香港島 自転車紀行

香港と言えば、西は堅尼地城 (Kennedy Town) 、東は柴灣(Chai Wan)、北は維港を跨いで九龍の太子(Prince Edward)あたりまでの範囲が一般的によく知られています。

海と山に囲まれた細長い市街地に高層建築物が隙間なく林立する光景は、きわめて特徴的で象徴的ですらあります。

それでは活気に溢れた中心市街地を少し離れると何があるのでしょう。

人によっては「何もない」が答えかもしれませんし、また別の人は「坂がある」と回答されるかもしれません。

いずれにせよ、市街地を少し離れた場所には定住者のいない(そして大抵は傾斜のきつい)緑地帯が広がっています。

国際金融中心として名高い中環(Central)から、わずか 5km ほど離れただけで別世界のような光景が広がります。

まるで高原リゾート地帯にでもやって来たかのような山岳風景に驚くばかりですが、これでも急峻な山道や非日常的な絶景という意味では、ほんの序の口に過ぎません。

高度に都市化されているように見える港島(Hong Kong Island)でも南に向かうほど、緑地や自然海岸線の割合が増え、それに比例するかのように道路もアップダウンを増していきます。

それでも港島は九龍や離島に比べれば傾斜の緩やかな坂(斜度 6-9% 程度)が多いので、ロードバイクやマウンテンバイクで走り慣れている人であれば半周することは難しくはありません。

中環から赤柱 (Stanley) や石澳(Shek O)まで西回りで訪れても距離は片道 26 – 33 km 程度にしかなりませんので、私のように始業前や終業後に走りに出かけて港鐵(MTR)で輪行しながら帰ってくることも不可能ではありません。

ただし Gap Road と名前の付いている道路だけは例外で、どこも斜度 15% を超える急勾配が当たり前のように出てきますので注意が必要です。




話を戻しまして、西岸の摩星嶺(Mount Davis)や薄扶林(Pok Fu Lam)といった山岳地帯を超えていくと、港島の南岸へと向かう長いダウンヒルが始まります。

遠くに海を見渡しながら坂を駆け下りたさきには、対岸とよく似た高層建築物の建ち並ぶ市街地が広がっています。香港仔(Aberdeen)と呼ばれる南部の代表的な市街地です。

この辺りの1號幹線(Route 1)は通行車両の平均速度が異様に高く、自転車進入禁止の高架入口が複数ヶ所あり、概して道幅も狭いので注意が必要です。その一方で港鐵(MTR)の駅が近くにありますので、知っておくと輪行に便利でもあります。

香港仔を通り抜けて、海洋公園から香島道(Island Rd)に入ると再び景色が大きく変わります。いよいよ海洋に浮かぶ島らしくなってきました。

片側1車線は維持し続けているものの、歩道は部分的にしか存在せず、道幅も狭くて見通しも良くない道路が続きます。豊富なアップダウンに、切土に、崖道に、落石注意と、おおよそ亞洲國際都會が出して良いような雰囲気ではない険しい山道の連続です。

その反面、周辺の光景は息を呑むほどの美しさです。

ほどなくして、大潭道と赤柱村道の分岐点へと到着します。ここを直進すれば石澳、右折すれば赤柱が見えてきます。

石澳と赤柱。どちらも良い場所ですが、初めて訪れるのであれば赤柱のほうが良いかもしれません。

赤柱は雰囲気の明るい観光地でセブンイレブンやマクドナルドを始めとした補給地点が豊富にあります。ちょうど疲れてきた頃に、冷たい飲み物が頂けるのはありがたいものです。

ここまででも刺激的で変化に富んだライドを楽しめましたが、香港の名物でもある豊富なフェリー航路と港鐵路線を組み合わせると、およそ 200 もの島嶼と新界を組み合わせた「ちょっとした冒険」を気軽に楽しめるようになります。

その内容も南国のビーチリゾートから野生の牛が暮らす山林、数十kmにも及ぶ長大なサイクリングロードまでと多様性と意外性に満ちています。

自転車に乗って香港を走ってみると、この都市がいかにさまざまな顔を持っているか、徒歩で行ける範囲だけでは分からない全容が見えてくるのでオススメです。

中国で一番おもしろい場所

中国で一番おもしろい場所は間違いなく食料品店です。

中国の食料品店は日本製と欧州製の商品に溢れており、見知った商品が脈略もなく陳列されている点がおもしろいだけでなく、中国人の好みがよく反映されている点が興味深くもあります。

日本人でも知らない人のほうが多いだろう網走ビールの真横に沖縄パイン酒とヨーグルッペと謎の乳酸菌飲料が並べられているのが中国の食料品店です。

そのすぐ手前の列には、サンガリアとドイツの ERDINGER と青島ビールが一緒に並んでいたりします。選別基準も良く分かりませんが、陳列方法はもっと訳が分かりません。

ただ、全体をよく見回していくと、中国人が好きな食品の傾向が分かります。




輸入されているのは飲料だけではなく、レトルトコーナーにはイタリアのスパゲッティソースと一緒に出前一丁が大きなスペースを占有していて、中国企業の製品が端の方に置かれていますし、チョコレート以外の菓子類は日本製と韓国製ばかりです。それも見たことも聞いたこともない無名のものと有名どころが半々ぐらい。

残ったチョコレートも高価なものは、世界中のどこにでもあるスイス製やドイツ製で、中国製のものはお土産用のパッケージに包まれたものが少量あるぐらいです。

日本製がほとんど見当たらないのはヨーグルトなどの乳製品コーナーで、こちらはドイツ製とスイス製とオーストラリア製で埋められています。

この写真だけを見ていると、どこの国に来たのか全く分からなくなりそうですが、空港からドイツ車で送迎されて、毎日、フランス人やドイツ人と顔を合わせて、オージービーフのハンバーガーばかり食べていると、本当にどこにいるのか分からなくなります。

中国人には申し訳ないですが、中華料理は日本や米国のレストランの方が美味しいぐらいで、香港や台湾と違って本場の美味しい中華料理を食べたいという気持ちにはならないです。

日本には高級中華料理店こそあっても、中国企業が作った飲料や調味料などに誰も興味を示さないのに、中国のスーパーマーケットは日本語パッケージそのままの輸入品で溢れているところにも、現在の両国の関係性が反映されているような気がしてきます。

日本製と同じぐらいか、それ以上に欧州製品の存在感があるのも、また示唆的です。

中国の食料品店は本当におもしろいです。

まあ、言い換えると他に見どころが乏しいということでもあるのですが。

上海の自転車事情

中国発のイノベーションとして、一時期、話題になった自転車シェアリング。

日本や英国でもサービスを開始したと思いきや、わずか1年ほどで撤退してしまい、今では人々の記憶にすらも残っていないかも知れません。

App store に残されたレビューにも、サービスの継続やアプリの更新を疑問視する声が溢れています。

ところが、本場の中国においては自転車サイクリングは決して過去のものではなく、2019年現在においても街中の至るところで利用されています。

道路を走っているところを見かけるのは(自動)二輪車以外は、ほとんどがレンタルバイクと言ってもいいほど多くの利用者がおり、社会に定着している感があります。

※ 観察している限り、中国では二輪車と自転車との区分は明確ではないのか、同じ場所を一緒に走っていることが多いです。その一方で机动车(四輪車を含むエンジン付きの車) と非机动车(エンジン無しの自転車)の区別は明確です。




上海の道路は自転車で走りやすいところが多く、地形的に起伏が少ないことも影響しているかもしれません。

もちろん、上海の道路においても圧倒的に優遇されているのは四輪車なのですが(日本のように建前だけは歩行者優先ではなく完全に自動車が優先です)、郊外においては自転車と二輪車の専用レーンが設置されており、四輪車とも歩行者とも完全に分離されています。

加えて、驚くべきことに路上駐車が本当に少ないです。しばらく仕事で滞在していますが、最後に路上駐車している車を見たのはいつだか思い出せないほどです。

率直に述べて、東京と上海とで道路環境のみを比較した場合、東京のほうが上海よりも優れている点あるいは両者で均衡していると言える点など、ただの一つもありません。

かと言って、土地の所有権もない警察国家が羨ましいかどうかというのは、また別の話ではありますが。

通行者を容赦なく撮影する速度違反取締装置があり、絶対的な権力を持った警察が常時監視しているから、日本の道路を通行するよりも安全に感じるという一面もあるかもしれません。

それでも逆走や不法投棄などを少なからず目にするあたりに民族性を感じます。

都心部では自転車専用レーンがないところも一般的なので、歩道を走行している自転車や二輪車も見かけます。

どうやら歩行者専用道を除いては、自転車も二輪車も問題なく歩道を走行できるようです。

自転車が通行できない場所には明確に通行禁止の標識が掲げられていたり、禁止非机动车通行と警告表示がなされています。

さきに述べた繁華街の歩行者専用道などには、こうした標識が提示されています。

自転車を借りられることが分かり、交通ルールも覚えたら、実際にレンタルバイクに乗って散策してみたくなるものです。

中国の自転車シェアリングサービスを利用する場合には、現地で通信できるスマートフォンと WeChat もしくは Alipay が必要になります。

前者は SIM カードを現地調達すればいいとして、後者は少し厄介でして、インストールしたアプリに中国の銀行口座を紐付けないと使えないサービスもあるようです。

無事に準備が完了できたら、自転車に添付されているQRコードをスマートフォンの専用アプリで読み取って解錠します。

これだけを見ると簡単に利用できて便利に見えますが、実際には無人で管理されているがために、個々の自転車ごとに著しい状態差があったり、返却手続きが機能しなかったりと不便な点も少なからず感じられます。

レンタルバイクのなかには走行不能、もしくは、それに近いものも存在します。

かと言って、自分の自転車を持っていくと盗難の問題が付きまといますので、それはそれで不便な面もあります。

スポーツサイクルのショップも普通にありますけれども、路上でロードバイクやクロスバイクが走行しているところを見たことがありませんので、どれぐらい普及しているのかは不明です。

レンタルバイクに比較すると個人所有の自転車そのものが少ないので、安価でレンタルできる自転車をわざわざ購入する積極的な理由が乏しいのかも知れません。

私個人も写真撮影が捗らない、大気汚染が改善されてきているとはいえ臭いがまだ気になる、外国人がむやみに近づいてはならない場所が多すぎる、そもそもインターネット環境が不便すぎて情報検索すら一苦労などの諸々の事情から、あまり自分の自転車を持ってきたいとも思いません。

地下鉄を始めとする公共交通の料金もおそろしく安いので、都心部で生活する分には自転車がなくても不自由はしません。

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