新緑の箱根

平日の箱根は良さは筆舌に尽くしがたい。

箱根と言えば関東を代表する渋滞スポット。東京、名古屋、大阪を結ぶ東西の大動脈の一番の難所にして、関東有数の温泉郷、さらに富士箱根伊豆の国立公園にして日本最大級の観光名所でもあります。

その盛況ぶりは渋滞時の通行速度や駐車場に至るまでの待ち時間の目安が県道沿いに掲載され、箱根独自の混雑予想ウェブサイトが立ち上がるほどのものです。

しかし、それらはすべて休日の話。

平日の箱根に聞こえるのは野鳥のさえずりと緑を揺らす微風の音ばかりです。




出発地点は御殿場。まずは国道246号を経由して新松田方面へと移動します。

静岡県側は良いのですが神奈川県側は感染症関連ですぐに来訪自粛になるので、この時勢では訪れられる機会が乏しいです。

そうした理由もあって今まで通行することもなかった国道246号ですが、実際に通ってみると悪評に違わぬ酷い道路ぶりです。狭くて、大型車だらけで、速度も大きい。とても危険。

国道246号って、まともに通れるのは三宅坂から高樹町までの間だけで、渋谷駅から西側のことは知らないほうが幸せという印象がありましたけれども、静岡県と神奈川県の境界まで来ても相変わらず 246 は 246 のようです。

神奈川県に到着したら 246 を離れられる喜びを噛み締めながら、県道 726 号 矢倉沢線 を右折して金時山を目指します。

こちらに来ると通行する車両はほとんどおらず、時折、対向車線をすれ違うのはロードバイクばかりになります。平日なのにロードバイクそこそこ多いです。

というのも、この道の終端は矢倉沢関所跡、激坂として名高い足柄峠の入り口です。

長閑な里山風景を楽しんだ先に突如として出現する斜度 10% の登坂。

SNS などで見かける「足柄峠と言えばこれ」という有名な坂ですが、これでも足柄峠のなかでは易しい部類です。

この先、10%、14%、12% といった具合に冗談のような道路標識が連続します。加えて日当たり良好なのでヒルクライム中は暑くて堪らないです。

4月中旬で気温わずか 22℃ 程度でも、既に頭がのぼせそうになります。

距離も 11km もありますし、勾配がきつくて速度も上がらないので、時期によっては熱中症に注意が必要になりそうです。

その分、展望の素晴らしさは神奈川県側も静岡県側も見事なもの。

平日なら車もバイクもほとんど通らないので、斜度のわりに安全というのも特筆すべき点です。

足柄峠から先、県道 78 号 御殿場大井線は工事中なので、誓いの丘公園を経由して遠回りをしながら足柄駅を目指します。

駅前にはヤマザキデイリーストアぐらいしかありませんが、東名高速道路 足柄サービスエリア (EXPASA 足柄) や御殿場プレミアム・アウトレットが付近にあるため、山腹の森林の中とは思えないほど質の高い飲食店が揃っています。

今日はそれらを全てを通過して国道 138 号を登り返して乙女峠方面へ。

箱根と言いつつ、ここまできて初めて青看板の行き先に箱根が表示されます。

ここに来るといつも思うのですが、道幅狭くて危ない上に交通量がめちゃくちゃ多いので、国道 138 号だけは車道よりも歩道を走ったほうが良いのではないかという気がします (※ 246 に関しては通らない方が良いです)。

国道 138 号の湖水前から深沢東 (乙女の鐘) までは本格的な山道であり、長期休業中の富士松天望レストランを除くと施設等は何もないので、ここの歩道を通行している人を見たことがないんですよね。

そして深沢東の交差点から先では御殿場箱根線を通って長尾峠を目指します。乙女峠のことは忘れてください。

御殿場箱根線こと静岡県道401号に入ってからが本当の箱根です。

新緑に覆われた涼し気な林道。木陰から覗く富士山の展望。緩やかで軽快な登坂。聞こえてくるのは鳥のさえずりばかり。

こんなに良い道なのに足柄峠ほど自転車を見かけない、と言うか1台もすれ違わなかったのは、国道1号 (箱根峠)や静岡県道11号 (熱海峠/十国峠)ほど知名度がないからなのですかね。

あんまり舗装はきれいではありませんがロードバイクでも問題ないと思います。

行き着いた峠の先に見えるのは箱根駒ケ岳。

ダウンヒル楽しい。

長尾峠を下っていくと仙石原の市街地に辿り着きます。

箱根の一大観光地だけあって標高 650m ながらも活気があります。

米国や台湾などでは珍しくもないですが、日本人はなぜか歴史的に高原都市というものを形成してこなかったので、これだけ標高が高い場所に市街地が広がっている光景はなかなか珍しいものです。

なにしろ海から 15km 程度しか離れていないのに仙石原や元箱根 (箱根関 737m) の中心市街地は標高において長野市 (善光寺 402m) や松本市 (松本城 592m) をすら上回ります。

ここより標高が高くて市街地と呼べるものが形成されているのは軽井沢、岡谷、小諸など片手で数えられるぐらいしかないのではないでしょうか。

片手で 0x00 から 0x1F まで数えられるじゃんというのは無しで。

こうした地理的特徴から箱根の山道は市街地との境界線が曖昧です。その上、どれもこれもが勾配がきつくて洒落にならないという特徴があります。

市街地をすこし離れると、すぐに出てくるコンクリート舗装、路面に刻まれた丸い輪、5km も続く斜度 8% のアップダウン。

「外輪山よりよっぽど激坂なのではないか」と思える坂が強羅の至るところに見つかります。

何気に今日一番つらい登坂は仙石原から強羅、強羅から大涌谷に続くカルデラ内部でした。週末なら駐車場に入り切らない車が列をなして道路を何時間も塞いでいるあたりです。

ここも平日なら交通量ほぼ皆無で平和そのものです。

だからこそ、じっくりと見えてくる箱根の様々な面。山であり、火山であり、温泉地であり、観光地であり、山岳鉄道まで持つ高原都市であるという唯一無二の性格。

「箱根は楽しいぞ」という新しい発見をする一日になりました。

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