自転車用途としての一眼レフの使いやすさ・使いにくさ・ミラーレスとの比較

APS-C の小型ボディで超広角レンズを使いたくなったという理由で、新たに一眼レフカメラを購入したのはつい先月のことです。

それから数週間の試用期間中に撮影枚数は 1,000 枚を超え、カメラを担いで自転車で走った距離も 400km を超えました。獲得標高の指標で見ると優に 5,000m を超えます。

これだけ試用していると、全てとは言わないまでも自転車趣味用カメラとしての一眼レフの良いところ、悪いところ、思わぬ陥穽などが見えて来ます。

あくまで自転車趣味という特殊な用途から見た感想なので、他の用途には参考にはならないかもしれないことを最初にお伝えしておきます。

自転車趣味用途では基本的に望遠レンズや三脚を使用することは稀です。

重量が嵩むのでスピードライトなどは持ち運びません。

林道の中は暗いので、高感度に強い方が望ましいことは確かなのですが、これも必須ではありません。

反対に NDフィルター (光量調節用) PLフィルター (反射除去用) といったフィルタはレンズ保護も兼ねて常用します。

撮影環境が過酷なので レンズペン mont-bell アクアペル は必須ですし、最悪、壊してしまっても良いという割り切りも常に求められます。

重要となるのは画質や性能だけではなく、価格や携帯性、中古品の入手性などの様々な要素のバランスです。




その中でも特別に重視しなければならない要素は軽さです。

数千メートルも山に登ったり、数百キロメートルも距離を走ったりするので、どんなに写りが良くても軽くなければ持ち運べません。

その視点から私が選んだ Nikon D5600 も一眼レフ最軽量モデルの一つです。

一眼レフとは言え、最軽量モデルであれば走行時に重さが気になることはありません。

少しでも重さを負担に感じたら、普段使いしているミラーレスカメラに切り替えようと思っていたところですが、幸いにして我慢できないほど重いと感じることはありませんでした。

ただしカメラ本体とレンズの大きさにだけは不便さを覚えます。

特に斜度が 12% を超えるような急坂でストラップが暴れると邪魔としか言いようがなくなります。

運搬性の悪さと引き換えに、撮影時の利便性が高いことは購入時にも述べた通りです。

ファインダがあるので眩しい屋外でも安定してピントが合わせられること、本体が大きく持ち手で支えやすいことなど多くの利点があります。

しかし、これもミラーレスに慣れていると、電子水準器が付属しないこと、焦点部位を拡大したりピーキングしたりできないこと、そしてファインダに写された画がそのまま写真として出力されないことに不満を覚えます。

軽量化を目指した小さなファインダでは見えづらい場面もどうしても存在するのですが、こんな時に一眼レフにできることは、絞りを絞ってピントの合う範囲を広げることぐらいです。

出力の問題はより深刻です。ミラーショックのように物理的な振動でブレることもありますが、さらに要注意なのは意図せず設定が変わっている状態に気がつきにくいことです。

私の場合、絞り優先オートで使用していたところ、いつの間にかダイアルがずれてシャッタースピード優先で撮影し続けていることがありました。

ミラーレスであればその場で気がつくところですが、一眼レフではよほど注意を払わなければ気づけません。

そして自転車趣味用途では、のんびりと出力結果や撮影設定を見直している時間があることは滅多にありません。

そもそもの原因は走行中の保護のために背面液晶を畳んだままにしておくことにあります。

この液晶画面は撮影した写真の出力を確認する用途には小さいので、撮影頻度が多い場合、その度ごとに開く気にはならず、結果として畳んだまま運用してしまうことが常態化しています。

こうなると軽量さと優秀な電子ビューファインダを両立させた SONY α7 II ・ ILCE-7M2Zeiss Batis 18mm f/2.8 の組み合わせを持ち出したくなるものですが、センサーサイズに比例してレンズの体積が増える点が頂けません。

重さはともかく、自転車ではボディもレンズも小さい方が圧倒的に使いやすいです。

もちろん、短所だけでなく一眼レフの長所が再確認できた点もあります。

まず一点目は価格の安さです。

Nikon D5600 と AF-P DX NIKKOR 10-20mm f/4.5-5.6G の組み合わせなら、新品購入でも10万円以下で購入できてしまいますし、今ならキャッシュバックで更に割安になっています。

ミラーレスで同じことをしようと思えば予算が1桁増えてしまいますので、振動、直射日光に雨風雪、潮風に砂塵嵐に大幅な気温変化といった過酷な環境で使用することを考えると、一眼レフの方が気兼ねなく使い倒せます。

二点目はバッテリーの持ちの良さです。これは購入前に想像していた以上でした。

2泊3日の旅程でバッテリーを気にせず撮影してみたのですが、私の使い方では予備バッテリーどころか充電器すら不要という驚愕の結果となりました。

ミラーレスで同じことを行うと1日でバッテリーを使い切るところですが、一眼レフでは足りなくなったのは記憶媒体の容量のみで、バッテリーは再充電すら不要と思えるほど余裕がありました。

三点目は英語対応で海外にも豊富に代理店があるところです。

昔の Nikon では日本向けのモデルでもドイツ語ほかの言語に切り替えることができ、オーストリアに住んでいた私などは (東京に来た際に割安で購入できて) 大変助かった思い出もあります。

現行モデルは英語だけとは言え選択肢があるのは良いことです。

友人に貸し出したり、他の人に撮影してもらったり、あるいは出張先や休暇中に壊して店舗に持ち込む場合でも、英語一つあるだけでも選択肢が大きく増えます。

他にも電源を入れてからの立ち上がり時間やオートフォーカスなど気づいた点は多々ありますが、モデルやレンズの差の方が要因として大きいのでここでは割愛します。

ある程度、試用してみて改めて痛感したことは、万能な機材は存在しないという当然の事実ですが、購入前に想像していたよりも遥かに使いやすくて、レンズの選択肢も豊富にある一眼レフも (ミラーレスの方が便利な点も少なからずあるにしろ) 自転車趣味用途で使用するのに悪くない選択肢になりうるとも思われました。

以下、撮影例。

CANYON に学ぶ自転車の梱包と飛行機輪行

CANYON の自転車を購入するとライン川下りの名所として知られる “ドイツの角” のすぐ近くから、ダンボール箱に梱包された自転車が自宅まで届けられます。

なんだか送り元の住所に既視感があるような、ここ通り掛かったことあるんじゃないかな…

という気がしてくるのは置いておくとして、箱の中身の方に目を向けると空輸されることを前提とした梱包の工夫が随所に見てとれます。

繊細なカーボン素材のフレームやホイールの輪行では、タオルやホイールバッグなどを緩衝材にして厳重に梱包したくなるものですが、CANYON の対処方法を観察していると「箱の中で自転車が動かなければいい」という簡潔な方針に従っているようです。

これぐらいで大丈夫なのだろうかと思われるかもしれません。

そう思われる方が自然です。

実際に私が運送会社から自転車を受け取った時点で、外箱には穴が空いていたり、凹んでいたりと輸送距離を感じさせる損傷が見らました。

外箱に直に干渉しているホイールなどを見ると不安に思われますが、確認したところ破損などは見られません。

自転車本体を内部でしっかりと固定する緩衝材と外箱を補強する「突っ張り棒」の役目を果たすダンボールの補強材を組み合わせることで、衝撃や圧迫から自転車が守られているのです。

外箱が大きく変形しやすいことを考えても補強材の役割は重要です。

これがあることで飛行機の貨物室などにある他の荷物に自転車が押し潰されることを予防できます。




この便利な外箱を飛行機輪行に再利用したいところなのですが、残念ながら多くの国際線旅客機では預け荷物の規定サイズを超過するために再利用は難しそうです。

外箱の寸法が大きくなる理由は、後輪を装着したままの状態で自転車を収納するためです。

自転車の保護を考えるなら良い方法ではありますが、日本の輪行環境だと採用は難しいものがあります。

反対に積極的に再利用する価値があるのは、自転車を固定する緩衝材とマジックテープの方です。

こちらは外してしまうと区別ができなくなってしまいますので、予めサインペンで緩衝材に固定位置をメモしておくと確実です。

他にもチェーンの位置は内側のインナーローに落として変速機を保護する、タイヤの空気圧は適度に抜いてホイールの緩衝材として使う、大きな工具は内包しないなど、見れば見るほど飛行機輪行のお手本のような工夫が随所に見られます。

それだけ経験と実績のある CANYON の梱包を見るに、結局、輪行では

  1. 自転車部品どうしが擦れ合わないようにしっかりと固定する
  2. 他の荷物に押しつぶされないように自転車を守る
  3. ( そしてライド時と同じように ) 落下や転倒などの衝撃に晒さない

という3点だけを守れれば十分ということなのでしょう。

電動コンポの真価と機械式を積極的に選ぶ理由

電子制御により簡潔な動作で確実な変速を行う電動変速システムは、自費でバイクを購入する一般の消費者すべてが恩恵を受けられる画期的な発明だと私は考えます。

変速に関する一切の懸念が払拭される走行時はもちろん、整備時においても調整時間の短縮が可能となり、絶妙な変速調整を再現するための熟練を機械式ほど必要としない事から、どこの誰であっても安全で快適な変速を享受でき、11速のギアを効率的に利用できるようになります。

絶妙な変速調整と言えば、リア変速機のディレイラーハンガーの修正等と並んで、腕の良い整備士に任せたい難易度の高い作業です。

学習意欲と注意力と根気さえあれば、(性能の追求は別として) 安全に走れる形にはなるホイール組みや振れ取りよりも、よほど難しいだと個人的には思います。

専属の整備士がいるプロのライダーであるならともかく、私のような一般の消費者にとって、その絶妙な変速調整を実現できるようになるまでの学習費用、調整を依頼する為に店舗に通う時間的費用、安全で確実な変速が保証されている事の意味は大きいです。

腕の良い熟練の整備士の技能を機械的にほぼ再現してくれる電動変速システムは、それに用いられているセンサー等の部品や技術以上に、技能の再現という視点から捉えた場合に安過ぎるぐらいに安価です。

ロードバイクに限らず、新しくバイクを購入する際には真っ先に導入を検討する価値があります。

もちろん、使用者の不満も耳にしない訳ではありません。

突き上げるような激しい振動の中で長時間使用するとジャンクションパーツが飛び出たり、冬のカナディアン・ロッキーのような極端な低温環境で使用していると電池の動きが悪くなるなどの他者の体験も間接的に知っています。

ホイールでも何でもそうですが、私が何か新しいものを導入する際に下調べも何もしない事はありません (不必要なものを所有したり生活に無駄が出るのが大嫌いなので)。

ただ使用環境や使用用途が異なるので、他人の意見は他人の意見として参考に留めているだけに過ぎません。

反対に他者の意見では余り指摘されていない内容で、私が個人的に気になる点もあります。変速機そのものではなく、そこに用いられるリチウムイオン電池です。

携帯式のモバイル端末や電子機器に当たり前のように使用されている事から、意識される機会自体は少ないのですが、本来は輸送などに法令の規制を受ける危険物です。

プロの激しいレースでも用いられているぐらいなので、注意事項を守って通常使用している分には安全性の問題はないと思われますが、充電や運送や保管などの取扱いについては細心の注意が求められます。

それを最も顕著に見て取れる事例は飛行機輪行です。

ご存知の通り、ロードバイク等のスポーツ自転車は航空会社の定める規定に従って旅客機輸送 (輪行) する事が可能ですが、発火の危険性のあるリチウムイオン電池は温度変化や振動の少ない客室に持ち込まなければ荷物として携行できません※。

自転車のフレーム内に電池を内装する電動コンポーネントとの相性は率直に言って良くありません (その点、変速機そのものに着脱が容易な充電池を搭載する eTap は、飛行機輪行に限定して述べれば便利な構造をしています) 。

また機械装置と電子工学技術を応用させた変速機自体も機械式の変速機と比較して複雑な構造をしています。

電動コンポーネントではシフトケーブルの本数を減らす事が可能なので、自転車の見た目はシンプルにする事ができる反面、コンポーネントの機械としての構造は複雑になります。

それがそのままユーザーがあれこれできる範囲を狭めることと同義にはならないものの、(特に海外の山奥での) 故障や損耗時の対処を考えると機械式コンポーネントの構造の単純さの方が有難い場面もないとは言い切れません。




翻って私の使用環境を確認してみますと、飛行機輪行は日常の光景です。

行きたい場所もかつて住んでいたオーストリアの舗装路最高地点 (2,829m)、親友の故郷の南フランスの田舎町、何かと縁のある台湾やベトナムの山奥と言った具合にコンポーネントの修理や交換部品の調達に困難を伴う事が予想される土地が大半となります。

そもそも最初のロードバイクを購入した動機からして、1年間の期限付きの国際免許証に縛られずに自由に旅に持ち出せる自転車が良いというものでした。そこで電池の取扱いで制約を受けるのも何か違う気がします。

極めつけは私は複雑なものが嫌いで、機能的で単純なものが好きです。

これまでの話をまとめますと、電動コンポーネントのもたらす機能的な恩恵はとても魅力的で、視覚的にも自転車の設計の自由度を向上させるだけでなく、外見をシンプルに美しく見せる事ができるようになります。

普通に使用する分には約1,000kmの走行距離あたりに1回の充電が必要になるなど、デメリットにならないぐらいのデメリットしか有りません。

機械式と比較すると割高に見える価格設定も、熟練の技能 (の再現) を誰でも、世界中の何処にいても継続的に受けられると考えれば格安です。

導入を考えない理由など思いつきません。

それでも機械式コンポーネントを私が選択した理由は、構造の単純さ、トラブルへの強さ、取扱いの容易さに強い価値を見出したからに他なりません。

たとえ、内装ケーブル交換の手間と (電動コンポーネントモデルと比較して) ケーブルが邪魔に見える外見を甘受したとしても。

何の話かと申しますと、

また機材が増えた (それも機械式コンポーネントの)

という単純な話です。

増えた機材の話はこちら


※ リチウム含有量や電力量が基準値を超える場合は持ち込みそのものができません