なぜリコールを実施するのか

リコールの目的は一つしか存在しません。

製品不良によって起こりうる被害を未然に防ぐことです。競技用の自転車であれば事故を予防することに当たります。

誤解されている意見を耳にしていますけれども、要するにレース中に他人の機材の欠陥によって大勢が負傷する事故に巻き込まれるリスクを許容できるのかという話です。

自分一人が不買すれば回避できるというわけでもありません。

当然ながら出走前には整備士による点検義務があります。競技車両の整備状態は万全です。

ただし、機材そのものにメーカが認める故障リスクがあり、多くの場合は故障するまで、あるいは故障直前まで、その兆候はわかりません。

報告されている事例や点検方法を確認する限りではメーカも良品と不良品の区別ができているか疑わしいです。

実際に目の前で破損した事例に遭遇したことが2回ありますが、いずれの場合も走行前の点検時から自宅を出て 15km 走行した時点 (集合場所に到着した時点) では、当事者は全く異常を感じていませんでした。

その後の走行中に前兆なく破損して転倒事故を起こしています。

これがレース中であれば、どうでしょう。私的に走行している時よりも速度も出ていますし、同じ故障リスクを抱えた車両が密集することで事故リスクは跳ね上がります。

というわけで、十分な安全性を有していない危険な自転車の利用を即刻停止すべきなのですが、注意喚起に従わないことを公言しているユーザが一定数確認されています。

すべてメーカの責任です。

というのも、以下に示すように対策が無意味で間違ったものだからです。

メーカはリコール製品の金属部品(おそらくは A7000 系アルミニウム※)の破断または内部接合部の剥離に対して目視による外観検査による点検を発表しています。

これらの異常に対して、JIS どころか自転車安全基準 (一般社団法人自転車協会) すら満たしていない販売店まかせの目視点検を実施しても、これから生じうる故障リスクは低減しません。

既に壊れていた場合に壊れていることが分かるだけです。

だいたい、どうして目視での確認なのに照度基準の明記すらなく、作業者の体調や熟練度に依存する官能検査なのにバラツキがないことが前提になっているのでしょうか。

試験機も用いずに外観検査で内部の接合不具合を発見できる作業者って何だよ

こんなことをするぐらいなら国○省や経○省にお問い合わせをして監査を促すほうがマシです。

リコールの意味がないと受け取られているので、注意喚起後も当然のように継続使用されている該当製品が確認されています。

安全性に問題があるので、本来であれば使用を一時中止しなければならないところですが、ユーザ側の気持ちも理解できます。

点検のために販売店に赴く手間、点検の作業時間 (おもに数日から数週間におよぶ待機時間) 、該当製品を使用できない期間の代替機材の準備などユーザ側の負担が大きすぎる上に、そこまでして受けられる対応が目視による確認です。

その作業を行うのは、訓練を受けた専業の検査員ではなく一般販売店の整備士であり、検査見本や検査基準すら設けられていない不備だらけ検査内容で、合格すれば継続使用を推奨するという方針であれば、実施することに何の意味があるのでしょうか。

リコールを行うのは製品の故障率が有為に高く、それが人的被害に直接的に結びつく可能性が少なからず存在するためです。

メーカがしなければならないことは、ユーザに対して該当製品の使用を即時中止することを勧告し、製品を全品回収し、安全性に問題のない代替品に交換することであって、いい加減な点検による製品の継続使用を推奨することで、ユーザに対して間違った認識を与えることではありません。


※ だから溶接もろう接もできないのではないかという推定です。融点が低く溶接後に自然冷却すると微小なひび割れが発生する特性が知られています。

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

Contact Us