英彦山ヒルクライム

前日の快晴とは対照的に雨が降り出しそうな曇り空の下でヒルクライムレースは開催されました。前述の通り苅田町に宿泊していた私は午前6時30分にホテルでみかんさんの運転する車に拾われて、8時30分前には無事に会場に到着しました。

みかんさんは過去に何度か試走に訪れた事があるそうで道路も最短経路を効率よく通っていましたが、初めて訪れた場合には会場近くで迷う事が多いそうなので時間に余裕を持って出られる方が良いかもしれません。

自転車の組み立てと車両点検、当日参加登録を終えて開会式に臨んだ後は、直ぐにスタート地点までの集団移動となります。

スタートは男子10代/20代を先頭に数分置きにカテゴリー毎に出走する形式です。

各カテゴリー毎の出走時間に達すると先頭から5人づつ同時にスタートラインを切ってレースが始まります。スタート時間は各選手毎に異なるので計測が終了するまで自分の凡その順位は分かりません。

私は英彦山に来ること自体が初めてだったのでスタート直前に隣になった方にコースの概要を教えて頂きました。

この方は大変、親切な方で最初の4kmの登りの後に2kmの下りがある事、その後の登りが本番で特にコース最後の3kmの傾斜が厳しい事などを詳細に教えてくださいました。

その上で最初から飛ばし過ぎずに後半の急勾配に備えて脚を残しておくというアドバイスを下さったおかげで、実走経験がなくても具体的なペース配分のイメージを掴む事ができました。

実際に走り始めると直ぐに斜度2%程度の緩やかな坂が出現し、徐々に傾斜が増して4.5km付近では10%程度までの急勾配になります。

英彦山の薬師峠付近に設けられたフィニッシュラインまでの距離は約15km。

その直前までの後半4.5kmの平均斜度は9.1%で獲得標高は770mというのが私の知っていた事前知識の全てです。

このスペックから都民の森を全力で完走できるのであれば、英彦山でも不甲斐ない思いはしなくて済むという目算がありました。

都民の森と呼ばれる檜原街道・奥多摩周遊道路は、檜原村役場前(橘橋)から続く約20kmの長さの道で区間の獲得標高は769m、急勾配の続くラスト3.5kmの平均斜度は8%という具合です。

私が最も走り慣れた道でもあり、これぐらいの負荷であれば何の懸念もなく全力を出し切れる訳です。

しかし、さすがに英彦山は甘くありません。

スタートラインから4.7km付近で230m近く登りきったところから、一転して約2kmの下り坂が始まります。斜度は下り方向に約5%もありクランクを回さなくてもスピードが上がり続けます。

他の選手はここで全速力で駆け下りますが、コース自体を未経験の私は安全マージンを取りながら余裕を持って下ります。

初めての道では路面状況や障害物の有無などが把握できていませんので、無闇にスピードを上げると大事故に繫がりかねません。

ましてや今日のために練習を重ねてきた他の選手を巻き込んで迷惑を掛ける事だけは何があっても避けなければなりません。

約2kmの下りを終えるとスタートラインから10km地点、フィニッシュラインの手前5kmまでは平均3%の緩やかな登り基調となります。ここでギアをアウターに入れて下りでの遅れを取り戻します。

心置きなく速度を上げますが Garmin をチラ見して走行距離を確認しながら、ギアを変えるタイミングを探る事だけは忘れません。

この「平坦」の直後に「本番」の急坂が控えているのは間違いありません。斜度の変化に気づかずにアウターで突撃すると取り返しがつきません。




10km地点を過ぎるといよいよ傾斜がきつくなってきます。

話に聞いていた限りでは残り3kmがキツいそうですが、残り5kmにして既に十分に厳しい感触です。都民の森で例えれば上川乗交差点の先の急坂です。

その上に曲がりくねった道路が生い茂る樹木の陰に隠れて、先の様子がほとんど見えません。

曲がった先がどうなっているのかも分からず、この登り坂が永遠に続いている気分になってきます。

ところどころ泥が溢れ出していたり、落葉が荒れた路面を覆い隠していたり、思わぬところに道路の亀裂が生じていて足元を掬われそうになります。

その間にも傾斜は緩まず、ところどころ瞬間的に15%を超える急斜面を挟みながら先の見えないカーブが連続します。

きつい傾斜により団子状態になった選手たちに追いついたところで、ようやく「ゴールまで残り500m」の標識が見えます。

俄然やる気が出てきますが、傾斜がきつ過ぎてギアやケイデンスを上げる余裕が全くありません。

沿道にできた人集りからの歓声が徐々に大きくなりフィニッシュラインが近いことを感じさせます。

ゴールまで一気にという気分が先走りますが、体が追いついてきません。

ここまで来たら確実にゴールを決めるという決心をして耐え続けながらクランクを回します。

ゴールまで残り100mを切っても引き続き耐え続け、ラスト60m地点を越えフィニッシュラインが目前に迫ったところからようやく完走を確証し、持てる力の全てをぶつける思いで全力ダンシングしながらフィニッシュラインを通過しました。

直後に倒れ込むほどの全力は出せませんでしたが、出し切った感覚は強く、気分は爽快でした。

自分はレースに出るような人間ではないと信じ込み、ここでも何度かそう書いてきましたが、実際に参加してみると本当に参加して良かったと心から思える程にレースを楽しめました。

自分はこんな人間だったのかという発見があっただけでなく、速く走る事を目指して切磋琢磨している方々と一緒に全力で走れるのは刺激的で楽しくもありました。

結果の方はといえば、スタートからゴールまで60分を切る事を意図せずに達成できました。過去にクロモリでヒルクライムしているという記事を書きましたが、一応は面目を保つ事ができたという事にしておきます。

使用したのは Raleigh CRN のフレームに DT Swiss – RR21 Dicut のホイールの組み合わせです。ギアはホームグラウンドの奥多摩の道に合わせてフロントが50-34のコンパクト、リアが12-27の10速となっています。

友人から白のバーテープを頂いたので、それに色を合わせて完成車付属品のサドルを一時的に装着しています。

英彦山を登りに飛行機輪行

英彦山は福岡県と大分県の境界付近に位置する山です。

その立地から九州の各県と山口、広島などの中国地方のサイクリストに割と有名なヒルクライムスポットであると聞きます。標高は約1,200m。

ダウンヒルを超えた先に位置する峠までのラスト5km区間から傾斜がきつくなってくる厳しい峠との噂です。

この英彦山に登りたくて、イベント参加を口実に飛行機輪行で北九州まで行ってきました。

山の位置する田川郡は残念ながら公共交通機関や宿泊施設が余り充実していません。

そのためアクセス方法としてはレンタカーを現地調達して車で向かう事が現実的です。

山の近くで前泊できるホテルも限られているのでヒルクライム当日の早朝に現地まで移動する事になります。

今回の私の場合は一緒に登頂するみかんさんが車を出してくれると言うので、北九州空港から至近の苅田町というところにホテルを取りました。

飲食店は限られていますが空港から公共交通で無理なく移動できる範囲にあり、ホテル付近にサイクルベースあさひさんが立地している事が決め手でした。




持ち物

飛行機輪行と言えども持ち物はいつもの通りです。

分解した自転車とシューズや衣類を エイカー バイクポーター スマートサイズ に詰め込み、リュックに普段着の着替えと日用品を入れて飛行機に乗り込みます。

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いつもと異なるのは恒例の150km超のロングライド参加ではなく、今回は参加するイベントがヒルクライムレースであるという点です。

完走を目的としたロングライドと比較して走行距離は僅か15kmと短く、速度は通常の練習よりも更に上がる事が想定されます。

競技中にパンク修理をしている暇も無さそうなのでCO2ボンベは敢えて持っていきません (飛行機輪行での検査時に手間が増えるため)。

現地調達が難しいと考えられるディレイラーハンガー (専用品) とミッシングリンク、タイヤとチューブの新品の予備だけに荷物を絞り込みます。

それに合わせて輪行するホイールのタイヤとチューブも未使用の新品に換装しておきます。空気圧管理に失敗したり異物を踏んだりといったトラブルを未然に防ぐには、それが一番の対策だと身をもって体験したからこその実践です。

重量が問題となるヒルクライムレースなので少しでも軽量化を考えてカーボンフレームのFELT F7を投入し、その調整に必要となるトルクレンチもバイクポーターに同梱して預け入れ荷物として会場まで持参し…

ようと考えて準備を進めていたのですが自転車の解体の段階になって気分が変わりました。

バイクポータースマートサイズに自転車を収納するためには、ホイール前後輪に加えてハンドルやペダル、シートポスト等を取り外さなければなりません。

それらを取り外して再組立するとプロショップでせっかくポジションを出して頂いた調整が全て無意味になってしまいます。

またカーボンフレームは傷にも弱く塗装の剥がれにすら気を遣います。

クランクからペダルを外そうとした際にチェーンが暴れて脱落するのを目撃して一気に輪行する気力を失いました。

そこでいつも通りクロモリフレームのRaleigh CRNの登場です。

カーボンやアルミであれば割れるような衝撃を受けても少しばかり凹む程度

このフレームの信頼性は移送環境をコントロールできない飛行機輪行だからこそ活きてきます。

購入前に意図したような「旅する自転車」にはなれなくても「機動力」と取り回しの良さから移動先での足となってくれる事に変わりはありません。

前日にドイツから届いたばかりの新ホイールと新品のGrand Prix 4000S IIに履き替えて即席のレース仕様の完成です。

当日

1週間近く雨が降り続いていた関東平野から西に1000km近くも移動すると気持ちの良い青空が広がっていました。

なんだか久し振りに傘を持たずに移動している気がします。

北九州空港は人工島の上に設置された海上空港なのですが、現在は空港までのアクセス鉄道はありません。

まずは西鉄バスで朽網という最寄駅まで移動しないと、市内の小倉にも門司にも行くことができません。

私が宿泊地に選んだ苅田町も以前は空港からの直通バスが出ていた様なのですが、現在の行き先リストの中にその名前は見当たりません。

朽網駅

幸い西鉄バスの料金も格安で、朽網駅を通る日豊本線も複線化されていたため移動について大きなストレスはありませんでした。

無事にホテルに到着したら自転車を組み立て、ヘルメットにシールを貼り、ジャージにゼッケンを付けて明日のレースに備えます。

続く

DT Swiss RR21 – 練習と本番の両方で使えるホイール

毎日の練習と台湾ヒルクライム遠征により常用ホイールが著しく損傷した事は先に述べた通りですが、修理に出して嘆いている間に無情にも短い夏は過ぎ去りました。

ロードバイクというスポーツにとってのピークシーズン。旅行にもうってつけの緑の美しい期間中、ひたすら東京に引きこもってプログラムを書いているうちに新しいホイールの購入を検討するようになりました。




手組ホイールは丈夫でランニングコストは良いのですが「決戦」あるいは「本番」の場面では少しばかり重過ぎます。一人のソロライドでは良いですが、自分よりも速い人との集団走行では迷惑になりかねません。

ディープリムホイールは性能は十分なのですが、チューブラータイヤとカーボン素材の取り扱いの難しさから性能を発揮できる場面が限定されます。

そこで目を付けたのが両者の中間的な性格を持つ軽量アルミニウム完組ホイールです。

普通はこちらを最初に購入するのかもしれませんが、私の場合はアルミニウムに不信感を持っていたり運用コストを試算したりする悪癖があるので、この選択に辿り着くまでに少しばかりの時間を要しました。

もちろん軽量であれば何でも良いという訳ではなく、

  • スポークはステンレスである事
  • 消耗品の交換が容易である事
  • 構造的に単純で故障が少ない事

と言ったいつもの選択基準は何ら変わるところはありません。

軽量ホイールを探しておきながら矛盾するようですが、上の条件が満たされていて価格が抑えられているのであれば、軽量と剛性のどちらかは捨てても良いとさえ思っています。

そうした経緯から選択したのが DT Swiss RR21 Dicut というホイールです。

Dicut というのはハブに切り込みを入れるアイデアらしいですが、私にとって重要なのはそこではなくステンレススポーク (DT aerolite, aero comp) でありながらカタログ重量 1,415g とアルミホイールの中では相当に軽量である事です。

フロント・リムテープ付き: 640g

リア・リムテープ、10速対応リング付き: 805g

ここで用いられているスポークは一般に市販されているものであり将来的な供給体制も不安がないという点も見逃せません。それは DT Swiss という会社はスポーク製造業を出自とするスポークの専門企業だからです。

ホイールにおける代表的な消耗品はスポークとベアリングですが、前述のようにスポークの入手は容易でベアリングもカートリッジごと交換できるのでメンテナンス性が高いというわけです。

その上に構造的に故障が極めて少ないスターラチェットを採用しているのが RR21 というホイールの特徴です。

実はこのスターラチェット目当てで RR21 を購入したと言っても過言ではありません。DT Swiss の価格に対して高性能なホイールには R20 DicutR23 Spline といったモデルがありますが、これらのモデルでは “Pawl System” とDTが呼ぶハブ構造をしています。

そこで使われるスプリングはもちろんポールスプリング、稀にラチェットスプリングと呼ばれます。

私は個人的にこの部品があまり好きではないのです。アルミニウム合金にも通じるところがありますが、前兆なく割れることがある (しかも、割れると大変なことになる) からです。

ドイツ語圏で Klinkenfeder と検索すると DT の物も市販されているのが見つかりますが、交換部品が販売されているという事はやっぱり消耗品なのでしょうね…

ハブの種類ごとにサイズが異なるので割愛しますが、同じく消耗品のベアリングも Kugellager 6802 (240s向け) などで検索すると販売ページに行き着きます。

他の付属品にはチューブレスタイヤ用のバルブやレバーの倒せない(むしろ起こせない)クイックレリーズなどユニークな物がたくさんあります。

ナットを握ったままレリーズを締めるとフレームに固定できるのですが、こうすると軽量化に役立つのでしょうか?


実走記事:


DT Swiss – RR 21 Dicut アロイクリンチャーホイールセット (Shimano)