春疾風の箱根

箱根が好きな人は小田原から箱根湯本、宮ノ下、小涌谷、元箱根に連なる温泉郷を「表」と呼び、すすきが広がり、美術館が林立する仙石原を「裏箱根」と呼ぶそうです。

聞いたところでは、前者ではマラソンや大文字焼きなどのイベントが行われ、メディアに取り上げられる機会も多いとか。

しかし、これ、自転車では正反対ですよね。

箱根と言えば、眼下に一望できる相模湾、そびえ立つ富士山、海から空へと続くかのような高原道路。それらを抱える仙石原、足柄峠、長尾峠、箱根峠、椿ラインこそが「表」で、華がない国道1号は「裏」です。

そして自転車乗りには知られていない激坂、絶景スポットが大涌谷であり、行かなくていいところが旧東海道と乙女峠です。




先日、訪れたのは言うまでもなく「表」であり、今回は「裏」の話です。

緊急事態宣言直前の平日の早朝という好条件から「裏」とは言え、それなりに楽しめるのではないかと見込んで、いつもとは違う道を選んでみました。

やってきのは箱根湯本。

既に車がたくさん走っているように見えますが、これは箱根湯本にしては道がとても空いていて感動しているところです。

箱根の、いや関東の現実なんて所詮こんなものです。ただ、この国道1号も実際のところは、見どころ豊富で素晴らしいルートだったりします。

重要文化財に指定されている函嶺洞門、早川渓谷と温泉郷が作り出す独特の景観、そして何よりも日本唯一の山岳鉄道である箱根登山鉄道と並走しながら登る山道は、日本でもここだけという唯一無二の魅力を放っています。

その全てを渋滞と暴走車両が台無しにしているだけです。

そして独特で魅力的な景観を誇るとは言え、通路であることに変わりはなく、ここ自体は目的地にはなりえません。

それは平日の早朝も同じことです。むしろ道路が空いている時間だからこそ、上りも下りも車の通行速度が大きくて危険に感じます。

場所柄、通行人もバスも少なくはないのですが、歩道でよろめいているお爺さんの目と鼻の先をバスが 40km/h 以上の速度で通過して行ったりするところを見る度に暗澹たる気分に陥ります。

混雑しているのも問題ですが、空いていれば良いという訳でもないという神奈川県の日常を身に染みて実感させられます。こんなところもう来なくていいかも

国道1号を通り抜けたら大芝から箱根園と湖尻を経由して大涌谷へと向かいます。

ロードバイクで大涌谷に行く人はほとんどいませんけれども、ここは知る人ぞ知る補給ポイントであり、絶景スポットであり、富士山展望スポットでもあります。

こんなに良いところなのに人が寄り付かない理由は簡単です。ここに至るまでの県道が大変な渋滞スポットであり、週末ごとに駐車場待ちの車が溢れ出して、麓の姥子温泉あたりまでの一帯の道路を塞ぐからです。

また、現状では自転車に対する規制等はなく、施設利用について何も言われることはありませんが、サイクルラック等の設備はなく、サイクリストが歓迎されている雰囲気もありません。

もともとが集客に困らない大人気の観光地だけあって、あまり大挙して押し寄せるようであれば、そのうち自転車通行自体が規制されかねませんので、人が寄り付かない現状のほうが望ましいのかもしれません。

どうしても訪れたいのであれば、平日に一人で行くぐらいがちょうど良いです。

大涌谷を降りたら芦ノ湖を経由して箱根峠へ。

ここまで来て、今日はとても風が強い日であることをようやく実感します。箱根山の東側はほぼ無風と言っても良い静謐さを保っていたのに対して、西側の大涌谷や芦ノ湖では自転車ごと吹き飛ばされそうな強風が吹いていることに箱根の地形の躍動感を再確認される気分です。

箱根峠まで辿り着いたら箱根の「裏」は終了です。ここからは心地よい高原道路がつづく「表」箱根が待っています。

今日は風が強いこともあって、気分はまさに空を飛んでいるかのようです。これぞ箱根。

最高の気分で熱海峠まで行った先に待っているのは海へと続く崖です。

海へと続く坂道が好きな人は、それなりに多くいると思います。それでは海まで続く5kmの坂道(平均斜度9%)が好きな人は、どれぐらいいるんでしょうね。

少なくとも私はあまり好きではありません。好きではありませんが、他に道路がないので崖から落ちる気分で坂を降ります。

ディスクブレーキでないとここを通る気にはならないですね。

遠くに見える初島。海にせり出した崖に張り付くような市街地。熱海に来ました。

ここまで来たら自走で帰るだけとも思いましたが、意外と時間が余っていたので小田原まで戻って箱根一周を達成してみるのもおもしろいかと考え直し、国道135号に入ります。

国道135号は国道1号以上に交通量が激しく、通行速度が高く、路肩も狭い、積極的に輪行を使って回避すべき最低の道路である反面、景観の素晴らしさは特筆すべきものがあります。

とくに真鶴から小田原に東進するときがとても良いです。ここを走らないのは勿体ないので小田原まで行って外郎と蜜柑を購入して帰ることに決めました。

と言っても強烈な西風が追い風となって、さほど労せずに到着してしまいます。

拍子抜けしてしまう感覚を覚えながらも、いつもとは異なる道路ばかりを選んで通ってきたことに対する満足感から早めに切り上げても悔いはありません。

小田原から箱根湯本の入り口に赴いて本日は終了です。

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