ネットワークはなぜつながるのか

最近は雨が多いので走り込みの時間を書籍に当てています。『ネットワークはなぜつながるのか』はその一つです。

この本は某外資企業の中の人も絶賛していた入門書で、私のようにネットワークに苦手意識がある読者にも全体像が見通せるようになっているところが特色です。

情報通信の専門書でもインターネットについては雲のような図で描かれ、ネットワークの接続先の詳細は省略されて書かれているものが多いので、そこに焦点をあてて丁寧に書かれた入門書は日本語では珍しいかと思われました。


ネットワークはなぜつながるのか 第2版

このように代替の思いつかない特徴的な内容なのですが、2021年現在ではさすがに内容が少し古くなっている点には注意が必要です。いまどき HTTP 通信(ポート80番)や CGI なんて誰も使っていませんし、IPv4 にも終わりが見えはじめています。本書の一章を構成する ADSL については 2023 年1月をもってサービス提供終了が宣言されています。

そこは 2007 年の改訂を最後に更新が止まっているので仕方がないにしても、個人的に本書で好きではないのはネットワークを構成する層や構成部品やソフトウェアが一緒くたに混ざっていることです。

これは著者個人の問題というよりも日本語で思考しているからこその問題かも知れません。私にとっては非常に気持ちが悪いところですが、気にならない人は何も思わないからこそ、本書の評価が絶賛で溢れているのでしょう。

本来ならば関数と表現すべき gethostbyname をプログラムと説明するぐらいは分かりやすさを重視するならば許容できるものの、明確にソフトウェアであるプロトコル・スタックとハードウェアである LAN アダプタ、構成部品であるケーブルや NOC や IX といった施設が同列に扱われていることなどには違和感しか覚えません。

より困ったところは、本書を読んでいる限りではトランスポート層の話をしているのか、ネットワーク層の話をしているのか、データリンク層の話をしているのか、読者が事前知識を持っていないと判断がつかないところです。




かと言って、そこを自然と補完できる事前知識を持っていることを前提としているならば、本書の内容には冗長に感じる部分も少なくありません。

その一方で、ネットワークの構成機器であるモデムやルータ、アクセスサーバ等については詳細説明もなく進みます。つまり、本書が一貫して説明しているのはネットワークの中で何が起こっているのか、という一点のみです。

そのために HTTP の考え方から始まり、TCP/IPとパケットの送受信の原理、ケーブルの構成を辿って接続先のサーバに至るまでを個々の章を使って追いかけていきます。本書が秀逸なのは、わずか450ページあまりの短い文章の中でパケットの構成や光ファイバの動作原理などの要点を押さえながら、ネットワークを介した通信が成立する過程を網羅していることにあります。

これだけ読んでいればインターネットの全てが分かるという訳ではありませんが、通読すればコンピュータやスマートフォンがデータを送受信するときに実際にはどういうことが起こっているのか具体的に想像できるようになりますし、気になった際に何を調べればよいのかという足掛かりになります。

ここまでいろいろ言ってきましたが、私がネットワークに苦手意識を持っていることは本当です。

だって問題が発生したときにネットワーク関連は原因になりうるものが多すぎて、あれもこれも確認しなければ仮説も立てられないじゃないですか。

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