ロードバイクのコンポーネントと言えば、日本の SHIMANO にイタリアの Campagnolo そして米国の SRAM が3大ブランドとして有名です。
クランクセットなどの部品としては FSA や ROTOR や SR SUNTOUR なども魅力的な商品を提供していますが、ミドルグレード以上の完成車には、ほぼ確実に3大ブランドの何れかのグループセットが用いられます。
なかでも業界トップの SHIMANO は、その性能と信頼性、価格、補修部品の調達性などから圧倒的な支持を得ています。
ロードレースの本場の西欧だろうが、SRAM の拠点の北米だろうが、東南アジアだろうが SHIMANO を選んでおけば間違いないというのは世界中どこでも共通です。
SRAM を選ぶということは、その圧倒的なシェアを誇る SHIMANO の生態系から外れるということです。
12速化が定着した現在、両者のコンポーネント間で共通して用いることができるのはペダルとディスクローターぐらいで、それ以外は変速機からチェーンまで何もかもが専用品になります。
それを維持できるのかという点が SRAM を選択するにあたっての最大の懸念でした。
自転車のコンポーネントは購入して終わりではなく、定期的なメンテナンスと部品交換を必要とします。
ブレーキフルードは酸化すると性能を発揮できなくなりますし、プーリーやベアリングは摩耗します。
自転車のコンポーネントは消耗品のかたまりです。
実績のある SHIMANO であれば、どこの店舗でどの部品を取り寄せてもらえば良いのか、比較的簡単に情報を得られます。
しかし、それらの部品は SRAM のコンポーネントには適合しません。
いくら、3大ブランドの一角として徐々にシェアを拡大している SRAM とは言え、安易に選択したあとで維持し続けることが可能なのかという点については、導入前からずっと不安に感じていました。
結論から述べると、意外となんとかなっているのが正直なところです。
というのも、メーカー純正でなければならない専用品がそれほど多くないためです。
なお、この記事の前提は 12s ディスクブレーキ eTap AXS となります。
専用品
SRAM を導入するにあたって、メーカー純正でなければならない消耗品はスプロケット、ボトムブラケット、そしてバッテリーの3点となります。
スプロケット
その中でも、おそらく最も頭を悩ませることになるのはスプロケットです。
これは市場にあまり出回らないので入手性がよくありません。おまけに高価です。
旧 RED eTap と共通のフリーハブを用いる SHIMANO の 11速 ULTEGRA スプロケットなんかと比較してしまうと価格が2倍以上になったように感じます。
ただし 12速 どうしで 105 と RIVAL のスプロケットを比較すると SRAM が特別に高価なわけでもないと感じてしまう不思議な部品でもあります。
こんな一般的な部品が専用品となっているのは、ひとえにチェーンリングの大きさに起因します。
SRAM のフロント・チェーンリングは 50-37T / 48-35T / 46-33T と他社のそれと比較して小さめです。
それにあわせるように、リアのスプロケットも 10-28T / 10-30T / 10-33T / 10-36T といった具合に独特の歯数となっています。
SRAM のチェーンリングと他社のスプロケットを組み合わせようとした場合、変速性能などの問題を考慮しないとしても、ギア比が一般的なロードバイクのそれから外れるので、非常に使いにくくなることが予想されます。
というわけで SRAM コンポーネントの運用するならスプロケットの確保は必須です。
逆に言えば、問題となるのはスプロケットぐらいで、ほかにはそれほど気をつけなくても運用に大きな支障はないと感じています。
BB
2022年現在の SRAM のクランクセットは軸経 φ28.99mm の DUB 規格になっています。
業界最大手の SHIMANO どころか、SRAM の旧規格の GXP とも互換性はありません。
SRAM のクランクセットを使いたければ、DUB 規格のボトムブラケットを用いなければなりません。
幸いなことにボトムブラケットはそれほど頻繁に交換する部品ではない上に、入手性は比較的良好です。メーカーや代理店から取り寄せなくても、店頭に在庫があることが多いです。
後発の規格だけあって、BSA ネジ切りのフレームにも BB86 のフレームにも BB30 のそれにも対応した BB が販売されています。
注意点はそれ故に紛らわしいことです。
取り付けるフレームの種類は複数あるのに、BB の名前はすべて DUB なので注意が必要です。
バッテリー
eTap のバッテリーはスマートフォンと同様のリチウムイオン電池なので、継続使用で同じように劣化します。
外装の形状はやや特殊ですが、中身は 7.4V 2.22 Wh (300 mAh) のリチウムイオン電池です。
珍しいのは台湾製であるところぐらいです。
そういうわけで当然ながらサードパーティ製の互換バッテリーが販売されているのを見たことがあります。
でも、純正バッテリーが 38€ で販売されているところで、敢えて 36€ のサードパーティ製を選択するかというと微妙なところです。
そう。バッテリーに関して言えば、純正品でないと困るというよりも、純正品以外を選択する意味があまりないという方が正確です。
どういうわけか、スプロケットやボトムブラケットよりもバッテリーを在庫してる店舗のほうが多いので、これもおそらく入手性に困ることはないでしょう。
屋外で交換することを見越して、予備のバッテリーを携帯する運用もありだと思います。
互換品
これまでは専用品でなければならない消耗品を見てきましたが、以降は互換品でも代用できる部分です。
とくにディスクブレーキの消耗品は他社製品で代用できる部分が多いです。
消耗品の調達に困ったら検討してみるのも良いかもしれません。
ブレーキパッド
ディスクブレーキ搭載のロードバイクで、一番損耗が激しく、交換頻度が高い部品がおそらくブレーキパッドです。
一部では入手性が良くないと言われているらしいですが、純正のブレーキパッドはバイクメーカーの直営店で購入できたりします。
互換品には SwissStop Disc 35 RS や Chain Reaction / Wiggle の LifeLine Elixir があります。
SwissStop Disc 35 RS Brake Pads for SRAM Red, Force, Rival eTap AXS
現時点ではあまり使い込んでいないので判断を確定できませんが、ファーストインプレッションとしては前者は純正品よりもコントロール性が向上する疑惑があります。
後者は圧倒的に安価な上に入手性が高いです。
ディスクローター
ブレーキローターは規格さえあっていれば、どこのメーカーを選んでも問題ありません。
私の場合は一応 SRAM で統一していますが、見た目が気にいるかどうかで選んでいい部分だと思います。
というのも、あまり SRAM のローターは軽くないですし、価格の割に加工精度も他社より優れているようには見えないからです。
ブレーキフルード
SRAM の油圧ディスクブレーキフルードはグリコールです。
人体への攻撃性の低さではミネラルオイルのほうが望ましいものの、使用実績と入手性の良さでは圧倒的にグリコールに利があります。
なにしろ一般の乗用車に用いられているものと同一です。
保証の問題はどうなっているのか不明ですが、互換品としては DOT 4 または DOT 5.1 のフルードであれば問題なく使えるようです。
紛らわしいですが DOT 5 は中身がシリコンで別物なので、間違えて入れてはいけません。
まあ、しかし、フルードも eTap のバッテリー同様、純正品の調達が比較的容易なので敢えて互換品を選ぶ意味はないかもしれません。
チェーン
SRAM の運用で最も困ることが多いのは、おそらくチェーンでしょう。
カセットスプロケットよりも交換頻度が高い上に、こちらもあまり入手性がよくありません。
スプロケットと異なるのは、チェーンの場合はいくつかの代替候補が見つかることです。
私も取り敢えず、予備として SRAM 12速ロードへの互換性を謳っているチェーンを幾つか入手してみたりしましたが、純正チェーンを大量に保有しているので、今のところ出番はありません。
ロードバイクの完成車の中にはグループセットをすべて SHIMANO で統一していても、チェーンだけは KMC (OEM ではなく KMC ブランドのチェーン) を採用している例もあるので、規格が適合しているのならば互換品でもきちんと動作するのではないかと個人的には考えています。
一点、注意しなければいけないのは、こうしたサードパーティ製 12s チェーンは MTB 用途のものが多く、ロードバイク12速チェーンはまだ少数派です。
そのなかで SRAM や Campagnolo に対応しているものは、さらに数が絞られます。
代替品を探す場合に注意深く説明文を追っていかないと、せっかく購入したのに使えなかったなんてことも起こりえます。
ホイール
SRAM eTap AXS のフリーハブボディは XD/XDR 規格です。
11速までは SRAM と SHIMANO のフリーハブボディは共通規格で、ホイールも互いに流用可能でしたが、12速化してからは独自規格となりました。
ホイールの選択肢はやや狭まりますが、実感としてはリムブレーキ時代のカンパニョーロと同じぐらいの選択の余地はあるので、あまり不都合を感じないというのが正直なところです。
XDR だけセール価格が適用されないなんてこともないです。
普通に使いたいホイールを使えることが多いですし、何なら傘下に ZIPP もあるので ZIPP で揃えてもいいです。
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総評
導入前は SRAM に移行したら運用面で困ることがあるだろうかと考えて、いろいろ検討していました。
そのうち、消耗品の入手性と価格については事前の想定通りでしたが、チェーンの代替品や対応ホイールについては予想以上に数が豊富にありました。
ちょっと困るのはカセットスプロケットぐらいで、ほかの消耗品はあらかじめ交換部品を確保してさえおけば、とくに運用で困るようなことはないかと思われます。