ミニベロの夢と現実

ミニベロ、折りたたみ自転車、小径車には夢が詰まっています。

大都市のおしゃれなカフェから旅行先のリゾート地までどこにでも持ち運べて、スポーツ走行から日常の移動にまで何にでも使える。

そんな夢を追い求めるとアクセサリーを充実させたり、ホイールやクランクの交換などのカスタマイズの方向に向かうことになるのでしょう。

ある意味では合理的とも言えます。

折りたたんでしまえば荷物になるので盗難リスクは低いですし、使用用途が広いのでカスタマイズの恩恵を受けられる機会そのものも多いです。

限られた目的でのみ用いられる MTB やロードバイクよりも投資のしがいがあると言えるかもしれません。

なにしろ、乗車機会がスポーツ自転車よりも圧倒的に多いのです。

普段着で日常使いできるのは当たり前で、持ち運びの容易さを活かして勤務先の近くのロッカーに保管しても良いですし、自家用車に積んでおくなんて運用も可能です。

乗るのに疲れたらその場で折りたためるので、遠出する際に持ち出すことの心理的ハードルは極端に低くなります。

スポーツ自転車ではできないこと、あるいは多大な労力と工夫、専用の装備品が要求されることが、折りたたみ自転車では購入直後から実現できてしまいます。

そんなミニベロですが、私個人としては残念ながらあまり愛着が湧きません。

一応、平日は毎日のように乗車して、折りたたんで公共交通機関に持ち込んでいるのですが、盗難防止のためにほかに選択肢がないので使用している面が強く、利便性よりもむしろ面倒くさいと感じることが多いです。

その第一の理由は空気圧です。

空気圧管理がシビアなロードバイクよりもよっぽど空気入れの頻度が高いです。

ロードバイクが最長でも2週間に一度は空気を完全に入れ替えるのであれば、ミニベロは5日に一度は空気を入れ直さないと体感で分かるほど走行性能が落ちます。

今日、なんだか調子が悪いな、進まないなと感じたら空気圧を見直してみると、別物のように進む自転車になるかもしれません。

それぐらいミニベロにとって空気圧管理は重要です。

タイヤ自体が小さいこともありますが、一般的な自転車や二輪車がスポークやフレームで行っている衝撃吸収をほぼタイヤに依存しているので、ほかの車種以上にタイヤの素性と状態に性能が引っ張られます。

ミニベロのスポークは 700C ホイールのディープリムのそれより短いので剛性を上げるのは比較的簡単なのですが、乗りやすさと走行性能を両立させるのは大変そうです。

第二の理由は乗車姿勢、いわゆるポジションと車体構造です。

折りたたみ機構のほうが優先さえるので、誰でも乗れるけれども、誰にも合っていないような乗り心地になります。

平地であれば何の問題もありませんが、道路は必ずしも平坦ではありません。

Brompton に限定して言えば、斜度 6% 未満の坂であればストレスなく走行できますが、それ以上の急斜になると上りも下りも乗車を避けたくなります。

登坂時は前輪を台の上に乗せたような状態になるので、真っ直ぐに前に進もうと思ったらハンドルは低く、サドルは高い位置にあったほうが都合が良いです。

しかしながら、ミニベロの多くは平地走行に最適化されているので、ハンドル位置は高めに固定されていて調整の余地がありません。

結果として自転車に合わせて経路を変えるなんてことが生じます。クロスバイクなどではあまり考えられないことですね。

ここはギア比を変更しても、どうにもならなそうな部分です。

そもそも乗車しているとスポーツ走行にあまり適してなさそうな印象を受けます。

私の場合、登坂時の出力は平均 200W 以上なのですが、この程度でも登坂時に出力をかけるとペダル、クランク、フレームの寿命を縮めてそうな感覚を覚えます。

それなら漕がずに進むダウンヒルはどうかと言えば、こちらも 45kph 以上の速度は出さないほうが良さそうです。

旋回時に荷重を加えて車体を傾ける動作をやってみると、応力が集中している場所をなんとなく体感できるからです。

言い換えると車体寿命を削ってる感覚です。

特にこのあたりに大きな負荷が掛かっている印象を受けます。

もちろんフレームやトップチューブの接続部分にも大きな荷重が加わるので、ダウンヒルに使用するなら乗車前にヒンジクランプとフレームの隙間が規定値内に収まっているか、プレートにクラックや変形はないか確認してくださいね。

累積走行距離が 8,000km を超過したら異常がなくても即交換です。

第三の専用部品と価格設定です。

ミニベロは折りたたみ機構のためにメンテナンスの手間も通常の自転車の比ではありません。とにかく部品が多く、その多くが専用の独自規格品です。

あっという間に規格が変わり、流行り廃りが激しい MTB と同じような手間を何年間も愛され続けているロングセラーモデルで体験することができます。

さらに専用品なので価格も高めに設定されています。

その結果、何が起こるかというと、晴天でも路面状態次第で乗りたくないという場面が頻繁に生じます。

これがミニベロの 1/2 から 1/4 程度の価格のクロスバイク (5 – 10万円程度) であれば、悪天候でも全く気になりません。

構造が単純でメンテナンスがしやすく、使われているのも汎用品ばかりなので、壊れても簡単に修理できるからです。

本体価格も安価なので買い換えも容易です。

小径車を買って最も後悔する瞬間は、クロスバイクとの差を痛感するときかもしれません。

走行性能は似たようなものですが、日常使いでの利便性はクロスバイクに軍配が上がります。

ミニベロが圧倒しているのは屋内保管時のスペースと玄関からの出し入れのしやすさぐらいです。

ミニベロに乗っていると欠点ばかりが目につくのは割と事実です。ミニベロが好きな人は間違いなく欠点ごとミニベロを愛してます。

ただ車輪が小さいことは悪いことばかりではなく、例えばそれは重心が低いことによる安定性だったり、乗り手を選ばないことの利便性だったり、荷物の積載性だったりします。

なにより、手荷物として扱われるサイズに折り畳めるのは、ミニベロだけです。

あまり小さくならないので、小型スーツケースに収納できるのは一部のモデルだけですが、他の自転車では絶対にできない運用がミニベロなら可能になります。

そこから更に走行性能を求めて、ロードバイクのコンポーネントを搭載し、タイヤサイズを20インチに、フレームをチタン製にという方向に進む気持ちは分かります。

例えば、地方都市の主要駅から 15km 離れた観光地に向かうとき、次の列車が来るのが 45 分後だとしたら、列車に乗るべきか、自転車で行くべきか。

ロードバイクならおそらく自転車のほうが早く到着しますが、走行性能重視でもない普通のミニベロでは列車を待つのと自走するの、どっちが良いか分からないですね。

それでもミニベロの走行性能を向上させようとは思わないのは、性能に比例して折りたたみサイズも大きくなるからです。

小さく、軽く、部品数を削減できるなら変速機すらいらないと思ってるぐらいなので、結局あまり愛着がないということなのでしょうね。

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