断したり、縦断したりしている人たちの話を聞いていると、本州では得難い体験ができる魅力的な土地のようです。

「積丹ブルー」という言葉で有名な神威岬、ウィンタースポーツで名高いニセコ連峰と羊蹄山、国内有数のヒルクライムスポット十勝岳、最北端の宗谷岬といった具合に、一度は訪れてみたい名所が数え切れないほどあります。

問題はそのどれもがアクセスが大変で、辿り着くまでに必要とされる移動時間が異様に長いことです。

そして 小樽 から 新千歳・苫小牧 に至る札幌都市圏の大動脈、旭川 – 札幌 間の特急列車を除くと、あまり公共交通機関を当てにできません。

道内での移動を前提に考えるよりも、羽田空港(東京)から飛行機で移動したほうが早いのではないかと思える場所も少なからず存在します。

以下は羽田空港から直行便が出ている道内の空港です。

とくに道東や道北の場合、移動時間的にも、飛行機の発着数的にも道内よりも東京のほうが「近い」場合があることを考慮に入れて、移動経路と帰りの交通手段を考えなければなりません。

そうは言っても、飛行機輪行を頻繁に行いすぎて最近では飽きてきたので、今回は「もっと簡単で一般的な方法」を考えます。




つまり、フェリーと新幹線です。

これらの交通手段の長所は、特別な準備が不要であることです。

短所は飛行機に比べて移動時間が長くなること、ならびに行き先が限定されることです。

2019年現在、フェリーでは小樽か苫小牧のどちらか、新幹線なら現状では新函館までしか行けません。

飛行機とは異なり、道東や道北には直接アクセスできません。

もし北海道新幹線が倶知安まで開業していれば、北陸新幹線の長野駅に並ぶ最強の輪行駅になるのですが、現状では 東北の延長 北海道の入り口までしか行けませんので使いどころが難しいです。

それでも飛行機よりも予定変更に対する柔軟性が有り、定時性が保証されていて、毎時1本は東京まで行きますので、覚えておくと頼りになります。盛岡行きであれば終電が20時以降というのも心強いです。

もちろん出発地点も限定されており、関東から新函館なら東京駅(大宮駅)、苫小牧なら大洗港、小樽なら新潟港が出発地点になります。

東京や大洗はともかく「新潟?」と思われるかもしれませんが、新潟と小樽を結ぶ新日本海フェリーは船としては高速であり、到着時刻も早朝 4:30 と使いやすいため、目的地次第では現実的な選択肢です。

東京駅から新潟までの新幹線とフェリー運賃の合計金額も、新函館駅まで新幹線で直行する場合と大きく変わりません。

新幹線で当日の午前中に函館に到着したとしても、新函館駅から洞爺湖まで約 140km、倶知安まで約 165km、余市まで約 200km ほど離れていますので、目的地が道央であれば到着時刻はフェリーと大差無いかもしれません。

行き先 出発時刻 到着時刻 運賃※
北海道新幹線 東京 -> 新函館 6:32 (始発) 10:53 22,690円
商船三井フェリー 大洗 -> 苫小牧 19:45 翌日 13:30 10,200円
上越新幹線 東京 -> 新潟 6:08 (始発) 8:13 10,570円
新日本海フェリー 新潟 -> 小樽 12:00 翌日 4:30 7,300円
新日本海フェリー 舞鶴 -> 小樽 23:50 翌日 20:45 11,200円
行き先 出発時刻 到着時刻
北海道新幹線 新函館 -> 東京 18:40 (最終) 23:04
商船三井フェリー 苫小牧 -> 大洗 18:45 翌日 14:00
新日本海フェリー 小樽 -> 新潟 17:00 翌日 9:15
新日本海フェリー 小樽 -> 舞鶴 23:30 翌日 21:15

※新幹線の運賃は普通車指定席の通常価格です。

フェリーの運賃は時期と船室によって変動します(掲載しているのは夏季の最安値です)。ほかに自転車の運賃が必要となる場合があります。

また時期によって運行時刻の変動があります。





行き先と移動手段が定まったところで、今度は持ち物を考える必要が有ります。まず何はなくとも気象データをご覧ください。

札幌や旭川には用事はありませんので、自転車で出かけて楽しそうなところばかりを選んでみました。


日最高気温(℃) 日最低気温(℃) 月間降水量(mm)
稚内 7月 19.7 14.5 90.6
上富良野 7月 25.6 15.3 101.5
中標津 7月 20.6 12.1 136.5
釧路 7月 18.6 12.8 127.7
襟裳岬 7月 16.9 12.8 130.8
倶知安 7月 23.9 15.6 96
神恵内 7月 23.1 16.6 111.5
東京 7月 29.2 21.8 153.5
日最高気温(℃) 日最低気温(℃) 月間降水量(mm)
稚内 8月 22.3 17.3 116
上富良野 8月 26.4 16.2 148.5
中標津 8月 23.0 14.5 147.8
釧路 8月 21.2 15.5 130.8
襟裳岬 8月 19.8 15.6 125
倶知安 8月 25.4 16.8 141.6
神恵内 8月 25.4 18.5 121.1
東京 8月 30.8 23.0 168.2

参照:気象庁


稚内はご存知のとおり宗谷岬があるところです。上富良野は十勝岳、中標津は知床の羅臼岳にそれぞれ近く、神恵内は積丹半島にあります。

ここで注目すべきは釧路や襟裳あたりの最高気温です。誤植ではないかと疑われるような数字が並んでいることがお分かりになると思われます。

以前、私が住んでいた中央ヨーロッパよりも、よっぽど寒いですし、しっかりと雨も降ることがデータから読み取れます。

北海道の広大さを考えると、滞在期間は最短でも3泊4日ぐらいは欲しいところですし、そうなると着替えの服も1着は欲しくなります。

防寒対策に、雨天対策に、着替えの服 (予備のサイクリングジャージ) とビンディングシューズ以外の靴、行き先によってはキャンプ道具と考えていくと、通常の自転車旅よりも必要な荷物が増えていきます。

道中で必要なくなった荷物を積極的に郵送して軽量化を行うなどの工夫が必要になるかもしれません。

とくに移動時間の長さを考えると、往路は飛行機で目的地の近くまで移動して、復路は特急列車とフェリーと新幹線を利用 (飛行機輪行用のハードケースは現地から郵送) といった変則的な輪行も検討の余地があります。

最後に補給地点ですが、これは計画当初に考えていたよりも、ずっと良さそうです。

道東の知床半島の斜里町と羅臼町や標津町の間でも 30km から 50km ほど走行すれば、地図上では次のコンビニが見えてくるので、閉店の有無と営業時間さえ事前に調べておけば大きく問題になることはないはずです。

東京都の奥多摩でも 50km ぐらい走らないと最寄りのコンビニに辿り着けないことはありますし、離島ではコンビニすら存在しない場合もあることを考えると、来訪者に優しくて助かります。それだけ、冬季の生活環境が過酷ということなのでしょうけれども。

場所が場所だけに、牧場もあちらこちらにあります。

補給の不安はなくなっても、移動距離と寒冷な気候から依然として普通の自転車旅よりも難易度が高いのですが、だからこそ、北海道には特別感があっておもしろいものなのかもしれません。


以下は新幹線の部分先行開業を主張する北海道商工会議所連合会の関連サイトです。ガイドブックが凄く良くできていて一見の価値があります。

サイクル・ツーリズム北海道推進連絡会
https://www.hokkaido.cci.or.jp/cycletourism-hokkaido/