絶景の菜の花 浪漫街道 – 渥美一周サイクリング

渥美半島は愛知県の南東部にある景勝地です。「常春」の形容詞で知られる温暖な気候と遠州灘に由来する強風によりサーフ・リゾートとして知られます。

浜松を起点にして地図を眺めると浜名湖を挟んだ対岸が半島の入り口にあたり、自走でも何とか日帰りできる範囲に全域が含まれることが見て取れます。つまり、行こうとすれば、いつでも行ける場所(とは言っても最近は一年の半分以上は日本に居ないわけですが)。

それにも関わらず、今までに縁がなかったのは浜名湖の南岸あたりが自転車にあまり優しくないからです。

弁天島周辺の橋は軽車両の車道走行が禁止されており、片側にしか整備されていない歩道は頻繁に途切れて行き止まりになります。そして標識を頼りに進むと高速道路の入り口に誘導されることまであります。

その先にある愛知県も「さぞや交通量が多いのだろうな」という偏見から、敢えて行く必要もないかと漠然と考えていました。ところが実際に足を運んでみると、実に見どころの多い地域で久し振りに活字で記録を残したくなりました。

三河ってこんなに良いところだったのか。




出発地点は浜松の伝馬町交差点。時刻は6時11分。もう季節は春だけあって、この時間から日が昇っています。しかし、センサの示す気温は 4℃ を下回り、風速 6m/s の南西の風が吹き続けています。

停止時でも体感温度は 0℃ ぐらいでしょうか。信号停止が寒くて仕方がありません。

雄踏街道(静岡県道62号)と東海道(国道257号)のどちらを通るか迷いましたが、朝方で交通量も少なかったので後者を選びました。ちなみに字面から受ける印象とは真逆で、片側一車線の東海道よりも雄踏街道のほうが広くて交通量が多いです。

そのまま浜名湖を通り過ぎて、東海道に沿って西進をつづけると本日唯一のヒルクライムスポットである潮見坂にたどり着きます。ここを登りきったら愛知県はすぐ目の前です。

地図上で見ている限りでは静岡県と愛知県の県境付近は違いがないように見えますが、自転車で走ってみると静岡は海抜 10m 未満の平地に市街地が広がっているのに対して、愛知は 20m 以上の台地が続いていることが印象的でした。

そんなことを考えているうちに寒さと低血糖で足が回らなくなってきたので、2km 先に見えた『道の駅とよはし』に立ち寄り、地元産の素材を使用したカツサンドと特製の『渥美半島黒糖ミルクコーヒー』の朝食をいただきました。

コーヒーのほうは甘くて美味しかったので、おかわりして二杯目は「激熱」にしてもらいました。寒さと向かい風のせいで心が折れかかっていたところを甘いコーヒーで見事に気力が漲ってきました。

現在地を確認すると浜松から現在地までの距離と、現在地から渥美半島の先端までの距離がちょうど同じぐらいの距離でした。この分だと先端の伊良湖岬でつぎの補給を行うと良さそうに思えたので、まっすぐに伊良湖岬を目指すつもりで渥美半島入りを果たします。

はじめて訪れる渥美半島の印象は「三浦半島の南部によく似ている」というものでした。

海岸近くの高台に特有の起伏の少なさも、「遠くまで見渡せそうに見えてあまり先が見えない」感じも、道路沿いに広がるキャベツ畑も三浦半島にあってもおかしくない光景です。

違いと言えば三浦半島は汐入から横須賀、観音崎、浦賀、久里浜、三浦海岸、城ヶ島、三崎口を経由して逗子まで行っても 60km 程度にしかならないところ、渥美半島は伊良湖岬に行くだけでも片道 50km の距離があります。

これだけの長さがあると車の交通量もそれなりに多いです。しかも地域の生活道路と主要道路の役割がすべて2本の国道だけに集中しているのか、大型トラックも他県ナンバーの車も頻繁に通行するところを農耕車が走っていたりもします。

ただ全体的に安全運転でマナーの良い運転手が多いので、道中で危険を感じることは一度もありませんでした。横断歩道で停止して歩行者に道を譲る運転手も伊豆や茨城東部と並ぶほどの頻度で見かけたので、愛知県民の印象が非常に良くなりました。

それでも国道沿いの景色は単調なので、どこまでも続くかのようなキャベツ畑の光景を見飽きたら、時おり高台を降りて海沿いの道路を走ります。

途中には『田原豊橋自転車道』『渥美サイクリングロード』という興味を惹かれる標識もあるのですが、未完成なのか、自然災害で寸断されたのか、少し進んでみると工事中で行き止まりになるところが大半です。

周辺の景観の良さ、伊勢・紀伊半島と豊橋・浜松とを結ぶ経路としての役割から全通したときのポテンシャルの高さは強く感じます。

そのサイクリングロードも伊良湖岬に近づくに連れて、一段と景色が良くなっていきます。そして、いよいよ終点に近づくと・・・

一面の菜の花と高台から見下ろす海の青が広がります。

「ああ、この光景を眺めるために逆風の中を 80km も走り続けてきたんだな」と感慨に耽ると心を揺り動かされる気分です。

対岸に向かい合うのは志摩半島です。ここは渥美半島の終端であると同時に近畿地方への入り口でもあるわけです。

折り返し地点を過ぎたら、今度は道なりに豊橋を目指します。基本的には国道を直進すれば良いのですが、三河湾側もなかなかに交通量が多く、道幅も狭いので通りやすい道路に逸れていくうちに若干迷子になりました。

往路に通った台地とは打って変わって、こちら側は低地に見られる平坦な耕作地が大部分の面積を占めているので、半島らしい趣はあまり感じられません。ここが普通の平野部ではなく半島の一部であることを思い起こさせるのは、河川(橋梁)の少なさと耕作地が水田ではなく畑作地であることぐらいです。

三河湾を挟んで対岸に見えるはずの大地も高い山がないためか、大きな川の向かい側にしか見えない点も少し残念です。その一方で荒々しい遠州灘とは対照的に水面は静かで、透明度の高い水を楽しめます。これこそ日本の海です。

海岸線を充分に満喫して、三河港を越え、豊橋市内まで戻ってきたときには手脚も冷え切り、心も疲れ果てていて、久し振りに何もしたくない気分になりました。当初はあと 40km 走って浜松まで自走で帰るつもりでいたところを、「集中力を切らして事故を起こすぐらいならば」という気分になったので豊橋で一泊して回復してから戻ることにしました。

振り返ってみると「行ってよかった」と断言できますが、半島特有の風の強さ、頻繁に遭遇する信号ストップ、おおよそ道の駅しか当てにできない補給場所の少なさ、例外的な低温など、さまざまな要素が重なると奥多摩で山越え 2,500m UP するよりも厳しいライドになることを身をもって実感しました。

次回は渥美半島から伊良湖水道を通って熊野にも行きたいですね。

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