苫小牧と胆振を満喫

苫小牧は北海道の海の玄関です。

小樽が日本海、函館が津軽海峡にそれぞれ航路を持っているなか、苫小牧は太平洋航路で八戸、仙台、大洗、名古屋とフェリーで結ばれています。

フェリーは移動中も快適で、ロードバイクなどの自転車や自動二輪車も運べることがメリットです。

その一方で、早朝に到着・出発できる八戸便を除くと、どうしても到着や出発の時刻が中途半端になってしまうというデメリットがあります。

ただ何もしないのも「もったいない」ので、この時間で苫小牧や胆振(いぶり)地方を楽しむ方法を考えました。

到着 出発
八戸 1:30 5:00
6:00 9:30
16:00 21:15
20:15 23:59
大洗 13:30 18:45
仙台(経由)名古屋 11:00 19:00

わりと見落とされがちですが、苫小牧からわずか 26km の支笏湖も支笏洞爺国立公園に指定されている名勝です。

二輪車、あるいは自転車で復路は輪行することを前提とするなら 60km 離れた登別温泉や倶多楽湖も十分に目的地になりえます。

近くにあるオロフレ峠は「大観望」と呼ばれる知る人ぞ知る絶景峠です。

そして苫小牧の隣町の白老は黒毛和牛の産地で、牧場に行くとファームレストランで極上のステーキやハンバーグを頂けます。

北海道物産展の開催中は新宿でも頂けるわけですが

生憎の雨天の場合も新千歳空港(列車でおよそ30分ぐらい)まで足を伸ばせば、温泉や映画館まで備えたターミナルビルがあります。

私が5年ぐらい前に訪れたときは、出発地の関西空港よりもターミナルビルが立派で、どちらの方が大きな都市か分からなくなったほどです。

さすがに改装で巨大化した羽田空港には及びませんが、成田空港とはいい勝負になると思います。

最後に苫小牧が誇る科学センターです。

苫小牧という港湾工業都市&北海道という巨大自治体の地力が窺い知れる市立博物館です。




展示内容はあのドイツ博物館と比較しても決して悪くないどころか、展示資料の価値と博物館の規模は「無料の市立博物館」としては有り得ないと言い切れる素晴らしさです。

なにしろ、ここの展示品は本物の宇宙船(の予備機)や宇宙開発に関連する歴史的資料、初期の国産赤道儀など、世界中でここでしか見られない貴重なものばかりです。

蒸気機関車やヘリコプターの実物を内部見学できるのも魅力です。

海外の博物館でも展示だけで搭乗はできなかったり、内部はアクリル板で敷居がされていて操縦席の近くには立ち入れなかったりするので、ここまで自由に内部を見学できるところは滅多にありません。

この展示内容であれば 1,500 円まで入館料を支払っても全く惜しくないと思えました。

入館料は求められなかったので、道外客の私は入館料がわりに苫小牧の地元企業に勝手にお金を落とします。

こちらはハスカップスイーツ『よいとまけ』で有名な三星さん。焼きたてのパンに拘られていて、店内にいると焼きたてのパンを教えて頂けます。

それから名物のホッキ貝と名物食堂。

私はアレルギーで海産物は食べられないので、焼きそばでも食べようかと思いましたが、訪問時はお盆休み中でした。

それから、なんと言っても王子製紙です。

街中を散策していると、苫小牧は王子製紙と出光興産の街だと一目で分かります。

事前に予約すれば工場見学もできるそうですが、私はフェリー出航前の時間をつかって遊んでいるだけなので、系列のホテルとレストランの利用に留めておきました。

グランドホテルニュー王子の施設内には土産物店もあり、苫小牧だけではなく北海道全域のお土産の取り扱いがあります。

いろいろ見ていくと、じつは見どころに溢れていて、大洗行きの出航時刻(18:45)が調度いいぐらいの時間が過ごせます。

真夏の北海道自転車旅 (11) 富良野の再会そして台風の足音

道内でもっとも標高の高い道路である十勝岳を登り終えても、今回のライドはそれだけでは終わりません。

「美瑛」や「富良野」と言った場合、通常は十勝岳のような本格的な山岳道路は含まれず、『四季彩の丘』や『新栄の丘』といった丘陵地帯の一面の花畑を意味していることが多いです。

せっかく伺ったのですから、こちらにも立ち寄らないわけには参りません。

自転車の速度で走り抜けてみると、美瑛の起伏の激しさ、空に続いていくかのような上り坂、高台の上から見渡す素晴らしい展望が本当によく見えます。

ヒルクライムに慣れていないと大変かも知れませんが、二輪車乗りの方が絶賛されるのも納得の光景です。




『四季彩の丘』を超えると長い下り坂を経て、富良野盆地に入ります。

美瑛から富良野は位置的にも隣同士ですが、景観的にも統一感があって一体に見えます。

しかし、ここで驚いたことには富良野は空知郡、上川盆地の南に位置する美瑛とは成り立ちが違うようです。

空知と言うと石狩平野の北東にある砂川とか滝川とか深川 — 神奈川県で例えると県央の町田と県西の小田原のあいだの「県民でもあまり知らない」市町村がいっぱいあるところ、つまりは札幌都市圏の辺縁、石狩、道央という印象を持っていたので、夕張山地の東側の富良野まで空知というのは、少しばかり驚きでした。

足柄峠と湖尻峠と箱根峠の東側は神奈川県なのに、熱海峠の東側だけは静岡県みたいなものでしょうか。

気候にも差があり、富良野盆地は快晴で低湿であっても、石狩平野の岩見沢まで行くとむせかえるほど多湿で暑かったりすることもあります。

このときは台風の影響もあってか、岩見沢で一気に気温が 10℃ 近くも上昇し、長袖のサイクルジャージを着ているだけで汗が滲み出てくるほどでした。

ここに至るまで気温は 10℃ から 18℃ が当たり前になっていて、毎日、長袖ジャージにインナーを重ね着していたところ、岩見沢から気温 28℃ 超が普通になってしまい、夏服の現地調達まで考えねばならなくなりました。

ところで富良野には、どうしても行きたい場所がありました。

北海道産の食材を使ったイタリア Restaurant & Pension La Collina です。

中富良野のラベンダー畑の近くにある評判のお店で、絶品のイタリア料理と一緒に名産の富良野メロンや富良野ワイン、自家製のヨーグルトが頂けます。

口コミでの評判も良く、富良野を訪れることに決めた時点で、食事と宿泊は「ここしかない」と思いました。

事前に連絡すると宿泊時に自転車も室内に置かせて頂けました。現地で出会ったツーリストのおすすめ情報に間違いはありません。

ここで数日ぶりに丹下さんとも再会します。

美幌峠で分かれて以来、なんでも快晴の知床峠を無事に攻略してから、自走で石北峠を越えて来られたのだとか。

この短期間に道東縦断に加えて、羅臼から旭川まで 300km の道東横断まで成し遂げてしまわれる行動力をあらためて尊敬してしまいました。

北見から石北峠を越えて旭川に至る経路上には、層雲峡などの見どころがあり、大雪ダムのダムカードも回収されていて、なかなかに楽しそうでした。

美味しいイタリア料理とペンションを堪能したあとは、輪行で苫小牧まで一気に進みます。

函館方面の特急の運休やフェリーの欠航が報道されるなか、道東よりも 10℃ 高い気温と台風の起こす強烈な南風(つまり逆風)を受けながら、自転車を漕ぐのも辛いものがあります。

加えて、海沿いを走る室蘭本線と国道 5,36,37 号線が台風によって仮に被災した場合、函館までの移動手段がなくなってしまう懸念もありました。

現段階では新幹線をつかう予定は無いにしても、船や飛行機の運行状況を知るためにも早いうちに道央に到着しておいた方が良いという判断です。

長らく続いた北海道自転車旅も、いよいよ終わりを迎えようとしています。

つづき

真夏の北海道自転車旅 (10) 十勝岳を登れ

今回、道東から美瑛にやってきた目的を一言で述べるとしたら「十勝岳」の一語に集約されます。

十勝岳とは北海道の大雪山国立公園に位置する標高 2,077m の活火山です。自転車乗りにとっては、現在「自転車に乗っていける道内でもっとも高いところ」と覚えておいて損はありません。

舗装路の終点は『十勝岳温泉』として知られる中腹の宿泊保養施設であり、頂上でも鞍点(峠)でもありませんが、その標高差は 920m 超にも及ぶ国内有数のヒルクライムスポットです。

今回の北海道自転車旅において「500km 以上も走行しているのに圧倒的に獲得標高が足りない」という欲求不満を解消すべく、また、立地と走行距離的に予定の隙間を埋めるのに調度良かったので、当日の朝になってから、急遽、訪問先に組み込んでみました。




ヒルクライムとしては『かみふらの十勝岳ヒルクライム』の上富良野から登る道道291号線のほうが、おそらく正規ルートです。

しかし、今回は移動のついでに立ち寄ったことで、時間的な制約が大きかったことから美瑛から道道966号線を登り、来た道をそのまま引き返しました。

上富良野に降りなかった理由は、美瑛駅前にある『四季の情報館』に荷物を置いてきたからです。

館内の観光案内所の奥に大きなコインロッカーが設置されていて、300円で終日利用できます。40L のバックパックと輪行袋ぐらいなら問題なく収納できる大きさです。

季節によって営業時間が変動しますので、覚えておかないと大変なことになるかもしれない点にだけは注意が必要です。

旭川から美瑛まで 25km も自走してきた時点で「もう 10kg のリュックサックなんて背負いたくない」と思ったので、思い切って着替えの服や靴や輪行袋などはコインロッカーに預けてしまいました。

このとき、予備のタイヤとハンドポンプも一緒に置いてきてしまったのは「失敗だったな」と後から気がつきましたが、幸いにも何事もなく戻ってくることができました。

自転車旅で常に大荷物を持っていると、予備の補修部品を持っていることが当たり前と錯覚してしまい、ふとした時に忘れてしまうことがあるというのは新たな発見でした。

美瑛から十勝岳に向かうには、市街地から道道966号線に入ったあと、ひたすら道なりに直進します。

市街地を出るとコンビニすら無くなり、美瑛川を渡ったのちは一面の耕作地が広がりますが、しばらく進むと道の駅がありますので補給に困ることはありません。

美瑛川は「鉱物でも流れ込んでいるのではないか」と疑ってしまうほど青いので、少しばかり驚きます。

その先の道路沿いに有名な「青い池」がありますので、十勝岳を目指していると自然と観光もできます。

この辺りから斜度 2% ぐらいの登坂が始まっていて、気づかないうちに標高が上がってきています。

さらに奥まで進むと「大雪山国立公園」の看板が出現し、そのさきから本格的な山道に入ります。

この山道なのですが、なぜか山道に入ってからのほうが舗装状態が良くなります。どれぐらい良いのかというと、いままで北海道で走ってきた道路の中でも最高と断言できるほどです。

北海道の道路は基本的に継ぎ接ぎが多く、道路のつなぎ目やグレーチング付近の段差での「突き上げ」が厄介で、さらに路肩は波打っていることも少なくありません。

北海道の人が本州の道路を走ったら、運転速度の遅さと方向指示器の使用頻度のほかに、道路の狭さと舗装状態の良さに驚くのではないかと思うほどです。

ただし、ここだけは本州の山道を思わせるほど路面が綺麗で、不快な振動も少ないです。

景観の素晴らしさに至っては、もはや言葉も出ないほど — まさしく絶景です。

雰囲気としては、乗鞍岳を思わせる壮大さです。

さすがにあれほど標高は高くありませんので、雲の上まで突き抜ける快感を味わうことは難しいですが、真夏でも雪を冠った高山に少しづつ近づいていく興奮、冷涼で張り詰めた空気、森林限界を越えたところにだけある見渡す限りの展望は文字通りに最高です。

乗鞍岳のような「他の何者をも寄せ付けない圧倒的な高さ」を感じられない反面、十勝岳の場合は周囲に連なる富良野岳、美瑛富士、美瑛山、オプタテシケ山が見事な奥行きと迫力を醸し出しており、それが他の山にはない魅力になっています。

そして、当たり前のようにキタキツネと遭遇します。

1匹や2匹の話ではなく、道路を普通に走っているだけでキツネに遭遇するほど、生息数が多いです。

それも人や車をあまり怖がっていないように見えるところが困りものです。

狂犬病が恐ろしいので、ほどほどに撮影しつつ、距離を取ってキツネから逃げます。

初期のミラーレスカメラでは上手く撮れないので、こういう時のためにオートフォーカスの優秀な最新のカメラと望遠レンズが欲しくなってきますね。


SONY FE 70-200mm F4 G OSS SEL70200G

美瑛側は最大斜度も 6% から 7% ぐらいしかないので、こうして余裕を持って遊べます。

ところが上富良野側はかなりの激坂で、遊んでいる余裕など全くありません。

計測開始地点によっては平均斜度で 8% を超え、奥に進むごとに勾配がきつくなります。

道道966号線との合流地点からは平均斜度 10% をゆうに越え、道路脇の標識には「斜度14%」の注意書きまで出現します。

こんな極悪な数値は、ここ以外では見たことがありません。もはや林道です。公道の勾配ではありません。

少なくとも 10kg のリュックサックを背負って 500km 走ったあとに登るものではないと思われたので、今回はおとなしく上富良野側の激坂は遠慮しておきました。

しかし、これだけ性格の違うヒルクライムルートを2つも楽しめるのも、十勝岳の魅力であることには違いありません。

毎週、通いつめたら楽しいだろうなあと思いつつ、時間に余裕を持たせて山を下ります。

今日はここで終わりではなく、荷物を回収したら、さらに先まで進まなければならないのです。

つづく