MTB で東京湾一周


ロードバイクで人気な一周系イベント。

ちょうど良い距離の牡鹿半島や浜名湖、忍耐と集中力が要求される霞ヶ浦や琵琶湖、走力がなければ半周も覚束ない伊豆半島、果ては入念な準備とタイムマネジメントが必要とされる北海道まで一周できれば、どこでも対象になりえます。

ところが、誰もが知りながら絶対にイベントにならないルートがあります。それが東京湾一周 210 km (獲得標高 約 290m) です。

多くの人にとって一周系で最も価値が低い東京湾一周。その挑戦は他の一周とは一線を画した条件を有します。

全線に渡って

・線路と並走するので何時でも何処でもリタイアできる
・どこかしらに駐輪場があるので輪行準備すら不要
・信号まみれで走力と完走時間に何の相関もない
・道幅が狭い上に交通量も多くて危険
・排ガスも多いので健康に悪い

という他の一周系にはまず見られない特徴があります。

ほかの一周で必要とされる走力や体力やマネジメント能力は不要で、むしろ、必要とされるのは渋滞と信号に心を乱されない平常心、馬鹿馬鹿しさに打ち克つ継続力、危険運転する車に対する注意力、そして、この無意味な苦行を中断して輪行で帰宅しようという誘惑に負けない克己心といった精神的なものです。

自転車に 30㎞ 乗って筋肉痛にならないぐらいの最低限の体力さえあれば、東京湾一周に特別な機材やトレーニングなんか必要ありません。

信号順守で安全運転していれば、どうせ 100m に一回は信号に止められますから。


そんな東京湾一周です。当然ながら私も微塵も興味がありませんでした。

ただ、ロードバイクのスピードでは精神修養にしかならない東京湾一周も、もとが低速な MTB であれば普通に 200km 走行することと大きな違いはありません。

国内屈指のアマチュア MTB XCマラソンレース SDA 王滝にも 100km コースがあるように、未舗装路のダウンヒルやヒルクライムといった技術的なことを除いても MTB で 100km 走れる体力は必要な場面では必要です。

私の MTB は日常の足として使われる以外は、サドルを外されて人造の BMX コースでひたすらダートジャンプとバームで遊ぶことに使われているだけなので、一度ぐらいは普通に乗ってみるかという理由でロングライドに駆り出されました。

行き先は御前崎でも知多半島でも良かったのですが「自分からは絶対に選ばない」という理由で東京湾を選択。行きやすいところにばかり行っているとコースも固定されてしまうので、たまには敢えて間違った選択肢を選んで未知の体験に飛び込んでみます。




まずは実家を出て日比谷と内幸町を通って山手線の外側へ。出発地点は銀座六丁目の泰明小学校前あたりで良いでしょうか。

晴海通り(都道304号)は交通量が多くて嫌いなので、一方通行で車も少ないこちら側から山手線の壁を抜けて、環二通り(都道50号)を通って豊洲市場前まで行ってしまいます。そのまま突き当りの有明で左折したら、あとは首都高速道路の湾岸線の真横を通って南船橋駅前まで埋立地を一直線です。

おそらく実家から千葉までは九段から靖国通りを直進して国道14号を経由した方が走行距離は短いですが、あちらは道幅が狭く車との距離が近いので可能であれば避けたいところ。銀座を抜けたら築地、豊洲市場、有明、夢の島、舞浜、塩浜、三番瀬といった埋立地をつないで移動した方が精神的に楽です。

ただ埋め立て地も軽車両進入禁止の高架が多々あり、どこを走ればいいのか地元民しか知らないような道路が続くので、可能であれば事前に現地訪問して把握しておいた方が安全です。

とくに浦安市は水路に阻まれて対岸に進めない場所が頻繁に出てきます。その割に橋がなかったり、軽車両進入禁止でどこを通れば良いのか分かりにくくて、いつ行っても慣れません。

わりと道路事情が厄介な浦安、市川、船橋を通り過ぎて南船橋駅まで来たら、そこから千葉船橋海浜線(県道15号)で幕張新都心に続きます。

ここまで来たら、もう水路に阻まれて行き止まりということもほとんどなくなります。

ここまで来て驚いたことに稲毛海岸から東京湾越しに富士山がよく見えました。千葉から富士山が見えるとは思ってもみませんでしたけれども、よく考えると富嶽三十六景のなかに常州牛堀があるのだから千葉から見えても不思議はありません。

それどころか、千葉側から東京湾一周を行うと視界にずっと富士山が入ってくることになるというのは新しい発見でした。

千葉港から湾岸道路(国道357号)に入り、ここから道伝いに南下を始めます。

走っているときには気が付きませんでしたが、このあたりが千葉市の中心市街地だったようです。それに気が付いたのは蘇我駅付近まで到達してからでした。かつて輪行でここまで来てロードバイクで外房を目指したことがありました。

今日は自走でまだ見ぬ内房を目指します。

代り映えしない工場地帯を抜けている間に住所はいつの間にか千葉市から市原市に、道路はそのまま国道16号に名前が変わります。

この市原市、地図上では地味ですが、統計上では強烈な存在感があります。

何しろ市原市の工業出荷額は富士通や日本触媒などを擁する川崎とほぼ同額です。豊田市と横浜市、川崎市に続く全国4位。人口27.5万ながら出荷額では浜松や倉敷や北九州はおろか名古屋や大阪すらをも上回る巨大産業都市です。

こうした場所柄なので横浜税関がわざわざ出張所を置いているのかなと思ったり。

東京湾一周を実走する人は大抵「見るものがない」と言ってさっさと通り過ぎるのですが、統計数値を眺めることを趣味としている私には好奇心をそそられるものに溢れています。

市原市を通り過ぎると袖ヶ浦市です。

ここから先はもう半島内部、目的をもって意図的に訪れない限り、来ようと思っても来れない場所です。私もたぶん生まれて初めて来ました。

そうは言っても、この辺りはまだまだ工業地帯が続きます。トヨタ自動車の巨大工場が並ぶ渥美半島の付け根に雰囲気がよく似ています。

袖ヶ浦で国道16号を離れて海岸線の方に行くとアクアラインを眺める絶景スポットがあるらしいのですが、私はアクアラインはこの先の木更津にあると思っていたので、何も知らないまま袖ヶ浦を通り過ぎます。

そんな地元事情は知らんがな😞

さらに進み続けて「富士山がよく見える!」と思ったあたりで木更津市に入ります。

アクアラインと言えば川崎から木更津なので、ここいらで国道16号を離れて海沿いの中心市街地に向かいます。




千葉から袖ヶ浦までの海岸線は工業地帯であるのに対して木更津港は漁船が多いので雰囲気が大きく異なります。海と市街地の近さも漁港として栄えてきた歴史を感じさせます。

木更津を過ぎるといよいよ丘陵によって視界が遮られる変化が起きます。

思えば、ここまでおよそ 80㎞。その間、地平線が見えそうなほどの平坦が飽きるほど続いてきました。

ようやく房総丘陵が見えてきたぞ!という興奮と、ここまで来ても館山までまだ 50km 以上もあるのかという諦念の入り混じった不思議な気分を味わいます。

再び国道16号と合流して君津市へ。

何かあるわけではないですが、初めて訪れた土地であること、今後、二度と来る機会もないかもしれないということで記念撮影しておきました。

こんな都市あったかな?と思っていたら、わずか 4km 程度で通り抜けて富津市に入ってしまいました。




富津と言えば富津岬。東京湾一周の一番の見所にして沿道上の唯一の国定公園です。

別に興味はなかったので立ち寄らないつもりでしたが、道路のほうが富津公園に寄せるように続いていた関係で、結局、休憩場所として寄ることにしました。

富津公園の入り口から富津岬までやたらと距離があり、途中に森の小怪という素晴らしい文字列が並ぶトレイルの入り口がありました。

せっかくのトレイルですが、突っ込むと園内自転車利用禁止になりそうなので素通りして海岸へ。

しばし水面を堪能した後で大貫方面へと向かいます。

このあたり、明るくて雰囲気がとても良いです。

湾奥に見える丘陵地帯がこれから向かう先です。東京湾一周で初の登り坂かもしれません。

登ってみると洗心坂、東京湾観音という大きな看板がありました。

つまり、眺めがいいわけですね。じゃあ登りましょう。

途中で斜度 7% を示す看板がありましたが、香港島ならこの程度の坂は普通なので気にせず登ります。

頂上付近からは周辺の地形がよく見えます。

北側と打って変わって、ここから南側は平地の方が少ないことが良く分かりますね。

そして山上に小さく見える観覧車。方角的に鹿野山でしょうかね。

東京湾観音の坂を下ると佐貫町の駅前に出ます。

趣のある単線の駅に田畑越しに見える低山の連なりが北関東を彷彿とさせます。

ただ一つ困ったことは、このあたりから道路の雰囲気が一変して車がめちゃくちゃ増えます。富津あたりでは地元民中心で長閑で平和であったところ、佐貫から南側は品川や横浜ナンバーといった他県ナンバーも増えますし、交通量も増えて走行速度も上がります。

しかし道幅も狭いままで歩道すらないような場所が多いのは相変わらずです。千葉県の闇を見せられている気分です。

上総湊までやってくると、待ち望んでいた東京湾フェリーの看板が見えてきます。長かった。本当に長かった。

適度にアップダウンのある海岸線の道路はそれ自体はなかなか見所があるものの、高速で真横を通過していく暴走車両や爆音の響かせる二輪車の集団がただただ不快で一秒でも早くここから離れたくなります。

ただ無心にクランクを回して浜金谷港に到着します。

もう少し進むと鋸山という名所に到着するものの、あんなところを通るぐらいなら行かなくていいと心から思ったこと、出航時間が20分後に迫っていたことから迷うことなくフェリーに乗り込みました。

東京湾フェリーは東京湾一周の唯一の楽しみです。

ほかは全部行かなくても後悔しませんが、フェリーだけは乗っておかないと勿体ないです。

むしろフェリーだけ乗れるなら、東京湾一周なんかやらなくてもいいぐらいです。

補給食として名物の海軍カレーとコーンドッグを楽しんでいると、僅か 40 分足らずの船旅は直ぐに終わってしまいます。

上陸先は神奈川県の横須賀市です。千葉県内はぜんぜん知らないところばかりでしたが、ここから先は知っているところしかありません。

同時に交通量は対岸の金谷よりも一目で分かるぐらいに増えますし、道路に歩行者がいて時おり車道に飛び出してくることが大きな違いです。

どちらかと言うと、東京湾フェリーが発着する久里浜港よりも南側の三浦海岸や江奈湾のほうがロードバイクで走って楽しいところですが、東京湾一周ではそちらには寄らずに北側の市街地だけを通過します。

もっと言うと千葉県側も金谷から先にある館山や鴨川や房総丘陵の方に魅力があります。ほんとうに東京湾一周って何がおもしろいんでしょうね。

特に見るべきものはないので最短経路で横須賀駅前に行きます。

三浦半島は多くの道が同じ出入り口に繋がってる上に、脇道まで車が溢れるので、どこを通っても同じぐらい混雑していて逃げ場がないんですよね。したがって、どれだけ渋滞していようが最短経路で移動したほうが早いことが多いです。

横須賀駅前から国道16号で横浜まで北上して神奈川の青木通Y字路で国道1号へ入ります。あとは道なりで桜田門まで行けるので真っ直ぐ進んで帰るだけです。

疲れたことと暗くなってきたことから中華街も氷川丸も羽田空港もスキップです。この辺りの道路は行きつくしているので私にとって新しいものは何もありません。

初めて訪れるのであれば国道15号(第一京浜)の方が路肩が広くアップダウンも少ないので走りやすいかと思います。その反面、トラックやバスなどの大型車の通行が多く、東京都内区間が長くて無駄に信号が多いのが短所です。

国道1号は飯倉や五反田や寺尾(鶴見)を筆頭にややアップダウンがありますが、走行距離が短めで東京都内区間が短い点が長所です。なお信号が少ないとか走りやすいということはありません。関東ですもの。

ほかにも裏道はありますが多摩川を越える際に産業道路、国道15号(第一京浜)、国道1号のどこかを経由して橋を渡らないといけないので似たような経路になります。

とりあえず真っすぐ進めば桜田門か日比谷に着きます。そのまま桜田門を左折して早く帰りたいという思うものの、出発地点が山手線の外側なので帝国ホテル前の名もなき交差点を右折して壁の外側へと移動して一周達成です。

実行した感想は「銀座から南船橋までと横須賀から日比谷までぜんぶ輪行で良かったな」以外にとくにありません。言い換えると千葉県側は割と良かったですね。

関東で自転車に乗るなら輪行は必須ということを改めて実感させられました。

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