真夏の北海道自転車旅 (12) 終幕

前日から危惧されていた台風は、明け方に虹を残して道央を通り過ぎていきました。

後から振り返って見ると、結局、「一日ズレていたら飛行機も飛ばないほどの荒天」でも「いつも晴れの日を引く」という、私にとっては非常に見慣れた結果に終わりました。

こういうときは、何故か、いつも、いつも晴れるのですもの。

そう言えば、北海道に来るときの船も前日まで荒天で出航が危ぶまれていた気がします。もはや、遠い過去の出来事のように感じますね。

この天気と風速であれば、遅延はあっても出航しないということはないとは思われましたが、今回は当日になるまで運行状況は確定していない状況であったので、私が苫小牧に残って船の状況を確認することにしました。

温泉好きの丹下さんは、早朝から近隣の温泉を目指されてライドに出られました。




私は長風呂が得意ではないですし、長年の癖で湯船に石鹸を入れたくなるので、温泉は遠慮しておきました。

その代わりに時間が許す限り、好奇心の赴くままにソビエトの宇宙船を鑑賞します。

苫小牧の周辺にはいくらでも見るものがありますので、その気になれば一週間ぐらい楽しめます。

時刻が10時過ぎぐらいになると、ようやくフェリーの通常運行が告知され、これを持って当日の船での帰還が決まりました。

いよいよ北の大地を離れる瞬間が近づいてきます。

正午過ぎに苫小牧港を訪れてみると、仙台行きの船に乗り込む二輪車が駐車場に隙間なく並べられていて、フェリーターミナルも混雑気味でした。

苫小牧航路のフェリーは出航の3時間近く前から乗船手続きが始まります。

自転車や二輪車、自家用車の場合には貨物室への車両の積み込みもあるので、出航の1時間から30分ぐらい前が実際の乗船時間です。

車両甲板から自転車を押して船に乗り込み、上階の客室や展望デッキに登って出航を待ちます。このとき、埠頭を見下ろすと、貨物を積み込むトラックの様子が眺められます。

やがて出航準備が整うと、大きな汽笛を鳴らして巨大な船が動き出します。

展望デッキに集まる人につられて、カモメの群れが飛び交い、海岸の釣り人や見送りの人が大きく手を振ります。

予想外が続いた北海道の旅もここでお終いです。

日の出も日の入りも早い北海道では、夕暮れ時の出港時は既に薄暗く、辺りの景色もよく見えなくなっていました。

翌日、目を覚ましたときには、美しい東北の海岸線が拝めました。

温帯低気圧に変わった台風の置土産なのか、帰りの船は行きの船よりも揺れましたが、ベッドに横たわっていると、それが気持ちよくて良すぎるぐらいに良く眠れました。

おかげで水平線から浮かび上がる日の出を見逃すことになりましたが。

日の出と船の南下によって、気温と湿度はじっとりと上昇し続け、窓越しに見える岸辺の起伏が徐々に平坦になります。

徐々にカモメに群れが近づいてくると、うっすらと防波堤が見えてきました。

着岸したさきの大洗は日差しが強く、焼け付くように暑く感じます。

「まだ夏なんだ」と口にした途端、本州に戻ってきたことを感覚的に理解しました。

記事には書いていませんが、自転車を持って船で北海道に行ったからこそ、さまざまな出会いに恵まれ、なぜか Strava のフォロワーが増え、北海道のツーリング文化に触れるという稀有な体験まですることができたのだと思います。

来年の自分が何処にいるのかは分かりませんが、可能であれば真夏にまた北海道自転車旅に出たいと思います(つぎは後志と道北)。

おわり

苫小牧と胆振を満喫

苫小牧は北海道の海の玄関です。

小樽が日本海、函館が津軽海峡にそれぞれ航路を持っているなか、苫小牧は太平洋航路で八戸、仙台、大洗、名古屋とフェリーで結ばれています。

フェリーは移動中も快適で、ロードバイクなどの自転車や自動二輪車も運べることがメリットです。

その一方で、早朝に到着・出発できる八戸便を除くと、どうしても到着や出発の時刻が中途半端になってしまうというデメリットがあります。

ただ何もしないのも「もったいない」ので、この時間で苫小牧や胆振(いぶり)地方を楽しむ方法を考えました。

到着 出発
八戸 1:30 5:00
6:00 9:30
16:00 21:15
20:15 23:59
大洗 13:30 18:45
仙台(経由)名古屋 11:00 19:00

わりと見落とされがちですが、苫小牧からわずか 26km の支笏湖も支笏洞爺国立公園に指定されている名勝です。

二輪車、あるいは自転車で復路は輪行することを前提とするなら 60km 離れた登別温泉や倶多楽湖も十分に目的地になりえます。

近くにあるオロフレ峠は「大観望」と呼ばれる知る人ぞ知る絶景峠です。

そして苫小牧の隣町の白老は黒毛和牛の産地で、牧場に行くとファームレストランで極上のステーキやハンバーグを頂けます。

北海道物産展の開催中は新宿でも頂けるわけですが

生憎の雨天の場合も新千歳空港(列車でおよそ30分ぐらい)まで足を伸ばせば、温泉や映画館まで備えたターミナルビルがあります。

私が5年ぐらい前に訪れたときは、出発地の関西空港よりもターミナルビルが立派で、どちらの方が大きな都市か分からなくなったほどです。

さすがに改装で巨大化した羽田空港には及びませんが、成田空港とはいい勝負になると思います。

最後に苫小牧が誇る科学センターです。

苫小牧という港湾工業都市&北海道という巨大自治体の地力が窺い知れる市立博物館です。




展示内容はあのドイツ博物館と比較しても決して悪くないどころか、展示資料の価値と博物館の規模は「無料の市立博物館」としては有り得ないと言い切れる素晴らしさです。

なにしろ、ここの展示品は本物の宇宙船(の予備機)や宇宙開発に関連する歴史的資料、初期の国産赤道儀など、世界中でここでしか見られない貴重なものばかりです。

蒸気機関車やヘリコプターの実物を内部見学できるのも魅力です。

海外の博物館でも展示だけで搭乗はできなかったり、内部はアクリル板で敷居がされていて操縦席の近くには立ち入れなかったりするので、ここまで自由に内部を見学できるところは滅多にありません。

この展示内容であれば 1,500 円まで入館料を支払っても全く惜しくないと思えました。

入館料は求められなかったので、道外客の私は入館料がわりに苫小牧の地元企業に勝手にお金を落とします。

こちらはハスカップスイーツ『よいとまけ』で有名な三星さん。焼きたてのパンに拘られていて、店内にいると焼きたてのパンを教えて頂けます。

それから名物のホッキ貝と名物食堂。

私はアレルギーで海産物は食べられないので、焼きそばでも食べようかと思いましたが、訪問時はお盆休み中でした。

それから、なんと言っても王子製紙です。

街中を散策していると、苫小牧は王子製紙と出光興産の街だと一目で分かります。

事前に予約すれば工場見学もできるそうですが、私はフェリー出航前の時間をつかって遊んでいるだけなので、系列のホテルとレストランの利用に留めておきました。

グランドホテルニュー王子の施設内には土産物店もあり、苫小牧だけではなく北海道全域のお土産の取り扱いがあります。

いろいろ見ていくと、じつは見どころに溢れていて、大洗行きの出航時刻(18:45)が調度いいぐらいの時間が過ごせます。

真夏の北海道自転車旅 (11) 富良野の再会そして台風の足音

道内でもっとも標高の高い道路である十勝岳を登り終えても、今回のライドはそれだけでは終わりません。

「美瑛」や「富良野」と言った場合、通常は十勝岳のような本格的な山岳道路は含まれず、『四季彩の丘』や『新栄の丘』といった丘陵地帯の一面の花畑を意味していることが多いです。

せっかく伺ったのですから、こちらにも立ち寄らないわけには参りません。

自転車の速度で走り抜けてみると、美瑛の起伏の激しさ、空に続いていくかのような上り坂、高台の上から見渡す素晴らしい展望が本当によく見えます。

ヒルクライムに慣れていないと大変かも知れませんが、二輪車乗りの方が絶賛されるのも納得の光景です。




『四季彩の丘』を超えると長い下り坂を経て、富良野盆地に入ります。

美瑛から富良野は位置的にも隣同士ですが、景観的にも統一感があって一体に見えます。

しかし、ここで驚いたことには富良野は空知郡、上川盆地の南に位置する美瑛とは成り立ちが違うようです。

空知と言うと石狩平野の北東にある砂川とか滝川とか深川 — 神奈川県で例えると県央の町田と県西の小田原のあいだの「県民でもあまり知らない」市町村がいっぱいあるところ、つまりは札幌都市圏の辺縁、石狩、道央という印象を持っていたので、夕張山地の東側の富良野まで空知というのは、少しばかり驚きでした。

足柄峠と湖尻峠と箱根峠の東側は神奈川県なのに、熱海峠の東側だけは静岡県みたいなものでしょうか。

気候にも差があり、富良野盆地は快晴で低湿であっても、石狩平野の岩見沢まで行くとむせかえるほど多湿で暑かったりすることもあります。

このときは台風の影響もあってか、岩見沢で一気に気温が 10℃ 近くも上昇し、長袖のサイクルジャージを着ているだけで汗が滲み出てくるほどでした。

ここに至るまで気温は 10℃ から 18℃ が当たり前になっていて、毎日、長袖ジャージにインナーを重ね着していたところ、岩見沢から気温 28℃ 超が普通になってしまい、夏服の現地調達まで考えねばならなくなりました。

ところで富良野には、どうしても行きたい場所がありました。

北海道産の食材を使ったイタリア Restaurant & Pension La Collina です。

中富良野のラベンダー畑の近くにある評判のお店で、絶品のイタリア料理と一緒に名産の富良野メロンや富良野ワイン、自家製のヨーグルトが頂けます。

口コミでの評判も良く、富良野を訪れることに決めた時点で、食事と宿泊は「ここしかない」と思いました。

事前に連絡すると宿泊時に自転車も室内に置かせて頂けました。現地で出会ったツーリストのおすすめ情報に間違いはありません。

ここで数日ぶりに丹下さんとも再会します。

美幌峠で分かれて以来、なんでも快晴の知床峠を無事に攻略してから、自走で石北峠を越えて来られたのだとか。

この短期間に道東縦断に加えて、羅臼から旭川まで 300km の道東横断まで成し遂げてしまわれる行動力をあらためて尊敬してしまいました。

北見から石北峠を越えて旭川に至る経路上には、層雲峡などの見どころがあり、大雪ダムのダムカードも回収されていて、なかなかに楽しそうでした。

美味しいイタリア料理とペンションを堪能したあとは、輪行で苫小牧まで一気に進みます。

函館方面の特急の運休やフェリーの欠航が報道されるなか、道東よりも 10℃ 高い気温と台風の起こす強烈な南風(つまり逆風)を受けながら、自転車を漕ぐのも辛いものがあります。

加えて、海沿いを走る室蘭本線と国道 5,36,37 号線が台風によって仮に被災した場合、函館までの移動手段がなくなってしまう懸念もありました。

現段階では新幹線をつかう予定は無いにしても、船や飛行機の運行状況を知るためにも早いうちに道央に到着しておいた方が良いという判断です。

長らく続いた北海道自転車旅も、いよいよ終わりを迎えようとしています。

つづき

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