終業後はロードバイクで浜名湖 – 浜松 移住体験

東海道新幹線に乗っていると、多島海のすぐ隣を通り抜け、南国風の樹木が並ぶ、開放的な景観が目に飛び込んでくる場所があります。

両側に水面が広がっていて、まるで水の上を走っているような気分になります。

東京行きの列車では、ここを過ぎるとトンネルが連続する区間が始まり、新大阪行きの列車では直後に名古屋に到着するアナウンスが入ります。

そのあたりが三信遠と呼ばれる地域で、三河湾があって、浜名湖があって、南アルプスこと赤石山脈の入り口があります。

私も博士課程の学生の頃は、なぜか毎週、新幹線に乗って京都から東京に通う生活を送っていたので、訪れたこともないのに既視感と親近感があります。

そんなところに仕事で「来ていただけませんか?」と誘われれば、よろこんで行ってしまいます。こっそりと自転車も携帯しながら。




趣味のものまで持っていくと、さすがに荷物が増えすぎて持ちきれませんので、ビンディングシューズやヘルメット、着替えの服や予備の靴やカメラなどは事前にホテルに郵送しました。

あとは待ち合わせ場所をホテルのエントランスに指定して、待合せ時刻よりも早めに到着して、自転車もフロントに預けてしまえば完璧です。

スーツケースを持ち歩く、いつもの出張よりも簡単な気がします。

手荷物に余裕がありましたので「ロード乗りなら一度は食べておけ」と言われる『牛肉どまん中』弁当も、この機会に試食してみました。

偉い人の好物らしく、たしかに冷めていても美味しいです。強いクセも、臭いもなく、万人向けの味で、非常に質と完成度が高いと感じました。

でも、この値段なら、私なら「レストランに行ってしまうかな」とも思います。

浜松にはうなぎと餃子の他にも、げんこつハンバーグの『さわやか』、ラーメン、遠州焼き、三ケ日みかんと名物も豊富にあって目移りするほどです。

私はアレルギーで海産物を口にできないので、うなぎは撮影するだけですけれども、食べ物が美味しいというのは良いですね。

たくさん食べたら、たくさん走ることが幸せを感じる秘訣です。

浜松は遠州地方の中心に位置しており、東を向けば牧ノ原台地と御前崎、西を向けば浜名湖と三河湾、北側には三方原と秋葉山が聳えているという立地なので、走る場所には事欠かないだろうと思っていました。

実際に来てみますと、思いのほかに浜名湖が至近距離にあり、文字通りに毎日の終業後に通えることが分かりました。

17時に業務を終えても、このあたりは東京よりも日照も日没も遅いので、夏場は19時ぐらいまで明るいです。

浜名湖の入り口にある舞阪まで、元城町からでも 12km およそ 30分ぐらいで到着しますので、湖西や舘山寺ぐらいまでであれば無理なく通えます。

ただし一つだけ注意点がありまして、人口や都市規模を考えると異様に車が多く、どこまで行っても市街地が途切れませんし、車の量も減りません。

サイクリングスポットとして注目を集めている場所の中で、ここまで交通量が多いところは他に見たことがありません。それどころか、全国の政令市の中でも有数の車社会なのではないかと思えるほどです。

いちおう札幌、仙台、新潟、岡山、広島、北九州には行ったことがありまして、京都や福岡には住んでいたこともあるのですが、浜松の道路や市街地はそれらの何れとも違います。

浜松の場合は駅前や中心市街地と郊外との区別が曖昧で、どちらも同じぐらい多くの交通量があります。

平野が広いためなのか、市街地そのものの面積も大きく、ようやく市街地を脱したと思いきや、その直後に愛知や静岡の隣町の市街地に繋がります。

東海道沿いの主要都市はどこもそうなのかもしれませんが、必ずしも都市の中心部に向かう車ばかりではなく、中心部から辺縁部に向かう車も決して少なくはなく、双方向に大きな流動があるので、より広範囲での交流があることを実感させます。

冬季の積雪も考えなくていいですし、生活環境も東京よりも遥かに良好、食べ物も美味しく、産業の一大集積地だけに仕事にも不自由せず、政令市ならではの利便性も兼ね備えていて、移住先としては理想的な候補の一つであることに変わりはありませんが、住んでみないと分からないこともあるのだと痛感しました。

住んでみないと分からないと言えば、早朝に天竜川を遡っていくと凄い景色をご覧になれます。有名なのは浜名湖ですが、これも実際に来て、走った人にしか分からない贅沢です。

その話はまた次回にでも

まさに霊峰・氷点下の富士は別世界

登山者がテントを背負い、数日かけて山頂まで到達するような険峻は、私の生活とは関わりのないものだと思い込んでいました。

日本一の標高を誇る富士山はその最たる例で、せいぜいが遠くから眺めるぐらいの存在としか意識したことはありません。

そんな世俗の世界から遠く離れた神域を訪れる事になったのは、前日までは予想もしていなかった偶然の巡り合わせの産物です。




これまでも何度か一緒にライドに出掛けた事のある、たんげさんと一緒に静岡県の海沿いを走ろうと車で高速道路を走っていると、突如として渋滞に巻き込まれます。

1時間も掛けて500mも進まないような酷い渋滞です。待っている間に対向車線を何台もの救急車や消防車が走り抜けていきます。

調べてみると私の通行する約20分前に後ほど全国ニュースになるような大規模な事故があり、交通規制まで実施されます。

そのために動くに動く事もできず、1時間以上も待ってようやく脱出できた先が富士市の北部です。

本来であれば海岸線に到着していたはずの時間もとっくに過ぎ、なおかつ、ここまで来てしまった以上、走らないという選択もないので、急遽、予定を変更して富士の裾野を巡るライドと相成ります。

2月とはいえ、暮れともなると関東平野では春の訪れを感じる事も少なくありません。



香取神社(墨田区)の梅まつり

ところが富士の裾野では到着前から積雪注意の案内看板があちこちに設置され、午後1時過ぎに到達した際のスタート地点の外気温は僅か2℃。

恐ろしい事には、このスタート地点の標高は僅か600mにも満たないのです。

気温も別世界であれば、坂の長さも他の山々とは一線を画します。私たちは富士宮市の篠坂交差点から富士スカイラインへと入り (富士宮側) 五合目を目指したのですが、この登り坂がとにかく長いのです。

斜度9%が頻繁に現れる急勾配が休みなしに9kmも続きます。

登りきった先でも平坦になるわけではなく、ただ斜度が緩むだけであり、登り坂が続く事に変わりはありません。

標高650mから1000mに至る九十九折を抜けた先に見えるのは絶景…ではなく、どこまでも続いていきそうな長い登り坂です。

目指す先は3000m級の本物の高山である以上、1000m程度を登ったところで終わりが見えないのも当然ではあるのですが。

こうした景色は同じく3000m級の合歓山で見たことがありますが、合歓山に至る太魯閣峡谷と富士山との大きな違いは、合歓山を含む台湾中央山脈が連山なのに対して富士山が独立峰である事です。

言い換えますと高い山の連なる峡谷のヒルクライムと比較して、単峰のヒルクライムでは目指す先との距離 (標高差) や山体の大きさ、裾野の広さを常に意識させられる訳です。

そこで感じたのは富士山の神々しさ、圧倒的な大きさと人を寄せ付けない険しさです。

到達した地点の標高は同じであっても、富士山の場合には風の強さや坂の長さから山頂に至るまでの距離感をより強く感じさせられます。

そのヒルクライムも残念ながら、完遂することなく突如として終わりを迎える事になります。



標高の上昇と供に徐々に路面を覆う面積の増えていく積雪が、ある地点から完全に舗装路を覆うようになります。

こうなると登りも危険ですが、下り坂では命の保証はありません。

この辺りが引き時という事で意見が一致したので、折り返して下山する事に決まります。



ほんの偶然から訪れる事になった富士ですが、一部だけでも身をもって体験する事でそのヒルクライムの困難さを十分に感じさせてくれました。

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