茨城県のサイクルツーリズムに対する自転車乗りの意見

関東の平野部において抜群に道路環境がよく、東京からも日帰りで遊びに行ける茨城県。

山間部が雪に閉ざされる厳冬期でも降雪とは無縁の気候から、一年を通して自転車を楽しめる関東以北では数少ない場所の一つでもあります(ただし朝方の冷え込みと季節風は強烈です)。

この点が認識されているのか、茨城県内では行政と民間企業が一体となって自転車を用いた観光創生の取り組みが活発に行われています。

筑波山や道の駅にはサイクルラックが常設され、霞ヶ浦の外周道路をはじめとした自転車道の整備が進み、土浦駅構内には輪行用の部屋まで確保されています。

こうした取り組みの概要は茨城県が公開する公的資料からも読み取れます。


いばらきサイクルツーリズム構想の策定について/茨城県
https://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/chikei/keikaku/cycling/tourismkousou.html


目を通してみると、全体として悪くはないのですが、もったいないなと思える点もいくつかないわけではありません。

資料の焦点は人を呼び込むことにあるようですが、今でも多くのサイクリストが茨城県を訪れていることを認識されているのかどうかは資料からは読み取れません。

どこにいるのかと言えば、大洗から北海道の苫小牧へと向かうフェリー乗り場に行けば分かります。

現状でも首都圏のサイクリストにとって、茨城県は北海道への玄関口であり、また北海道ツーリングは本州縦断(東京-直江津間)やキャノンボール(東京-大阪間)に並ぶサイクリストの憧れです。

その北海道ツーリングのスタート地点として、たとえば土浦駅(もしくは高浜駅)から大洗港まで自転車で快適に走れるルートがあれば、それだけで茨城県の魅力が十分に伝わります。

幸いにしてフェリーの出航は夜で、到着は昼なので、大洗から北海道ツーリングに出かけるサイクリストにも出航前や到着後の時間を使って、茨城県を知ってもらうことを考えても良いのではないかと思うわけです。

そのための場所として、大洗・ひたち海浜シーサイドルート(仮)は最適だと思います。

魅力があることが分かれば、自然と人は集まります。

私自身が何度も訪れていて、茨城県は自転車で観光するには結構いいところだと感じています。

また、日本国内最高峰の自転車ロードレースとして名高い Japan Cup Cycle Road Race(ジャパンカップ)も、ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムも、日本最大のスポーツバイクイベントであるサイクルモードも、茨城県の視点で見ると全ての会場が隣接県(土浦からの直線距離 60-80 km 圏)にあります。

とくにジャパンカップの会場である宇都宮市の森林公園周回コースに至っては、つくば霞ヶ浦りんりんロードの岩瀬駅から僅か 50km の近距離です。

茨城空港を起点としても最短 90km 程度と、スポーツ自転車であれば無理なく走行できる距離です。




さらに言えば、栃木県内の真岡(りんりんロードの岩瀬の隣町)から宇都宮までの 25km 間には既に自転車道(二宮宇都宮自転車道・鬼怒川CR)が整備されています。

協力して地域創生を行えれば、茨城県にとっても、栃木県にとっても、訪問者にとっても魅力的な試みになる可能性があるのではないでしょうか。

せっかく自転車道で土浦駅や茨城空港を結ぶ計画なのであれば、サイクリストに茨城空港や土浦駅を売り込めるように周辺の魅力にも目を向けても良いと思います。

土浦駅に到着して、自転車道に入ったところで宇都宮や大洗や苫小牧までの距離が表示されていたら、それだけでも旅情を感じます。

茨城空港に到着して、輪行の荷物を全部空港に預けて、そこからサイクルモードやジャパンカップの会場にサイクリングロード経由で行けるとなれば、茨城空港を使ってみようと思う人もいるかもしれません。

その道中で茨城県の魅力に気づいてもらい、次回の訪問からは茨城県自体も目的地の一つに含めてもらう。

その視点で見ると、隣県に恵まれている茨城県なら、いくらでも人を呼び込める可能性があります。

ぜひ、サイクルツーリズムで地域創生を成功させてもらいたいです。

都民の森での新たな発見

秋空ひろがる 9 月の某日。

かつては毎週末ごとに訪れていた檜原村の都民の森にやってきました。

ここは新宿から片道 76km と、首都圏のまともなサイクリングスポットの中では(これでも)圧倒的に距離が近く、信号の数もおよそ 3km に1つと東京都内とは思えないほど常識的な範囲に収まっていることから、東京のサイクリストにとって、その名の通りに親しみやすいコースです。

決して悪いところではないのですが、それ以上でもそれ以下でもないので、積極的に東京を離れるようになってからは自然と足が遠のき、気がつけば数年のときが経過していました。

さきに述べたように東京都民にとっては極めて貴重なサイクリングスポットではあっても、普通に車も多くて走りづらさ満点ですし、輪行で訪れるにしてもアクセスが良いわけではありません。

もし自分がお隣の埼玉県や神奈川県に住んでいたとしたら、奥武蔵や伊豆箱根を差し置いて、わざわざ奥多摩を訪れることがあるだろうかと考えてしまいます。

ところが、実際に訪れてみると、こうした思い込みとはまた別の印象を抱きました。そして奥多摩自体がここ数年間で大きく変わっていることに驚きました。




ライドの出発地点はいつもの四谷見附 — と言いたいところですが、信号の待ち時間で日が暮れてしまうので、試験調査も兼ねて 5:29 の始発電車で新宿から高尾駅へと輪行します。

休日の東京の始発電車は登山客で満員になることも珍しくはありませんが、平日は平日で夜勤明けの帰宅需要がそれなりにあるらしく、始発の快速電車は意外にも混雑するという知見を得ました。

それから平日でも輪行する人はいるらしく、今回も先頭車両に乗っていると途中駅からミニベロを携えたお爺さんと遭遇し、高尾までご一緒することになりました。

高尾駅への到着は定刻通りの 6:23 — こちらはこちらで都心方面への通勤ラッシュが始まりそうな雰囲気で、駅前で輪行解除している傍から次々と人混みが押し寄せてきます。

人の少ない平日の休みを謳歌できるのは豊かな地方の話であって、こと首都圏においては当てはまらないのではないかと思えました。

車で混み合う高尾街道に沿って北上し、まずはウォーミングアップの和田峠に抜けます。

私にとって和田峠は峠原器みたいなもので、登った回数も桁違いに多いので、もはや何も感じなくなりました。

強いて感想をあげれば、山ガールって実在したのかといったところ。登坂中に大学生ぐらいの3人組を目撃し、その場違いな感じが強烈に印象に残りました。

そのまま和田峠を通過、甲武トンネルを経由して上川乗へと到着。

ここから真っ直ぐに目的地を目指すことも可能です。

しかし、補給食どころかドリンクすら用意してこなかったので、橘橋の檜原村役場のほうに寄り道してから都民の森を目指します。

走り出すと檜原村の微妙な変化に気づきます。

いつの間にか介護福祉施設や小さなスーパーマーケットが開業しています。

以前は村役場と都民の森のあいだの 20km 間には喫茶店と自動販売機しか存在せず、村内にはコンビニの1件すらなかったのに、今では食事処をいくつも選べるようになっています。

檜原村に活気がでてきているのは大きな変化ですが、走ってみると坂のキツさは相変わらずです。

と言うよりも、記憶のなかにあった都民の森の実走記録よりも、ずっとキツイです。

あらためて見ると登りが 20km もつづくルートなど、めったにないですし、ところどころで斜度 10% を超えてくる急勾配区間が地味に効いてきます。

料金所から先のいわゆる「ラスト 3km 区間」は易しいところで、本当に厳しいのは人里交差点、数馬ヘリポート、そして九頭龍神社の先の坂です。

この辺り、速く走ろうと重たいギアで突入すると、クランクが回せなくなります。

三頭山荘を通り過ぎて旧料金所にまで至れば、あとは 9% ぐらいで斜度が安定しているので、無事にここまで来れれば完走したようなものです。

余裕がでてきたところで、あたりを見渡すと舗装状態のよさに感心します。

登りが 20km も続くようなところも珍しいですが、その長さの道路をひび割れや落下物ひとつなく維持管理しつづけているのも、ここぐらいです。

台湾、九州から北海道までのあちこちの峠道を走ったあとで、あらためて訪れてみると奥多摩の特殊性が良く分かります。

ダウンヒルが苦手な人でも、安心して降れると断言できるぐらい綺麗な路面が奥多摩にはあります。

ただし、場所柄、非常に車が多いですし、速度取締重点路線として警察署に名指しされているぐらい暴走車両も少なくないので注意は必要です。

ここで少し道路から離れてみると、また新しい発見がありました。

ここまで自走で訪れて三頭山を登れという意味でしょうか。

ロードバイク × 登山という新しい可能性を感じます。

都民の森のある三頭山の反対側には、地味なことで有名な鶴峠がありますが、そのさらに向こうには絶景で名高い大菩薩嶺があることは登山家には有名です。

三頭山も登ってみると見どころの多い場所なのかも知れません。

都民の森をあとにして、風張峠をくだると奥多摩湖にたどり着きます。

この辺りは写真撮影には最高の場所です。山稜の緑とダム湖の青が作り上げる光景は関東でも有数の美しさを誇ります。

その一方で自転車で走行するには最低の場所です。

どの道路を通ってもトンネル続きで、交通量も檜原や都民の森とは比較にならないほど多いです。

しかもトンネル内は狭小で、照明もなく、湧水のせいで路面状態はまったく分からないのに落下物も多く、あげくに通行車両もダンプトラックを主体とした大型車ばかりという、考えられる限り最低の条件を合わせたような場所です。

これほどまでに好きで嫌いな場所というのは、ほかに国道 135 号ぐらいしか思い当たりません。

さすがに平日の朝なので、週末のように渋滞することはありませんけれども、関東らしい交通量の多さは相変わらずです。

そんな中でもロードバイクやクロスバイクの自転車乗りと3分間に1度ぐらい擦れ違います。

今まで知りませんでしたけど、平日に走りに出かけている人も多いのだなと実感できて新鮮な気分になりました。

そして、最後に梅ケ谷峠を超えて、京王八王子駅から輪行で帰ります。

ここは始発駅であり、スペースに余裕があることが多く(高尾駅との違い)、新宿まで乗換なしで40分前後で到着でき(拝島駅との違い)、さらに電車の本数自体も多い(奥多摩駅や武蔵五日市駅との違い)ので、奥多摩方面に向かうときには圧倒的に使いやすいです。

さらに混雑する時間は外しているはずなのですけれども、それでも新宿に近づくに連れて乗車人数が増えていくのは変わらずです。

最近、気がついたのですが郊外から都心に向かう電車では、途中下車する人がほとんどいないので、どれだけ空いているように見えても、結局、終点近くまで行けばいつでも混んでくることには違いがありません。

あらためて、はやく東京を離れたいと強く、強く思いました。

凪の西伊豆

海外に出張続きの日々が続くと、ときどき海岸線の風景が見たくなります。

切り立った崖沿いの小道を進んでいくと、突如として眼下に広がる湊町、遠浅の海の透き通った水に古びた商店など、いかにも日本らしい光景が最高です。

東京近辺でこうした風景が見られるのは三浦半島の南端ですが、半島地形だけに休日はどの道を通っても 20km 近くの断続渋滞に巻き込まれます。

そこで、今回は関東平野を抜け出して、知る人ぞ知るサイクリストの楽園にやってきました。関東近郊で自転車をもっとも楽しめる最高の場所、それは西伊豆です。

西伊豆の良さは海と高山を併せ持つダイナミックな地形、交通量の少ない静かな道路、運転マナーの良さ、地元の人の親切さなど枚挙に暇がありません。




ただし、ここを訪れる人が少ないことからも分かるように、それなりに高いハードルもあります。

急峻な地形、人口希薄地帯の広さ、強風、夏の暑さと日陰の少なさなど、自転車で周遊する際の難易度では伊豆半島は暫定日本トップ3に入るぐらいです。

ちなみに他の2つは紀伊半島の北部(奈良県南部、和歌山県北部、三重県南西部)と山梨県の大弛峠で、この中で一番やさしいのが大弛峠です。

伊豆半島では普通に舗装路を走っているだけで、距離 100km にして獲得標高は 2,000m 超なんてことになります。集落と集落のあいだは民家すら存在しない無人地帯で、自販機1台すらも無い山道が 20km 近くに渡って続くことが普通です。

坂道はどこも急勾配で、多くの坂において最高斜度は 14% を越えます。

この無補給地帯に耐えられる体力と激坂に負けない走力を備えた者だけが伊豆の美しさを堪能できるのです。

地形的な困難も大きい分、走り終えたあとの満足感や心地よい疲労感もひとしお — そんな伊豆ライドの開始点は函南駅か三島駅のどちらかがオススメです。

小田原から下田までの国道135号線は本当に使えない道路(※自動車専用道を除くと、関東から直接伊豆に向かう唯一の道路ながら常時渋滞している最大のボトルネック)なので、ここをいかに回避するかが伊豆旅行の質に大きく影響します。

湯河原から網代までを避ければ、恒常的に渋滞している区間はそれほど多くはないので、東京から訪れる場合でも小田原や熱海ではなく、函南や三島から中伊豆(韮山や修善寺)を目指されるとスムーズに到着できます。

実際のところ、道路が中伊豆の方を向いているので、海岸沿いの混雑地帯を避けながら伊豆に向かうと自然と伊豆長岡あたりを経由することになります。

ここまで来たら、東伊豆(伊東や河津)を目指しても、西伊豆(戸田や土肥)を目指しても、南伊豆(下田や石廊崎)を目指しても、もちろん天城や伊豆高原を目指しても、どこに向かっても急勾配の坂道だらけです。

ちょっと丘を越えようと思って登り始めた坂が 10km 以上も続いて、終わりが見えなくなることも少なくありません。

あの国道1号線ですら海抜 4.8m の小田原(市民会館前)から、わずか 18km で標高 874m (箱根町 国道1号線最高地点)まで登ることを余儀なくされているのが、この富士箱根伊豆という地域なのです。

この日は初秋らしく気温は 32℃ 湿度は 80% もありましたが、風は 1m/s の東風とほとんど無風状態でした。

こういうときは遠景こそ期待できませんが、凪の穏やかな水面を堪能することができます。

行き先としては仁科峠を越えて松崎に向かうよりも戸田や内浦のほうが楽しめそうな気象条件です。

ここで今日の行き先が決まりました。

と言っても、どこに行くにも山越えが避けられないのが伊豆半島です。きっちり標高 730m の戸田峠まで登ります。

この辺り、もし北海道であったら間違いなく道の駅が設置されているであろう場所が、ことごとくゴルフ場やテーマパークなどの敷地で埋められています。

こうした事情も伊豆らしさであり、補給場所が皆無なのでとってもツライです。

誇張なしに補給場所は だるま山高原レストハウス とそこから 22km 離れた 西天城高原「牧場の家」 の2つしかありません。

道路の雰囲気は湯河原椿ライン(神奈川県道75号線)に似ていて、交通量は少なく、舗装も比較的良好ですが、斜度はこちらの方が厳し目です。

戸田峠まで登りきると、そこから西伊豆スカイラインに入って、さらに登り続けることができます。

西伊豆スカイラインの高原風景は一見の価値ありです。苦労して登ってきた甲斐があります。

この後もまだまだ登り続けて、気がついたら標高 900m を越えていたりするのですが。

今日は海を見に行きたいので土肥峠で西伊豆スカイラインを降りて、土肥温泉へ向かいます。

普通はあまり西伊豆スカイラインから土肥温泉に向かう人はいません。

そのままスカイラインを南下すると絶景で有名な西天城高原に辿り着くので、そこまで行く人が多いのと、土肥峠あたりは最大斜度 14% の下り坂がつづくので慣れていないと危険です。

事前情報では路面状態が悪いと伺っていましたが、訪れてみた際にはそれほど悪いとは思いませんでした。

長い長い下り坂を抜けると、いよいよ海が見えてきました。

目論見通りに凪の海は透明度が高く、海岸沿いでも奇跡的な無風状態です。

この後の予定がなければ、このまま何時間でも波打つ水面を眺めていられます。

でも、楽しいのは、実はここからです。

海岸沿いの道路は漁村を通り抜けて、切り立った崖を登って山道になり、そこから海を見下ろした後に、次の漁村に向かう長い下り坂に変わります。

景色の移り変わりやコースの高低差という意味では、決して山間地にも引けを取らないものがあります。

仁科峠まで行かなかったことを全く後悔させないぐらいの素晴らしい景色です。

相変わらず、補給地点は市街地までいかないと一つもありませんし、わずかな市街地を除けば坂道しか無いほど、平地がほとんど無いのですが、それがまた楽しくもあります。

ほんとうに強風さえなければ、西伊豆は最高です。

土肥から戸田、江梨、西浦と進むに連れて、景色もさらに魅力を増していきますが、それと同時に交通量も少しづつ増えていきます。

三津まで行くと、沼津の中心部からの市街地が連続しているので、ほとんど沼津の郊外といった趣になります。

地図上の距離で見ると、伊豆への輪行には沼津駅も良さそうに見えますが、三島よりも沼津のほうが市街地区間が長いのと国道414号線は道幅が狭くトンネルも多いので、あまり通りたいとは思えないところが残念です。

国道414号線の内浦ルートに比べると、往路につかった伊豆長岡ルートは景色は単調ですが、田園地帯なので交通量は少なめです。

ここまでで意外と余力が残っていたので、復路は長岡と韮山を経由して函南まで行くことに決めました。

もっと早い時間にたどり着いていれば、帰り道の途中に十国峠を入れて 3,000m UP も楽しそうなんて思えてきます。

実際のところは日没後のダウンヒルは神経を使うだけで楽しくないですし、箱根の渋滞を避けようとすると湯河原に抜けて、そこから国道135号線という最低の道路を通ることになるので、なかなか難しいところです。

そうすると今度は熱海を起点にして考えてみるのが良いんでしょうかね。

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