キャリパーブレーキはなくなる気がするという話

数年前にディスクブレーキ仕様のロードバイクの購入を検討して、あれこれと考えたことをまとめたことがあります。

その当時のロードバイクの価値観では「軽量化」が大正義であり、「転がり抵抗」や「エアロダイナミクス」なども今ほど一般的に語られる機会は多くありませんでした。

また、より重要な背景として、ディスクブレーキ搭載のロードバイク自体が実験的な製品の扱いであり、その特性が活きてくるような商品展開もなされていなかったことが挙げられます。

したがって、雨天走行を日常的に行うようなライダーを除いては、わざわざ少数派の(アップグレードパーツの選択肢の少ない)ディスクブレーキ車を選択するメリットが不明瞭でした。

ところが現在では、ホイールリムとタイヤのワイド化が進行していて、かつては「太い」と見なされていた 25C のタイヤが主流になりつつあります。

一部のモデルでは更にワイドなタイヤを採用する動きもあり、従来のキャリパーブレーキでは対応が難しくなってきています。

現在のホイールでさえ、ワイドリム非対応のキャリパーブレーキには大きすぎて、ブレーキアーチのレリーズを半開放しながら使用している人を見かけるぐらいです。




この点、ディスクブレーキであれば、ホイールリムのワイド化など問題になりません。

ディスクブレーキ専用設計のロードバイクの登場を待つまでもなく、もう既にディスクブレーキ車の優位性を一般のホビーライダーが実感できる環境が整いつつあります。

もちろん、クリアランスの自由度だけではなく、操作性や整備性もディスクブレーキ車に優位性があります。

ここでメーカー視点に立ってみると、生産ラインをディスクブレーキに一本化できれば、ダイレクトマウント、デュアルピボットといったキャリパーブレーキを何種類も製造する必要はなくなりますし、ホイールの開発や製造も容易になります。

自転車の部品の中で、もっとも精度が求められるのはどこかと考えると、候補の筆頭に挙げられる気難しい部分がホイールです。

スポークテンションが少し変わっただけで横振れが生じ、真円度がさがれば突き上げるように走行に異常をきたし、乗り心地にも加速感にも大きな影響を与えます。

それに加えて、最近のチューブレスタイヤの普及です。これによって以前にも増してホイール(リム)の精度が重要になっています。

空気も漏らさない程度の精度を維持しつつ、衝撃にも強くなければなりませんし、さらにキャリパーを含むリムブレーキでは摩擦熱や摩耗、雨天使用時の制動力にも気を配らなければなりません。

こうなってくると、ブレーキ面に特殊な加工が必要で耐摩耗性も要求されるリムブレーキ仕様のホイールを止めて、ディスクブレーキ仕様に傾注したくなることは自然だと思われます。

ここで、ふと考えてしまったのです。ロードバイクのキャリパーブレーキは将来的には無くなるのではないかと。

現在の状況が数年間で大きく変わることはないでしょうが、キャリパーブレーキを前提とした新製品の開発が止まることで、性能重視のフラッグシップモデルから徐々に先細りしていく未来を想像してしまいます。

廉価モデルは現状維持か、もしくはVブレーキのクロスバイクとコンポーネントの一部を共有することになるかもしれません。

それではディスクブレーキ車に飛びつけば良いのでしょうか。

私は少なくとも所有しているキャリパーブレーキ仕様のバイクを乗り潰すまでは、新車を購入するつもりはありません。

その理由を申しますと「まだ過渡期に見えるから」です。

SHIMANO, SRAM, Campagnolo の3社ともディスクブレーキ仕様のグループセットが出揃って、エンド幅やマウントの規格は落ち着いた感があります。

しかし、SHIMANO を眺めていると Di2 に続いてパワーメーター内蔵クランクやグラベル専用のグループセットを新規開発したりと、いろいろやりたいことを残しているような気がして仕方がありません。


SHIMANO GRX FC-RX810-2 クランクセット 48/31 T

個人的には次のロードバイクには電動無線コンポーネント、それらと統合されたサイコン、ディスクブレーキ専用設計のエアロフレームが欲しいです。

それはそれで非常に楽しみです。でも今は全てが機械式の今のロードバイクを精一杯たのしみます。

輪行中にフレームが割れたりしない限りは…

真夏の北海道自転車旅の持ち物

オマケ記事と見せかけて、ある意味、こちらが本編です。

8月の第1週目から3週目に渡る、真夏のおよそ10日間で北海道東部を自転車で周遊する装備を考えました。

前提として、(1)キャンプ泊はせず宿泊施設を利用する、(2)荷物の運搬はリュックサックのみを使用、それにより特殊な輪行袋やハードケースは運搬できないので、(3)移動手段はフェリーと鉄道のみを使用するという3つの条件がありました。

また北海道東部を旅するにあたり、本州との気温差、移動時間の長さ、滞在中の悪天候は当然として、携帯食料品と自転車補修部品の調達、非常時の緊急脱出経路の確保の難しさが懸念されました。




いざという時には、知床や標津でレンタカーを借りて運転することになるので、安全に運転ができる靴を携行することも必須です。

なおかつ、荷物を背負いつつ、1日に 150km から 200km を走行しなければならないので、無制限に荷物を増やすわけにもいきません。

基本装備として予備のタイヤ、タイヤブート、タイヤチューブ、ミッシングリンク、携帯工具、空気入れ、専用のディレイラーハンガーは必須となります。

ディープリムホイールをご使用中なら、バルブエクステンダーもお忘れなく。


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雨天走行も考慮して、携帯ルブやレインコートも持参することが理想的です。

それから財布や貴重品、スマートフォン、サイクルコンピュータも欠かせません。

私はロードバイク用の財布として、2年間、ほぼ毎日 ÖGON を使用していますが、機能性でも、耐久性でも、いまのところ、これに敵うものはありません。

サイクルコンピュータはデフォルトの地図ファイルを上書きすると、ナビとして利用できるようになります。

私が一人で自作していた頃には、あまり利用されている方はいないようでしたが、最近では地図ファイルを配布されている方もおられますので、導入の敷居は低くなっています。

何日も続けてライドをつづけていると、その都度、ルートを書き直して登録するなんて実質的に不可能ですし、地図を見ながら行き先を考えるほうが楽です。

そもそも事故や通行止めなどでルート通りに行かないことが多いので、私はもう何年もルートなんて使用していませんし、その必要性をまったく感じません。


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ライド時の装備が整ったら、次に考えるべきは着替えの衣服や靴です。

道北や道東は真夏でも 10-25℃ と気温が低く、風が強いので長袖ジャージに加えてインナーウェアも欲しいところです。

一方で本州や道央は気温が高いので長袖に重ね着などしていらません。

両方を別個に持っていこうとすると、自転車で持ち運ぶには現実的ではない量と重さになってしまいます。そのため、着替えのウェアはインナーとしてもアウターとしても使用できるものを考えたほうが良いです。


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それに加えて、折りたたんだ際の体積と質量の最小化、(出先で洗濯することを考慮した)速乾性、汗抜け、着心地などを考慮すると、ここは自然とトレーニングウェアとランニングシューズの組み合わせに落ち着きました。

これらのメリットは、とにかく軽量であり、収納時には小さく折りたためることです。またベルトなどの荷物を減らせる利点もあります。

デメリットは耐久性に信頼がおけない製品が多いことですが、軽量化と引き換えなのでやむを得ない面もあります。

なお、緊急時の運転を考えないのであれば、サンダルでも良いかも知れませんし、いっそペダルとシューズを SPD にしてしまうのも良いかも知れません。

最後に出発前には必要に思えたものの、実際には使う機会がほとんどなかったものです。

リチウムイオン充電池は旅行中に一度も使用しませんでした。

モバイルルータもネットワークに接続できない場所が多すぎて、スマートフォンでテザリングしていることの方が圧倒的に多かったです。

行き帰りの船でも携帯電話ネットワークには接続できても、モバイルルータは使用できない時間の方が長かったです。

USBメモリ(SSD)は撮影した画像のバックアップに使用しましたが、ホテルで借りられるコンピュータにSDカードリーダーが無いことが多く、これならSDカードを多めに持ってきたほうが良かったです。

ボールペンは富良野から米国に絵葉書を出すときに使ったのみです。乗船票の記入などで使用する機会があるかと思えば、そんな機会は一切ありませんでした。

これらの他に PC を持参して、現地到着後にホテルに郵送しています。個人的な事情から必要だったとは言え、これも(通常は)無くても問題ありません。

特別な準備はここで終わりですが、もっとも肝心なのは機材の調子を万全に整えておくことです。

チェーン、クリート、ブレーキシュー、スポーク、ハブなどは新品状態に近ければ、めったに問題を起こしません。

フレームやクランクの破断やSTIレバーの故障は仕方ないにしても、チェーンやスポークの破断までは自己責任です。

定期的に交換しておけば、トラブルを予防できますので、普段のライドから気をつけておくと安心です。

真夏の北海道自転車旅 (11) 富良野の再会そして台風の足音

道内でもっとも標高の高い道路である十勝岳を登り終えても、今回のライドはそれだけでは終わりません。

「美瑛」や「富良野」と言った場合、通常は十勝岳のような本格的な山岳道路は含まれず、『四季彩の丘』や『新栄の丘』といった丘陵地帯の一面の花畑を意味していることが多いです。

せっかく伺ったのですから、こちらにも立ち寄らないわけには参りません。

自転車の速度で走り抜けてみると、美瑛の起伏の激しさ、空に続いていくかのような上り坂、高台の上から見渡す素晴らしい展望が本当によく見えます。

ヒルクライムに慣れていないと大変かも知れませんが、二輪車乗りの方が絶賛されるのも納得の光景です。




『四季彩の丘』を超えると長い下り坂を経て、富良野盆地に入ります。

美瑛から富良野は位置的にも隣同士ですが、景観的にも統一感があって一体に見えます。

しかし、ここで驚いたことには富良野は空知郡、上川盆地の南に位置する美瑛とは成り立ちが違うようです。

空知と言うと石狩平野の北東にある砂川とか滝川とか深川 — 神奈川県で例えると県央の町田と県西の小田原のあいだの「県民でもあまり知らない」市町村がいっぱいあるところ、つまりは札幌都市圏の辺縁、石狩、道央という印象を持っていたので、夕張山地の東側の富良野まで空知というのは、少しばかり驚きでした。

足柄峠と湖尻峠と箱根峠の東側は神奈川県なのに、熱海峠の東側だけは静岡県みたいなものでしょうか。

気候にも差があり、富良野盆地は快晴で低湿であっても、石狩平野の岩見沢まで行くとむせかえるほど多湿で暑かったりすることもあります。

このときは台風の影響もあってか、岩見沢で一気に気温が 10℃ 近くも上昇し、長袖のサイクルジャージを着ているだけで汗が滲み出てくるほどでした。

ここに至るまで気温は 10℃ から 18℃ が当たり前になっていて、毎日、長袖ジャージにインナーを重ね着していたところ、岩見沢から気温 28℃ 超が普通になってしまい、夏服の現地調達まで考えねばならなくなりました。

ところで富良野には、どうしても行きたい場所がありました。

北海道産の食材を使ったイタリア Restaurant & Pension La Collina です。

中富良野のラベンダー畑の近くにある評判のお店で、絶品のイタリア料理と一緒に名産の富良野メロンや富良野ワイン、自家製のヨーグルトが頂けます。

口コミでの評判も良く、富良野を訪れることに決めた時点で、食事と宿泊は「ここしかない」と思いました。

事前に連絡すると宿泊時に自転車も室内に置かせて頂けました。現地で出会ったツーリストのおすすめ情報に間違いはありません。

ここで数日ぶりに丹下さんとも再会します。

美幌峠で分かれて以来、なんでも快晴の知床峠を無事に攻略してから、自走で石北峠を越えて来られたのだとか。

この短期間に道東縦断に加えて、羅臼から旭川まで 300km の道東横断まで成し遂げてしまわれる行動力をあらためて尊敬してしまいました。

北見から石北峠を越えて旭川に至る経路上には、層雲峡などの見どころがあり、大雪ダムのダムカードも回収されていて、なかなかに楽しそうでした。

美味しいイタリア料理とペンションを堪能したあとは、輪行で苫小牧まで一気に進みます。

函館方面の特急の運休やフェリーの欠航が報道されるなか、道東よりも 10℃ 高い気温と台風の起こす強烈な南風(つまり逆風)を受けながら、自転車を漕ぐのも辛いものがあります。

加えて、海沿いを走る室蘭本線と国道 5,36,37 号線が台風によって仮に被災した場合、函館までの移動手段がなくなってしまう懸念もありました。

現段階では新幹線をつかう予定は無いにしても、船や飛行機の運行状況を知るためにも早いうちに道央に到着しておいた方が良いという判断です。

長らく続いた北海道自転車旅も、いよいよ終わりを迎えようとしています。

つづき